サッカー日本代表(FIFAランキング19位)は2025年10月14日、東京スタジアムでブラジル代表(同6位)と国際親善試合(キリンチャレンジカップ2025)を行い、3-2で史上初勝利を収めた。これで対戦成績は1勝2分11敗。14試合目にして日本はブラジルに初白星をつかんだ。2026年に開催される北中米ワールドカップに向けて、この歴史的な試合が持つ意味について解説する。
ブラジルが2点リードを逆転されるのは73年ぶり
試合は、26分にパウロ・エンヒキ、32分にガブリエウ・マルティネッリに得点されブラジルに前半から2点リードされた。一瞬スタジアムは重苦しい雰囲気になった。しかし、52分に南野拓実が1点を返すと、その勢いのまま62分に中村敬斗が追加点、そして71分に上田綺世が逆転弾を決めた。
ブラジルが2点リードから逆転負けを喫したのは1952年ヘルシンキ・オリンピックの西ドイツ代表戦以来だとして、日本の勝利が海外でも大きく報じられた。
2試合連続得点を決めた上田綺世だが、その2ゴールは、いずれも試合終盤の重要な局面で決めたものだった。所属するフェイエノールト・ロッテルダムでの好調ぶりを日本代表でも発揮している。
日本の1点目は南野拓実がインターセプトから得点したもので、2点目、3点目をアシストしたのはいずれも伊東純也だった。中村敬斗とはスタッド・ランスで2シーズンともにプレーした仲で、10月10日のパラグアイ戦でも絶妙のコンビネーションを見せていた。
森保監督は結果にこだわりテスト封印
森保一監督は北中米ワールドカップ出場が決定してから、待ってましたとばかりに実験的な采配を繰り返してきたが、ブラジル戦ではテストを封印。結果にこだわって試合に臨んだ。
試合前には、引いて守るのか、真っ向から打ち合うのか予想がつかなかったが、勝ったことがない相手に引いて守って、勝てる可能性を高める堅実なゲームプランを組むことを決断した。そして見事に最高の結果を手繰り寄せたのである。
しかし、試合内容を振り返ると危険な状況で、一つ間違えば大敗してもおかしくはなかった。早々と2失点を喫すると後半には180度方向転換し、前線からハイプレスを仕掛けて、それが結果的に相手ディフェンスラインでのパスミスを誘発して日本の1得点目につながった。これは積極的に前に出ていったというよりは、戦況を鑑みて前に出るしかなくなったと言う方が正しいだろう。
しかし、日本が本気で前に出ていくとサッカー王国ブラジル相手にも凄まじい破壊力を発揮することが証明された。このブラジル戦の大金星が、北中米ワールドカップで強豪国と対戦する際のモデルケースになるのではないだろうか。「ブラジル戦を思い出せ」と言えば、チーム内で共通認識を瞬時に持つことができる。(下に記事が続きます)
カタールW杯ドイツ戦の奇跡再び
森保一監督は立ち上がりからアグレッシブにプレスに行くように指示を出したが、想定していたよりも早く、引いた守備へと移行した。そこには想像以上のブラジルの圧力があった。
思い起こすと、2022年カタールワールドカップで劇的な勝利を収めたドイツ戦とも重なる。前半にドイツに先制点を決められたが、日本は後半に2点を決めて逆転することに成功した。この試合でも、アグレッシブに試合に入ったがドイツの圧力を感じて選手たちの判断により、早めにプレッシングを止め守備に移行したと森保一監督は振り返る。
森保一監督は、強豪国に勝利するための心がけや選手への働きかけについて「相手へのリスペクトと我々が謙虚に学ぶ」とし、選手たちには「同じ目線で勝つために戦うという気持ちを持って挑む、そこから相手がどう出てくるかを見極めて何ができて何ができなかったのか考えること」と「全力で戦うこと」の2つは常に言っていると試合前日の記者会見で述べた。
森保ジャパンに秘策はあるのか
勝利にこだわって「しっかり守備をして良い攻撃、速攻につなげていく」というのが強豪を相手にした時の森保ジャパンの基本的な戦い方だ。
カタールワールドカップと今回のブラジル戦の勝利を対戦国は間違いなく研究してくる。森保一監督の手の内は完全に透けて見える状態になっている。強豪国を次々と撃破している日本を以前のように軽く見る風潮は「期待できない」状況になっている。
そんななかでも日本は勝利を収めることができるのか。もしくは森保一監督は新たな秘策を温めているのだろうか。(下に記事が続きます)
3トップの強豪国にも3センターバック
ブラジル戦で日本は守備偏重のシステム「5-4-1」を組んだ。3トップに対して3センターバックは両サイドを突かれやすいという脆弱性がある。森保一監督は4バックにするのではなく、両ウイングバックを後方に下げて対応し、これまで採用してきたシステム「3-6-1」と大きな違いはない。
3バックや5バックはブラジルのように、センターフォワードとウインガーを置く3トップに対しては守りづらさがある。格下相手にマンツーマン・ディフェンスをするならまだしも、個人能力が高いブラジルの3トップに対して3バックが対応するのは負荷とリスクが高すぎる。そこで日本は4バックにして左右サイドのスペースを埋めるのではなく、5バックにすることを選択した。
その結果として、ディフェンスラインで日本の選手が2人余るかたちとなり、ブラジルはさらに多くの選手が前に出てきた。そしてブラジルは華麗なパスワークをしながら前線の選手と中盤の選手がポジションチェンジを行い、日本の選手はものの見事に釣り出されて、5人いたはずがスペースを突かれて失点を喫した。
再建途上、実験段階だったブラジル
前半は引いて耐え忍んで、後半に勝負に行くかたちになった。しかし引いて守って2失点という借金はブラジルという大国を相手に返すには、あまりにも重くのしかかる。ブラジルが2ゴール先制して逆転されたのはこの試合が史上初のことだ。ワールドカップ本大会では、できることなら0-0か0-1で耐え凌ぎたいところだ。
今回の対戦が親善試合だったことも割り引いて考える必要がある。ブラジル代表は昨今、調子を落としておりカルロ・アンチェロッティ新監督が就任して間もなく、再建の真っ直中にある。10月10日に5-0大勝した韓国戦に続くアウェイ2連戦で先発メンバーを8選手入れ替えて日本戦に臨んできた。本気で結果にこだわった日本に対して、ブラジルは実験段階でありテストマッチ的な意味合いがあった。公式戦で対戦することになったら、ブラジルはまた異なった表情をしていることだろう。
日本はこの勝利に自信を持っていいだろう。とはいえブラジル代表の層は厚く、実力があることに変わりはない。日本代表の選手層は厚くなってきており誰が出場しても戦力が大きく落ちるようなことはないが、ブラジルはさらに層が厚い。
日本代表は次戦の国際親善試合(キリンチャレンジカップ2025)を11月14日、午後7時20分キックオフで、豊田スタジアムにて行う。対戦国は未定。


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