競泳の数ある種目の中でも総合力、万能性が問われる個人メドレーで驚異の世界新記録が出た。福岡市で開催されている世界水泳、2023年7月23日の男子400m個人メドレー決勝。21歳のレオン・マルシャン(フランス)が4分2秒50の世界新記録をたたき出し、「怪物」と呼ばれたマイケル・フェルプス(米)が保持していた最古の世界記録(当時)4分3秒84を15年ぶりに更新した。マルシャンは7月26日の200mバタフライ、7月27日の男子200m個人メドレーも制し、今大会3冠目。地元フランスで開催されるパリ五輪で、注目選手の大本命に躍り出た。
歴史的レース 200~300m平泳ぎで一気、圧巻
人類の限界に挑む4分あまりの独壇場。マルシャンの歴史的レースをマリンメッセ福岡で目撃できた観客はこのレースを観たことを長年語り継げるだろう。テレビ朝日系列で生中継されたが、見逃した人はぜひ世界水連(World Aquatics)のYoutubeを観てほしい。
マルシャンはバタフライ、背泳ぎとほぼ世界記録ペースで進んでいたが、200~300mの平泳ぎで一気にギアを上げたレースぶりは圧巻。銅メダルの瀬戸大也との差は広がるばかりで、瀬戸はレース後、「パリ(五輪)の金は果てしない。厳しい戦いになると体感した」とコメントした。
「フェルプス」「高速水着」を超えた
従来の世界記録4分3秒84はマイケル・フェルプスが2008年北京五輪でマークした記録だった。フェルプス自体も超人的な泳ぎをしたが、その当時は「水着」も特別だった。
SPEEDO社が開発したレーザーレーサーがその「高速水着」の代表格で、2008年当時はこの水着を着た選手たちが世界記録を連発した。水着には布以外にポリウレタンのパネルが付いていて、身体を締め付ける力が強い分、安定して浮いていられるメリットがあったとされる。
翌2009年には、レーザーレーサーに追いつけ追い越せと、SPEEDO社以外の国産メーカーなども水着開発に力を注いだ、いわば『高速水着時代』へ突入した。
同年に開催されたイタリア・ローマでの世界水泳では、43個の世界新記録が乱発。その後、浮力を得られる「高速水着」の全身スーツは世界水連の規約で禁止となった。つまり、マルシャンの世界記録更新は、高速水着時代のフェルプスの世界記録を超えたことに、一層の価値がある。
マルシャンは世界記録に「クレイジーだ!」と興奮気味だったが、「(自分の)ベストはまだ見えていない」とも語っている。
400m個人メドレーとは 1人でバタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、自由形の順で100mずつ泳ぎ、合計400mのタイムを競う種目。スイマーとしての万能性、総合力が求められる。
レオン・マルシャン フランス・トゥールーズ出身。専門種目は個人メドレー、バタフライ、平泳ぎ。父は1988年世界水泳200m個人メドレー銀のザビエル・マルシャン、母は元五輪フランス代表のセリーヌ・ボネットの競泳一家で育つ。東京五輪は400m個人メドレーで決勝進出し、6位だった。東京五輪後に米・アリゾナ州立大を新たな拠点とし、フェルプスを指導したボブ・ホフマンコーチに師事し、目覚ましい成長を遂げた。187センチ、77キロ。
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