4度目の世界選手権で飛躍

ソウバク監督体制で初の公式戦となる2025年11月の世界選手権(オランダ・ドイツ)で、女子日本代表は連敗スタートだった。デンマークに大差をつけられ、続くルーマニアにも敗れた。次のクロアチア戦を落とすと、グループリーグ全敗で、25位以下のプレジデントカップに回ることになる。なんとしても1勝して、メインラウンドに進出したい日本は、ここでチームがひとつにまとまった。GKの亀谷さくら(モルデ/ノルウェー)が阻止率47%と当たり、ライトウイングの秋山が5/5でシュート率100%。2人の大活躍もあり、25-19でクロアチア戦に勝利している。負けられない一戦でパーフェクトだった秋山は、帰国後も上機嫌だった。

「みんな追い込まれて、火がついたんじゃないですか。絶対にメインラウンドに行って、強豪国と経験を積んで帰りたい。技術以上に『絶対に負けない』気持ちがあったから、みんなのパフォーマンスがいつも以上によかった。クロアチア戦は、日本人の強みが生かされた試合になったかな。ソウバク監督は選手それぞれをちゃんと見ていて、選手起用が上手だし、試合の流れもつかんでいるから、とてもやりやすいです」
大会を通じてライトウイングの1番手を任された秋山は、これまでにない出場時間を得た。長く試合に出ると、当然浮き沈みもある。メインラウンドのハンガリー戦では、後半19分20-17のタイムアウト明けに、決めておきたかった7人攻撃でのサイドシュートをGKに当ててしまった。しかし終盤にはサイドシュートで、チームの26点目を挙げた。この試合は26-26で引き分けている。日本は準々決勝進出こそならなかったが、秋山の最後の1点があったから引き分けに持ち込めた。(下に記事が続きます)

ハンガリー戦にも気負わず

ハンガリーで3年間プレーしていた秋山は、ハンガリー戦も特に気負うことはなかったという。
「ハンガリー戦はずっと対戦していた相手だったし、手の内も知っているから、決めてやろうとガチガチになるのではなく、駆け引きを楽しもうかなという感覚でした。この日は確率がよくなかった(3/6で50%)ですが、トータルでは要所で決められました。若い時の世界選手権は『シュートを外したら交代』みたいなマイナスイメージがありました。今回はソウバク監督が使い続けてくれたから、『今外したシュートを、次どうするか』と試合のなかで切り替えができました。外しても、試合のなかで変化して、修正して、取り返すことができたのがよかったかな」
この取り返すイメージが、以前の秋山にはなかった。あたふたとシュートに行って、外したら即ベンチに下げられて、出番がなくなる。特に国際試合では「ちょっと勝負弱い」印象が強かった。ハンドボールは失敗の多い競技だ。どんなに高確率な選手でも、いつも100%で決められない。止められることもあれば、外してしまうこともある。そこで「取り返す力」を見せつけたことが、秋山の大きな成長だった。
ハンドボールは人生の一部

以前、秋山はこんなことを言っていた。
「ハンドボールで優劣をつけたところで、その優劣は引退後の社会で通用しません。私が『ハンドボールで日本代表でした』と言っても、『ああ、そうなんですか』で、世の中終わるんですよ。ヨーロッパに渡って初めて『ハンドボールだけが人生じゃない』と気づきましたし、ハンドボール以外の方が、これからの人生で大事になってくる。ハンドボールは人生を豊かにするための一部であって、すべてではない。ハンドボールだけにとらわれすぎて、人生が崩れるくらいなら、やらない方がいい。その代わりやる時は集中して、全力を尽くす。『趣味』とまで言ってしまったら、ニュアンスが少しおかしくなりますが、ハンドボールを楽しんで、今後の人生の糧にしていきたいですね。将来、子供たちに『こんなことがあったんだよ』『だからスポーツはいいよね』と伝えられたらいいな」
「世界のトップと対戦しました」だけなら「はあ、すごいですね」で終わってしまう。しびれるような大舞台での気持ちの整理だったり、もう一度相手に立ち向かうために己を奮い立たせた経験は、人生を豊かにしてくれるし、ハンドボールを知らない人にも響く。今回の秋山なら、子供たちに伝えられる内容が沢山ある。
「今までの世界選手権の経験が生きました。余裕を持ってプレーできるようになったのが、一番の成長」
そう話す秋山の顔は誇らしげだった。
最後の舞台はプレーオフ

秋山にとって現役最後の試合となったのが、2026年6月のリーグHプレーオフだった。セミファイナルから登場したアランマーレ富山は、ブルーサクヤ鹿児島に長所を消されて、24-31で敗れた。またしてもプレーオフ初勝利はならなかった。秋山自身も角度のないところから打たされる場面が多く、本来のシュート確率ではなかった。
だが、試合後の秋山はさっぱりとしていた。
「負けて悔しいですが、シュートに関しては、打たなくて後悔するよりも、打って外した方がよかったので。『これをやっておけばよかった』みたいな後悔はありません。最後の1年、アランマーレで楽しくハンドボールができたことに感謝したいです。ハンドボールそのものが楽しくないと、勝っても楽しくないし、無理やり勝たされても、やっぱり楽しくない。本当の意味で楽しいハンドボールを教えてもらえたので、アランマーレに来てよかったです。檜木祐穂と兪少延(ユ・ソジョン)、最強のライトバック2人とプレーできたことにも感謝しています。強力な2人がDFを寄せてくれるから、サイドシュートが打ちやすくなりました。自分にとって一番プレーがしやすい環境でした」
ハンドボール好きなまま終われた

最後の1年、秋山の苦しそうな表情をほとんど見なかった。このあたりは、ハンガリーでの3年間で鍛えられたのだろう。
「ヨーロッパに行ったら日本人は誰もいないし、助けてくれる人は自分しかいない。日本だったら、先生や監督が助けてくれる。『お前、これやっとけや』と言ってもらえるから、苦しいなりにもなんとかなる。でもヨーロッパでは誰も助けてくれないから、自分の機嫌は自分で取る。海外に行った3年間が、自分を強く、大きくさせてくれました。そして海外のような空気感のあるアランマーレで、そういったプレーを最後まで表現できて、本当に『ハンドボールっておもしろいな』と実感して終わることができました。それが一番よかった」
ハンドボールを好きなままで競技生活を終える。現役生活最後のミッションはクリアできたようだ。取材の終わりに「人生を豊かに」と声をかけると、秋山はとびきりの笑顔で手を振ってくれた。


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