バレーボール・イタリアリーグ1部(セリエA)のペルージャを率いるアンジェロ・ロレンツェッティ監督(60)はスターティングメンバーの選手たちと一人ひとり、熱い抱擁を交わしてコートに送り出す。優れた戦略家でありながら、選手から父親のように慕われる包容力の持ち主。ペルージャ就任1年目の2023-2024年シーズンは、スクデット(リーグ優勝)獲得に世界クラブ選手権連覇、さらにスーペル・コッパにコッパ・イタリアも制して4つのタイトルを総なめにした。
そんな名将も2024-2025年シーズンは「試練の1月」を味わった。わずか1カ月の間に4敗した「停滞」をロレンツェッティ監督はどうとらえ、いかにチームを立て直そうとしているのか。ミラノ戦を翌々日に控えた2025年2月14日、ペルージャ・パラバルトンで聞いた。(取材・執筆=原田亜紀夫、通訳=中山久美子)
1月は試練、プロトニツキ回復のいま原点に
ーー昨シーズンは4冠を達成し、ほぼパーフェクトの戦いぶりだったのに対し、今季のペルージャはやや苦労が見える。特に1月。昨秋の開幕から続いた連勝が15で止まり、リーグ戦で2連敗。コッパイタリア準決勝ではヴェローナに足元をすくわれ、CEV欧州チャンピオンズリーグのグループラウンドでもハルクバンク(トルコ)に競り負けた。
ロレンツェッティ監督 昨シーズンは私にとっては本当に素晴らしく、特別な年でした。今シーズンも前半戦はよかったのですが、1月12日のトレンティーノ戦の敗戦から「下り坂」というか、私たちのチームにはいろんなこと(プロトニツキの右大腿二頭筋損傷による離脱など)があって試練が重なりました。しかし、バレーボールは学びを繰り返すスポーツです。一時期、パフォーマンスのレベルは落ちましたけれど、いまはもう原点に戻りつつあります。
ーー練習ではすでにOHプロトニツキがほぼ全力でサーブを打てるまでに回復した。
ロレンツェッティ監督 はい。プロトニツキ、セメニウク、石川祐希という意識も競技レベルも高い3人のレフトがいることが私たちの特徴であり、私たちがゲームを進めることを容易にします。それだけでなく、3人がそろうことで練習の質やレベルも変わってくるのです。故障者も回復してきて、現在の状況に私は満足しています。(下に記事が続きます)
スクデット、欧州CL「しっかり準備できている」
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ーー監督は試合に出場するスタメンの一人ひとりと抱擁を交わしてコートに送り出します。
ロレンツェッティ監督 私がトレンティーノからペルージャに来た昨シーズンから始めました。ペルージャに合流した時、チームの状況があまりよくないと感じたのです。私はチームが変われば、やり方を変えます。がっちりハグをしてからスターティングメンバーをコートに送り出すことでエネルギーが出ます。
ーー監督のメガネも赤のチームカラーのフレームで特徴的です。
ロレンツェッティ監督 これもそうですね。ペルージャに来てからです。2シーズン前までメガネはトレンティーノのチームカラーの青でした。
ーーそのメガネを通して、これから始まるスクデット(リーグ優勝)、CEV欧州チャンピオンズリーグの優勝はいま、どれぐらいはっきり見えていますか?
ロレンツェッティ監督 私たちはしっかり準備ができています。スーペルレガ(リーグ戦)に関しては昨季、優勝しているので経験という意味では優位にいます。ただ他のチームもすごくレベルが高い。私たちは優位にはいますが、一番強いわけではないと思っています。
ーーコッパ・イタリアはヴェローナに競り負けた
ロレンツェッティ監督 残念な結果でしたが、セットカウントは2-3でしたし、チームの名誉を傷つけるような負け方ではなかった。ほんの一瞬だけ、ゲームのやり方を間違えただけです。(下に記事が続きます)
ユーキの100%をプレーに

ーー石川祐希はミラノ時代から出場機会が減っています。彼が常にスタメンを勝ち取るには何が必要でしょうか
ロレンツェッティ監督 フィジカルの強さです。ユーキ(石川)は192cmと身長が低いのでその分、ものすごく高く跳びます。高く跳ぶために体には負荷がかかります。ディフェンスでも時速120キロのサーブを1試合に10本から15本受けてすぐにアタック、そしてディグもする。これは相当な負担であり、フィジカルを鍛えないと耐えられません。
彼はもちろん優れたアタッカーです。でもさらにキャリアを積んでいくためには、もっとフィジカルを強くしなくては。それはパワー、持久力の両方です。バスケットボールのNBAの選手を見てください。日頃からフィジカルを鍛えているので動物のような選手ばかりでしょう?バレーボールも同じです。長い濃厚なシーズンを戦いぬくためには、フィジカルが強くなければやっていけません。ケガもするし、若手にはすぐ追い抜かれることだってあります。
日本人選手には技術がありますが、いま多くの日本人選手がそういう(フィジカルの強さが十分でない)状態です。昨季までモンツァで活躍した高橋藍選手も去年は2度大きなけがをした。ミラノの大塚達宣選手も今季の前半はけがをしていた。これは偶然ではないんです。日本選手はフィジカルの強度が足りない。別に大きくなくてもいいんですよ。フィジカルの強化は1日ではできない。積み重ねです。他の選手もその意識でやるわけですから、常に競争です。レベルの高いクラブ、代表で安定したプレーを続けられる選手はフィジカルが本当に強いという特徴があります。
だから、日本のファンの方がペルージャを応援してくれるのはうれしいのですが、ちょっと彼のエネルギーを奪っちゃうことを心配しています。ペルージャに来たからには、常に彼の100%でなくてはならない。ユーキは日本人にやさしすぎるので。ファンサービスでもノーと言わない。集中してプレーするには邪魔とは言いませんが、練習の時でもいっぱいいっぱいでやっているのだから、落ち着いて、余裕をもって、リカバリーするために頑張ってほしい。彼のエネルギーを100%、バレーにもっていきたいというのが私の考えです。(下に記事が続きます)
「王者」はバチッと決めなければ
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ーー試合の中で、選手にはどれほどの裁量、自由度があるのでしょうか。石川祐希選手は昨季ミラノ時代に比べて、フェイントやプッシュなどかわすプレーが減った印象があります
ロレンツェッティ監督 試合中にどこまで細かく指導するかは時と場合に寄ります。ユーキには、私が「強く打て」と言いました。私はペルージャが相手を攻撃するチームであってほしいと思っています。スクデットを獲るようなチームがフェイントばかりしていてはダメでしょう。昨シーズンのミラノはその前のシーズンよりフェイントが多くなっていた印象がありますね。基本的にはバチっと決めなければならない。ユーキはすばらしいアタッカーなので、しっかり決めなければならないのです。
ーー2025年10月にはサントリー・サンバーズとのエキシビションマッチで来日する。
ロレンツェッティ監督 代表のアンダーカテゴリーの監督として世界選手権に行った1998年以来27年ぶりの東京です。10年前のモデナの時には大阪、広島には行きました。しっかり準備をしていかなければならないし、選手はもちろん全員連れていきますよ。
ただ、世界選手権(フィリピン)の直後で「ストップ」と言いたい選手もいると思います。フィジカル的に無理をさせると、2028年ロサンゼルス・オリンピックまで持たない選手だって出てくる可能性もあります。代表は故障者が出ても替えが効きますが、クラブはそれができないですから。
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コメント一覧 (1件)
フェイント、プッシュが無いこと気になっていました
聞いていただきありがとうございます