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【バレーボール】日本男子が這い上がった7つの理由。バレー記者・中西美雁の目

ネーションズリーグ(VNL)で3位に入ったバレーボール日本男子(VNL公式サイトより)
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日本の男子バレーは近年、ぐっと強くなった。2023年にはネーションズリーグ(VNL)※1で3位に入り、大きな世界大会では実に46年ぶりのメダルを獲得した。長い低迷期をへて、なぜ、這い上がれたのか。2024年パリ五輪予選は女子(~9月24日まで)に続き、男子は9月30日~10月8日に開催される。上位2カ国がパリ切符を獲得する大会を前に、バレーボール専門Webマガジン「バレーボールマガジン」を主宰する中西美雁が「強さの理由」を解説する。

目次

2021年東京五輪。29年ぶり勝利、ベスト16

女子バレーが2012年ロンドン五輪で銅メダルを獲得し、一躍脚光を浴びたのとは裏腹に、男子バレーは低迷が続いていた。主な戦歴は以下のようになる。
※1:FIVBバレーボールネーションズリーグ:FIVB(国際バレーボール連盟)が2018年から開催する国際大会。男子のワールドリーグと女子のワールドグランプリを発展的に統合。

大会戦歴
1992年バルセロナ五輪6位入賞を果たす。
2008年北京五輪16年ぶりの五輪出場を果たすが、本大会では1勝もできないままとなり、五輪最終予選で盛り上がった機運は一気に冷めてしまった。
2012年ロンドン五輪未出場。世界最終予選で敗退。
2015年ワールドカップ※1「NEXT4※2」と名付けられた新戦力が健闘し、順位も6位と過去の大会よりもかなり健闘した。男子バレー人気はふくれ上がり、臨時で発行されたムックは12冊以上にのぼった。
2016年リオデジャネイロ五輪未出場。ロンドンに続き世界最終予選で敗退となった。2015年のブームはあっという間に去った。
2021年東京五輪開催地枠での出場ではあったが、29年ぶりに勝利を挙げ、そのまま予選ラウンドも突破した。予選ラウンドでは長らく世界の覇者をポーランドと競り合ってきたブラジルが待ち構えており、ストレートで敗れた。
2022年世界選手権予選グループを突破。だが開催国であるスロベニアが優遇され、東京五輪王者のフランスと決勝トーナメント初戦で当たることになってしまった。日本は奮闘したがフルセットで敗れ、ベスト16で終わる。
2023年ネーションズリーグ(VNL)連勝し、いち早くファイナルラウンド出場を決めると、スロベニアにストレート勝利でベスト4に進出。地元開催のポーランドには敗れたが、3位決定戦でイタリアにフルセットで勝利し、銅メダル獲得。

※1:2023年9月に開催される大会とは少し違う
※2:日本バレーボール協会が2015年につくった男子バレーボールのユニット。石川祐希、柳田将洋、山内晶大、高橋健太郎。

理由1:石川祐希、イタリア8年の成長

石川祐希
ネーションズリーグ名古屋大会、対イラン戦での石川祐希=2023年6月(VNL公式サイトより)

強くなった理由は複数ある。まず最初にあげるべきなのは、やはり石川祐希の存在だろう。高校生時代から史上最多の6冠を果たし、中央大学でも1年時にインカレで18年ぶり優勝に導き、3連覇を果たした。大学1年のときにシニア代表に抜擢され、同じ大学生だった柳田将洋と2014年アジア競技大会でシニア代表デビューを果たしている。このとき日本代表は2013年度に世界選手権の出場権を初めて逃しており、A代表がアジア競技大会に出場する異例の事態ではあった。NEXT4にももちろん選ばれ、石川単体や柳田とのツーショットがいくつもの雑誌の表紙を飾った。

大学1年、強豪モデナで控え経験

大学時代の石川はバレーセンスがあり、身体能力も高く、勝負どころでも強いという特性をすでに持っていた。しかし体はまだ細く、サーブレシーブもあまり得意ではなかった。アジア競技大会で石川と柳田は格下とあたる予選でリリーフサーバーとして出場した。

