サッカー日本代表キャプテンの遠藤航が所属するリヴァプールFCが、2024-2025シーズンにイングランド・プレミアリーグ優勝を果たしたにもかかわらず、リーグ史上最高額の移籍金を投入して大量補強を進めている。2位だった冨安健洋のアーセナルFCに勝点10差をつけた最強のチームは、なぜこのタイミングで大物と次々と契約を結ぶのか。
クロップ前監督が勇退、完成されたチームを委ねられた
プレミアリーグを制した2024-2025シーズンを前にして名門リヴァプールでは大きな動きがあった。8年半に渡り指揮をとり名門レッズを復活させたユルゲン・クロップが監督を勇退したのだ。これは成績不振や解任ではなく、精魂尽きての監督業引退だ。遠藤航に白羽の矢を立てて日本でも広く知られるドイツ人の名将は現在、大宮アルディージャも経営するレッドブルのグローバルサッカー部門責任者を務める。
2023-2024シーズンを3位で終えたリヴァプールのデータは、24勝10分4敗・勝点82・86得点41失点・得失点差45。名門として優勝がかなわなかったのは悔やまれるが、強豪ひしめくプレミアリーグで上々の成績を収めた。リヴァプール経営陣はオランダ人のアルネ・スロットに次季チームを託した。
就任した際の主だった補強はイタリア代表FWフェデリコ・キエーザをユヴェントスから1250万ポンド(約25億円)で獲得したくらいだ。他にも引き抜きを目指した選手はいたが交渉が不調に終わったと見られている。プレミアリーグのビッグクラブが新監督を招へいし、新たな体制を始動させるタイミングとしては極めて控えめな補強だったといっていいだろう。(下に記事が続きます)
クロップの基礎に積み上げてチーム移行
8年半で完成されたチームは好成績を収めており、選手たちは前任者への愛着もある。チームをうまく機能させるには選手を総入れ替えするか、既存戦力の人心掌握をするしかない。そして、アルネ・スロット新監督は後者を選んだ。これなら予算も最小限で済む。クロップ前監督が作り上げたチームをベースにしてマイナーチェンジを加えた。そして遠藤の役割は先発からクローザー(終盤に途中出場し試合を締める役割)に変化した。
クロップの遺産を最大限に活用し、チームが拒絶反応を起こさないよう配慮したアルネ・スロットの手腕は実に見事だった。アルネ・スロットは手持ちの駒でチームをつくることを得意としている。リヴァプールのフロント陣の目の付けどころもさすがだったといえるだろう。
そして1年かけてしっかりとチームを見定めて、さらには申し分ない結果も残し、クラブと選手の信頼も勝ち取った上でアルネ・スロット監督が、自ら描くチーム作りに本格着手した。それが、このタイミングでの大量補強につながったのだ。(下に記事が続きます)
シーズン開幕前、大物選手と続々契約
2025年の夏の移籍市場では、バイエル・レバークーゼンからオランダ代表DFジェレミー・フリンポンを3,500万ユーロ(約70億円)で、ドイツ代表MFフロリアン・ヴィルツをイングランドリーグ史上最高額1億1,600万ポンド(約232億円)で獲得し巷がざわめいた。
そしてアイントラハト・フランクフルトのフランスU21FWウーゴ・エキティケには移籍金7,900万ポンド(約158億円)を用意した。
ハンガリー代表DFケルケズ・ミロシュ獲得にあたっては、AFCボーンマスに支払った移籍金は4,000万ポンド(約80億円)だ。
さらにはハンガリーU21GKペーチ・アールミンをプスカシュ・アカデーミアFCから150万ポンド(約3億円)で獲得。
イングランドU21GKフレディ・ウッドマンは、プレストン・ノースエンドFCから自由契約で加入した。
GKを大量獲得しており、以前に2,900万ポンド(約58億円)で保有権を取得しバレンシアCFに期限付きで留まっていたジョージア代表GKギオルギ・ママルダシュヴィリをリヴァプールに合流させた。その金額もあわせるとシーズン開幕までに選手獲得に費やした移籍金は推定3億0050万ポンド(約601億円)で、前季の20倍以上にもなる。そして、さらなる大型補強も目指すと見られている。(下に記事が続きます)
W杯前の先行投資
主要大会である2026年北中米ワールドカップ後には、活躍した選手が注目を集めて市場価値が上昇する。W杯が終了した2026年の夏には多くの大物選手が移籍や引退をするだろう。このタイミングは動きも多いが、移籍金の相場も上振れする。
ワールドカップは世界のサッカーのトレンドを形成する大きな要素であり、その担い手である旬の選手たちは引く手あまたになる。そのトレンドを先読みして有能な選手を早めに囲い込むことで多くの利益を得ることができるのだ。これは、一般的な投資のからくりと基本的には同じだ。
高額の獲得オファーがあれば売却し、そのままチームに残れば戦力として活躍してくれる。つまり、選手の素質を見る目があり、すでに目星がついているのであれば、2025年は大型補強をするのに丁度よいタイミングということができる。(下に記事が続きます)
遠藤のポジション争いは激化
優勝すれば巨額の賞金も入ってくるし、クラブの信託も得ることができる。タイトルが狙えるチームには選手も加入したいと思うようになる。このように選手獲得に向けて、物事がうまく進みやすい素地が整った。
アルネ・スロット監督は結果を残して、自らが仕事をしやすい環境を整えた。そして成功に安住することなく改革を行い、レッズの新たな黄金時代を築く意気込みだ。現在は、その基盤づくりの真っ最中なのである。
アルネ・スロット監督は前シーズンに遠藤をほとんど先発で使わなかったが、移籍を強いるような素振りは見せなかった。遠藤のクローザーとしての能力とともに、ひたむきな姿勢やチームへの好影響を評価し、タイトルを維持するために重要なピースと考えている。
リヴァプールの大量補強で、遠藤にとってはポジション争いがさらに激化するが臨むところだ。それを承知で残留し、チャンピオンチームでの挑戦を続ける。そして、どう転んでも日本代表にその力を還元することだろう。

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