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【高校野球】”あの夏を取り戻せ”を全面支援 オープンハウスの企業風土

「あの夏を取り戻せ」イベントでシートノックに向かう新潟・中越高校OB
「あの夏を取り戻せ」イベントでシートノックに向かう新潟・中越高校OB=2023年11月29日、阪神甲子園球場で(多田千香子撮影)
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新型コロナの影響で、戦後初めて中止になった2020年夏の全国高校野球選手権の「やり直し」が実現した。2023年12月1日まで阪神甲子園球場などで開かれた「あの夏を取り戻せ 全国元高校球児 野球大会」だ。勝ち負けの「競技性」はない。ただ、夏の甲子園出場の夢を断たれた元高校球児の「甲子園に立ちたい」という4年越しの思いが、野球愛でつながる人々に伝播し、共感を生み、実現にこぎつけた、稀にみる成り立ちの「スポーツイベント」だった。経費約7千万円を寄付や企業協賛で募ったが、球場使用料や全国から700人を集めた選手らの遠征費・宿泊費などのすべてをカバーできたのは、開催の「全面支援」を申し出たあの企業の存在が欠かせなかった。(敬称略)

JR東京駅徒歩1分。歴史ある旧東京中央郵便局の景観を残したJPタワーの20階と21階にその会社の本社はある。

「あの夏を取り戻せ」プロジェクトの「スペシャルナビゲーター」を買って出た戸建て住宅大手のオープンハウスグループ(本社 東京都千代田区、代表取締役社長 荒井正昭)である。

オープンハウスグループと言えば、2023年9月期決算で、売上高が前年比20.6%増の1兆1484億円となり、初の「売り上げ1兆円超え」のニュースが駆け巡ったことは記憶に新しい。純利益も前年比18.2%増の920億円で、過去最高益を更新した。2018年からプロ野球ヤクルト球団のトップスポンサーを継続中。2022年シーズンに⽇本選⼿シーズン本塁打記録の更新と史上最年少での三冠王を獲得した村上宗隆に「3億円の家」を贈呈したことでも話題になった。

目次

企業PRの枠を超えた大型支援

発起人の大武優斗さん(左)と握手する元ヤクルトスワローズ監督・古田敦也。同イベントの公式アンバサダーを務めた

「あの夏を取り戻せ」発起人の武蔵野大学アントレプレナーシップ学部3年の大武優斗(21)らの大会実行委員会の大学生たちを、オープンハウスグループが初めて迎えたのは10月下旬のことだった。大武らは、資金不足で開催できなくなることを危惧した同学部の伊藤羊一学部長らからアドバイスを受け、オープンハウスグループの社員と親交があった教員の紹介を通じて、同社本社を訪れた。大会まで1カ月半を切っていた。それなのに、クラウドファンディングで集まった金額は目標の5分の1にとどまっていることを同社の社員たちはその時に知った。

「高校生活最後の夏に、甲子園を踏む機会を失った選手たちの無念の夏を取り戻そうという、実行委員会の大学生たちから担当部署が、支援の相談を受けました。その大学生たちの想いに共感し、社内ではかなりのスピードで稟議を進めて正式決定しました」と広報グループの前澤智(53)は振り返る。

社長「自分が最後まで面倒みるから」

支援には続きがある。その後、開催まで1カ月を切っても、「資金不足から選手たちの交通費や宿泊費が出ず、参加できない選手がいるという状態」という学生らの訴えは、オープンハウスグループ社長の荒井正昭(58)にも届いた。

荒井自身も群馬県立桐生南高時代は高校球児だった。直接学生たちから思いを聞き、その懸命な姿に心を動かされたという社長は、企業としての支援とは別に、「自分が最後まで面倒を見るから」と、個人としても支援を決めたのだという。「資金不足の心配を払拭し、大会運営、試合に集中してもらいたい」と考え、企業としてのPRの枠を越えた「全面的な支援」を決めた。Pen&Sports[ペンスポ]の推定では、オープンハウスグループと荒井個人で必要経費7千万円のおよそ半分を支えたことになる。

「やる気のある人を受け入れる」風土

「やる気のある人を広く受け入れ、結果に報いる組織を作ります」という企業理念を掲げる同社の「あの夏」プロジェクトへの関わりは、金銭面の支援だけにとどまらなかった。1人でも多くのファンを甲子園に集め、選手らを盛り立てようと、SNSのXのハッシュタグで「#好支援(甲子園)、ぞくぞく。」と銘打って独自の告知作戦を展開した。数十人の社員と社長自らも甲子園に出向き、学生の運営をサポートした。関西支社や西宮など関西の営業センターの社員も動員し、スタンドの一角を埋め、声援を送った。