日本代表の南部監督(当時、2014‐2016年)は彼らに経験を積ませることを考え、普通であればリリーフサーバーはそのサーブ権のプレーが終わればまた交代してベンチに戻るのが慣例だが、二人についてはそのまま後衛で使い続けた。準々決勝でインドとフルセットになったとき、石川が第4セットのスタートから起用されサービスエースも何本もとり、攻撃でも貢献し、逆転して勝利をモノにした。

代表でも大学でもフル出場していた石川はケガが多く、リオ五輪OQT(五輪予選)でも足を故障したが、そのままコートに立ち続けざるを得なかった。「当時のことは今はあまり覚えていない」と彼は言う。

大学1年だった2014年の秋、イタリア・スーペルリーガ(一部リーグ)の強豪モデナから要請され、チームの一員としてプレーした。このときの経験は彼に多くの変化をもたらした。日本ではトップの中のトップ選手だったが、モデナでは控えに甘んじた。彼のバレー人生の中で初めてのことだった。そしてリオ五輪OQT敗退を経て、石川はイタリアリーグに挑戦し続けた。国内チームが争奪戦を繰り広げたが、石川は大学卒業後は直接イタリアのチームと契約し、プロ選手となった。以降ずっとイタリアリーグでプレーし、2022シーズンはミラノで首位のペルージャを破り、ベスト4を決めた。

2021年から主将、チームけん引

ネーションズリーグ名古屋大会では、セルビアに逆転勝ちした=2023年6月(VNL公式サイトより)
ネーションズリーグ名古屋大会では、セルビアに逆転勝ちした=2023年6月(VNL公式サイトより)

代表でも2021年、主将に就任。それまではどちらかといえば内向きに頑張る性格だったのが、積極的に周りにも声をかけ、チームとして強くなる方向に切り替えた。そして、石川だけでなく髙橋藍や大塚達宣といった同じポジションの若手が台頭したこと、NEXT4にも入っていた山内晶大や髙橋健太郎、石川と同期の小野寺太志ら2メートル台の大型ミドルブロッカー(世界では大きくはない)が成長したこと、175㎝と低身長のハンディを乗り越えた関田誠大が正セッターとして素晴らしい成長を果たしたこと。相手スパイカーが最も嫌がるという「スパイクレシーブ」をきれいにあげるリベロの山本智大の着実な活躍があったこと。すべてのピースがはまって、今結果を出しつつある。

2023年ネーションズリーグ男子大会直前に世界ランキング首位のポーランドと親善試合があった。1日めはフルセットで勝利。2日めは肘に痛みがあった石川が抜け、1‐3で敗れた。親善試合は色々な選手や戦術を試しながら行うもので、勝敗それ自体にはそれほど意味はないが、それでも2日とも見ていてわかったのは、石川だけで勝てるわけではもちろんないけれども、勝つためのカギとしてなくてはならない存在だということだった。

理由2:石川の対角・高橋藍、攻めの幅広げる

ネーションズリーグ名古屋大会、対ブルガリア戦の高橋藍=2023年6月(VNL公式サイトより)
ネーションズリーグ名古屋大会、対ブルガリア戦の高橋藍=2023年6月(VNL公式サイトより)

しかし、もちろんバレーはチームスポーツなので石川一人が飛び抜けていても勝てない。今のA代表のメンバーはそれぞれ一人ひとりがすばらしい力を持ち、チームを作り上げている。例えば石川の対角でアウトサイドヒッターの髙橋藍(らん)。東京五輪でもすでにアンダーカテゴリを含めて代表が初めてとは思えないほどの守備力を発揮していたが、2シーズンにわたるイタリアリーグ挑戦(2021-2023年)によって、確実に前衛での攻撃のコースも広がった。もとからクロスに打つのは得意だったが、さらにインナーに切り込んだり、ストレートにも打ち分けるようになった。それで司令塔の関田誠大の信頼も得ることとなった。サーブレシーブやディグはもちろんのこと、つなぎが非常にいい。数字に出ないところで大きくチームに貢献している。

理由3:リベロ山本智大、VNL3位に貢献

ネーションズリーグ名古屋大会、対イラン戦での山本智大=2023年6月(VNL公式サイトより)
ネーションズリーグ名古屋大会、対イラン戦での山本智大=2023年6月(VNL公式サイトより)

