【ハンドボール】秋山なつみ(アランマーレ富山)引退。最後に輝いた代表活動

アランマーレ富山は福田丈ヘッドコーチを中心に、ヨーロッパスタイルでプレーオフ常連になった=2026年5月
古巣・ハニービー石川を相手に、サイドシュートを放つ秋山なつみ(アランマーレ富山)=2026年1月、金沢市総合体育館で(久保写す、以下すべて)
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ハンドボールのことだけ考えて、苦しむほど努力すれば、いつか必ずうまくなれる――。以前の秋山なつみはそう信じて疑わなかった。しかしハンガリーでプレーして、その呪縛から解き放たれた。日本へ戻ってきた現役最後の2025年、彼女はひとつの思いを胸に秘め、アランマーレ富山を選んだ。

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ハンガリー3年、最後はアランマーレ

アランマーレ富山は福田丈ヘッドコーチを中心に、ヨーロッパスタイルでプレーオフ常連になった=2026年5月
アランマーレ富山は福田丈ヘッドコーチを中心に、ヨーロッパスタイルでプレーオフ常連になった=2026年5月

ハンガリーで3年間プレーした秋山なつみは、31歳になる2025-26シーズンを「ラスト1年」と決めていた。最後の働き場所に選んだのはアランマーレ富山だった。アランマーレはヨーロッパに近いスタイルで、練習時間は短く、その代わり高強度で集中して行う。休養も大事にしていて、いい意味で選手をハンドボール一色にしない。ハンドボール以外の時間を自由に使うことで、選手の人生が豊かになるよう後押ししている。そんなアランマーレの雰囲気が決め手になった。

戦力補強という点でも、秋山の加入はアランマーレにとって大きなプラスだった。ライトウイングの松浦志織がケガしがちで、プレーオフで勝つためにはライトウイングのグレードアップが必要だった。日本代表経験があり、高精度の秋山がライトウイングに入れば、得点力アップが見込める。佐藤美月と秋山の両翼は、2025-26シーズンのアランマーレ富山のストロングポイントになった。(下に記事が続きます)

ハンドボール好きなまま終わりたい

洛北高校の1学年後輩・岩見佳音GKコーチ(写真右/三重バイオレットアイリス)とともに=2026年5月
洛北高校の1学年後輩・岩見佳音GKコーチ(写真右/三重バイオレットアイリス)とともに=2026年5月

現役生活最後の1年を迎えるにあたり、秋山には「ハンドボールを好きなままで終わる」という大きな目標があった。洛北高校(京都)~大阪体育大学~北國銀行(現・ハニービー石川)とエリートコースを歩んできた秋山は、勝つことを宿命づけられたハンドボールしか知らなかった。日本の常勝チームはよくも悪くも「ハンドボールがすべて」で、生活のすべてをハンドボールに捧げるのがよしとされる。勝つことでしか自分が認められないし、ハンドボールだけで優劣がつけられる。それが当たり前だと秋山も思っていたが、ハンガリーでそうではない世界を知った。楽しむことに罪悪感があった秋山にとって、ハンガリーでの3年間は「目からうろこ」の連続だった。苦しかったハンドボールを、もう一度好きになれた気がした。

ハンドボールを好きなまま終わるために、秋山は2025年8月、代表合宿の招集を一度断っている。日本代表で世界選手権に3回出場しているが、シュート精度の高い服部沙紀(ブルーサクヤ鹿児島)の後塵を拝し、たまに出番があったとしても雑に扱われた。代表のキャプテンを任された年に、ベンチ入りメンバーから外される屈辱も味わっている。「勝負の世界は厳しい」「そこから這い上がるのが仕事」と言えばそれまでだが、秋山にとっての代表活動は、苦い思い出の方が多かった。 (下に記事が続きます)

モーテン・ソウバク監督が説得、代表復帰

女子日本代表のモーテン・ソウバク監督(写真中央)と会話する秋山。外国人指導者とのちょっとしたコミュニケーションが、昔から得意だった=2025年11月
女子日本代表のモーテン・ソウバク監督(写真中央)と会話する秋山。外国人指導者とのちょっとしたコミュニケーションが、昔から得意だった=2025年11月

少しかたくなになっていた秋山の心を解きほぐしたのが、2025年7月から女子日本代表を率いるモーテン・ソウバク監督だった。かつてブラジルの女子を世界一に導いた名将は、就任当初から「選手には持って生まれたDNAがある」と言い、選手の生い立ちや個性を否定することなく、ニュートラルな目で選手を評価していた。

秋山は「私は2028年のロサンゼルス五輪には行かない。ロスに向けてのチームを作りたいのであれば、私を代表に呼ばないでください」と言った。しかしソウバク監督は、秋山のバックグラウンドを理解したうえで、ベテランの必要性を説いた。

「目標は2028年のロス五輪かもしれないが、そこまでの道のりは長い。急に若い選手だけになってしまうと、チームの組み立てができない。ノルウェーの女子を見ても、ずっと同じ選手がやっていて、そのなかに少しずつ若い選手が入っている。だから技術的なうまさも大事だが、今までの経験もそれ以上に大事になってくる。そういったベテランの経験を若い子に還元してほしい。今回選ばれた選手がそのままロス五輪まで行くとは限らない。暫定の日本代表候補の枠のなかから、その時その時でいい選手をピックアップしていきたい」

ライトウイング1番手に

代表合宿でのひとコマ。苦手意識のあった7mスローも、任されたからにはしっかりと練習して、世界選手権に臨んだ=2025年11月
代表合宿でのひとコマ。苦手意識のあった7mスローも、任されたからにはしっかりと練習して、世界選手権に臨んだ=2025年11月

運も秋山に味方した。2025年10月の海外遠征で、絶好調だった藤田明日香(ビストリシャ・サナウド/ルーマニア)が大ケガで離脱した。純正のライトウイングは秋山だけになった。もう1人には本職ではない金城ありさ(三市陟庁/韓国)を入れて、右側から大きく回り込んで1対1を仕掛けさせるというのが、ソウバク監督の構想だった。

「(藤田)明日香が絶好調なままだったら、私はここ(代表合宿)にいなかっただろうし、それも含めてタイミングなのかな。私は特別に上手な選手でもないし、年齢も年齢だから、ずっと使える選手でもなくなってきている。そんななかでも選んでもらったからには、期待にはこたえたいし、任された役割を全力で果たしたい。練習を見てもらったらわかるように、ソウバク監督のハンドボールは全員がコートに立つハンドボール。全員に役割があるし、そのために全員が呼ばれている。主力メンバーだけで戦えるほど、日本人にそこまでの体力や能力はないし、世界を勝ち抜くには全員で戦わないといけない。チームが出来上がるまで多少時間はかかるだろうが、そういうメンバー選考をしているなと、私も感じます」

31歳にして初めて、ライトウイングの1番手で迎える世界選手権に、秋山はこれまでとは違う何かを感じていた。 

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