オープンハウスの「あの夏を取り戻せ」PR
オープンハウスはイベントPRも展開

元球児ならではの発信力

オープンハウスグループ・謝敷正吾さん
オープンハウスグループ社長室所属の謝敷正吾

「1つのことをやるとなったら、会社ぐるみでみんなでそれを達成するという動きになるのがオープンハウスグループ。あの夏を取り戻せプロジェクトの協賛企業のなかでは一番熱量があった企業だと思っています」

精悍な顔つきでそう話すのは入社10年目、社長室所属の謝敷正吾(35)だ。強豪・大阪桐蔭高のスラッガーとして2005年、2006年夏に甲子園出場した。2006年夏には1学年下の中田翔(現中日)とクリーンナップを形成し、1回戦・横浜戦では3ランをバックスクリーン左に放った知る人ぞ知る強打者だった。このプロジェクトを協賛する上で、謝敷がオープンハウスにいる効果は絶大だった。

謝敷は同社の「全面支援」決定の記者会見で協賛の意義をこう語った。

「プロジェクトの全面支援を通じて、できるだけ多くの元高校球児のみなさまがホームインして、なおかつ出場できなかった無念を晴らすことで未来への扉をオープンにし、全力で進んで欲しいという思いです」

野球人として、オープンハウスグループ社員として。謝敷がスポークスマン的な役割をになったからこそ、そのメッセージはスポーツ紙やネットニュースなどを通じて広がった。

17年ぶりに足を踏み入れた甲子園

「あの夏を取り戻せ」イベントで記念撮影する謝敷(左)と元ヤクルト・上田剛史=2023年11月29日、阪神甲子園球場で

謝敷が甲子園の土を踏むのは高3の夏の甲子園に出場した時以来、実に17年ぶりだった。高3でホームランを放ったバックスクリーンが遠く感じたという。

甲子園を沸かせた楽天の田中将大や「ハンカチ王子」として知られた斎藤佑樹と同じ1988年生まれの世代だ。謝敷は大阪桐蔭から明治大学に進み、その後2年間BCリーグの石川ミリオンスターズでプレー後、24歳で現役引退。2014年夏にオープンハウスに入社した。

NPBには行けず、ケガも挫折も経験した。それでも同世代のプロ野球選手からは今でも一目置かれる存在だ。元ヤクルトでYouTuberでもある球友の上田剛史を巻き込んで、「あの夏を取り戻せ」プロジェクトをPRしたのは謝敷だからなせる業だった。

「高校卒業以来、母校の応援にも全然行けてなくて…。自分が出場したころはスタンドに5万5千人入って、すごく高校野球が盛り上がっていた時代でした。そういう意味ではコロナで出場できなかった選手たちには自分と同じような体験をして欲しかったという思いが湧いてきましたね。逆に自分たちは、すごく幸せだったんだなと思えました」

「日本一を目指せる会社」知ってもらえたら

中学硬式チーム「桐生南ポニー」監督としても始動した謝敷

11月29日。甲子園で朝から日没直前まで、各校のシートノックや試合を謝敷は夢中で見ていた。ブラスバンド、チアリーダーも駆けつけた。久しぶりに「野球人」としてささやかな貢献が出来た自負もこみ上げた。

「24歳で野球を諦めてやめて、気持ちが沈んでいった時にオープンハウスに拾ってもらったんです。でもその時、ふつふつと湧き出るものがあったのを覚えています。やる気のある人を広く受け入れる企業理念は、受け入れてもらった自分自身にも当てはまるんです」

取材を受けるために群馬県桐生市から本社までかけつけた謝敷に、「あの夏」プロジェクトの全面協賛の意義を改めて尋ねた。企業ブランディングや採用活動の狙いは「二の次」だと謝敷は言った。ただ、「よくよく考えると、甲子園であの夏を取り戻した学生たちは就職活動を控えている。野球じゃなくても日本一を目指せる会社、オープンハウスっていいなと、1人でも多くの学生たちにもそう思ってもらえたら幸せですね」

甲子園を沸かせたかつての高校球児が、引き締まったビジネスパーソンの表情をみせた瞬間だった。

謝敷正吾(しゃしき・しょうご)1988年、大阪府生まれ。大阪桐蔭高時代、元中日の平田良介外野手や元巨人で現中日の中田翔内野手と強力打線を引っ張り、2006年の夏の全国高校野球選手権1回戦の横浜戦で本塁打を放った。明大、BCリーグの石川ミリオンスターズでのプレーを経て24歳で現役引退。2014年夏にオープンハウスに入社した。営業を6年経験し、現在は社長室勤務兼オープンハウス桐生施設長。荒井正昭社長の母校で廃校になった群馬県立桐生南高の跡地利用、施設運営を推進する。2023年春から中学硬式チーム「桐生南ポニー」の監督として野球指導者としての活動もスタートさせた。

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