守備といえばリベロの山本智大も大きな貢献を果たしている。3位に入ったネーションズリーグ(2023年)の個人賞で、ベストリベロはポーランドのリベロだったが、本当は山本だったと思った人は多いと思う。筆者もその一人である。数字でもベストディガーとしてトップの成績を誇った。ただ、石川がすでにベストアウトサイドヒッターに選出されていたため、3位のチームから複数選出するのが難しかったからなのでは…という大人の事情が推察された。MVPプレゼンテーターがブラジルのレジェンドリベロ・セルジオだったこともあり、優勝チームのリベロがMVPという流れになったのだろう。

山本はもともとディグ(スパイクレシーブ)型のリベロだったし、オーバーでセットができないという弱点もあった。しかし、小川智大というライバルが常に帯同することから、慢心することなく成長を続け、サーブレシーブも拾えるようになり、オーバーセットでトスを上げることもできるようになった。2023シーズンからパナソニックパンサーズでプレーするが、非常に楽しみなリーグとなる。

理由4:175㎝セッター・関田誠大、無二の存在

ネーションズリーグ名古屋大会、対フランス戦での関田誠大=2023年6月(VNL公式サイトより)
ネーションズリーグ名古屋大会、対フランス戦での関田誠大=2023年6月(VNL公式サイトより)

セッターの関田誠大も努力に努力を重ねて世界レベルのセッターとなった。身長が175cmしかなく、おそらく世界の代表の中で最小のセッターだろう。高校時代には柳田将洋にトスを上げて日本一をとり、中央大学時代は石川祐希にトスを上げて日本一となっている。最初のチームパナソニックでは控えに甘んじたが、代表に抜てきされ、現在代わりのいない存在としてチームを操っている。トス回し、トスの質、ディグ、サーブ、全てが世界トップレベルだ。とりわけサーブレシーブが乱れたときも体をひねって跳びながらミドルやパイプにあげるのは彼ならではの特長で、ブラジルのブルーノレゼンデやフランスのトゥニッティなど世界トップと比べても引けを取らない。

理由5:ミドルブロッカー3人、世界水準に

ネーションズリーグポーランド大会、対スロベニア戦での山内晶大(6)=2023年7月(VNL公式サイトより)

ミドルブロッカー。長らく日本の弱点と言われてきたが、小野寺太志、山内晶大、髙橋健太郎がようやく世界水準まで成長してきた。これまで使い続けてきた所属チームと代表首脳が我慢比べに勝ったといえよう。山内は攻撃型で高い位置からクイックを決める。1枚コミットがついたくらいでは気にせず決めきる。バスケからの転向組で、当初は「素人くさい」と批判されることも多かったが、とにかく大きなケガをしなくて、安定して力を発揮できる。計算できる選手だ。サーブでも実は山内のところでブレイク(連続得点)することが多い。小野寺はブロックも攻撃もバランスが取れたミドル。「“石川世代”とは言われたくない」というプライドも持ち合わせている。髙橋健太郎は最もフィジカルではポテンシャルがあるが、残念ながらケガが多い体質で、五輪メンバーからも外れた。家族に励まされてバレーを続けたという彼がパリ五輪で輝くのを期待したい。

理由6:ブラン監督、コーチ時代から8年指導

ネーションズリーグ名古屋大会、対イラン戦でのブラン監督=2023年6月(VNL公式サイトより)
ネーションズリーグ名古屋大会、対イラン戦でのブラン監督=2023年6月(VNL公式サイトより)

そして、このチームづくりは現・代表監督のフィリップ・ブラン氏が実質8年計画で続けている。ブラン氏はポーランドが2018年世界選手権で優勝したときにコーチとして貢献した業績があった。前・代表監督の中垣内祐一氏は「対外的なスポークスマンとブランコーチと選手とのパイプ役」に徹し、コーチのブラン氏に戦術・育成を委ねた。私は以前ある監督に「監督というのは、就任したらまずは前の監督の匂いを消そうとするものです」と言われ、なるほどと思った。東京五輪前からすでに戦術・戦略的な意味では代表の指導者であったブラン氏にはそのようなアクションを行う必要はなく、長期的な目を持って指導、育成ができた。

日本男子は以前、史上初の外国人監督を招へいしたが、残念ながら彼は結果を出せなかった。そのため短期で南部正司氏に変わったが、南部氏が果たした役割も大きい。南部氏が監督就任した当初、「日本人同士で紅白戦をしていてもだめなんですな。海外はもっと大きいですから」とコメントされていて、正直「え、いまさら?」と思ったのだが、南部氏はそこで立ち止まらなかった。有望な若手を集め、海外に派遣して海外の高さになれさせようとしたのだ。その試みは彼が強化委員長となった今も続けられ、若手選手たちが高さ慣れすることに役立っている。

女子チームは、男性コーチ、男性スタッフが打ちやとブロックの相手を務めることで、対海外の高さやパワーになれることができる。しかし、男子はそれができない。ならば、と即断してこれまでずっと海外遠征を多く行ってきた。A代表もB代表も有望若手合同チームも。ブラン氏のつてももちろんあるだろうが、南部氏の協会内部での働きかけも大きかったと考えられる。

理由7:海外組増え、Vリーグもグローバル化

ネーションズリーグ名古屋大会、対イラン戦での西田有志=2023年6月(VNL公式サイトより)
ネーションズリーグ名古屋大会、対イラン戦での西田有志=2023年6月(VNL公式サイトより)

石川がラッキーだったのは、大学1年からイタリア一部リーグに参加できたことだろう。在学中から2年時を除き毎年参加し、大卒後日本のリーグに所属せず、直接イタリアリーグのチームでプロ選手となった。私の知る限り、代表の主力選手でこのような経歴を持つのは彼だけだ。以前は海外でプレーすることが忌避されたが、ちょうど機運が変わったのだ。そして彼と時を同じくして、またはあとに続いて、多くの有力選手が海を渡った。柳田将洋、古賀太一郎、本間隆太、関田誠大、宮浦健人、西田有志など。そして海外の選手は「おそるべき存在」から通常のチームメイトであり対戦相手となった。元日本女子代表の木村沙織さんが海外リーグに挑戦したあとも同じことを言っていたが「海外の選手に慣れる。怖くなくなる」というメンタルの変化も大きいのだろう。

また日本のVリーグにも世界選手権連覇のポーランドで主将を長年務めたミハウ・クビアクをはじめ、ロンドン金メダリストのドミトリー・ムセルスキー(ロシア、218cm)、バルトシュ・クレク(ポーランド現主将)といった世界のトップ選手が集まるようになり、リーグのレベルも上がったことで、海を渡らずともハイレベルなプレーに日常から触れることができるようになった。

番外:漫画「ハイキュー‼」人気も後押し

ネーションズリーグフィリピン大会、対オランダ戦で日本を応援する地元ファン=2023年7月(VNL公式サイトより)

最後に忘れてならないのは、漫画・アニメで世界中の人気となった「ハイキュー!!」というコンテンツだ。右下がりだった男子競技者が下げ止まり、世界中で人気となったため、フィリピンやタイなどでは日本以上に、日本代表チームの人気はものすごい。髙橋藍選手などはSPがつけられたほど。フィリピンでは自国が出場しないのにネーションズリーグの大会が行われ、日本戦では熱狂したファンが声援を送った。代表の選手たちもほぼハイキュー!!の愛読者で、そこに出てくるトリッキーなプレーも実際の試合で取り入れている。

ネーションズリーグでも快進撃を果たしたが、男子は地上波での放映がなかった。今月30日から代々木第一体育館で開幕するパリ五輪予選ワールドカップバレーでは、フジテレビで日本戦全試合がゴールデンタイムで生中継される。久々の男子バレーを地上波で楽しんでほしい。男子がワールドカップバレーで五輪出場権を獲得する確率はかなり高いとにらんでいる。

チケットは発売後即完売になってしまったのだが、フジテレビのほかTver、VBTVなどで配信がある(VBTVは有料。海外同士の試合も見られる)。今最も乗っている男子バレーをぜひリアルタイムでご覧いただきたい。

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