サッカーJ1・FC町田ゼルビアが2025年11月22日、東京・国立競技場で行われた第105回天皇杯決勝で、ヴィッセル神戸を3-1で下して初優勝した。これは大きな節目となるが、1クラブの枠を越えて日本サッカー全体に大きな宿題を突きつけるものとなった。FC町田ゼルビアそしてサッカー界がさらに成長するために必要な事柄について説明する。
市民クラブ発足36年目
試合は6分に左サイドをドリブルで駆け上がった中山雄太のクロスに藤尾翔太がヘディングで合わせ、FC町田ゼルビアが先制(1-0)。
32分には、FC町田ゼルビアが追加点。右サイドからミッチェル・デュークが絶妙なダイアゴナルパスを送ると、走り込んだ相馬勇紀がディフェンスラインを突破して、飛び出してきたGKを外すように左足でゴールに流し込んだ(2-0)。
56分には、パスでの中央突破から中山雄太が左足ミドルシュートを決めてこの日、2得点目。FC町田ゼルビアは、リードを広げた(3-0)。
62分にヴィッセル神戸は、左サイドの佐々木大樹が右足クロスを上げると宮代大聖がヘディングでファーサイドに決め、ヴィッセル神戸は1点を返した(3-1)。
試合はそのまま終了し、ヴィッセル神戸は連覇ならず。FC町田ゼルビアがクラブ史上初となるメジャータイトルを獲得した。(下に記事が続きます)
名将の見立てドンピシャ
決勝は試合開始15分までに必ず動く、という試合前の黒田剛監督の筋書き通りとなった。就任3年目となりタイトル獲得を目標にしていたが、見事に達成した。
Jリーグの監督としては異色のキャリアを持つ。雪深くサッカーが盛んとは言えない東北で、今では名高い青森山田高校サッカー部を、無名から強豪に育て上げた名将だ。しかし、プロリーグでの采配は初めてのことで実力は未知数だったが「負けないサッカー」で旋風を巻き起こした。
プロ選手を雇い興行を行うJクラブでは、魅せるプレーを意識したチーム作りが主流だが、トーナメントで手堅く勝ち上がるような高校サッカーさながらのチーム作りを行い結果を出した。これを快く思わない他クラブのサポーターから、いわれのないバッシングを猛烈に浴びせられながらも、自らが信じる哲学を貫き頂点にまで上り詰めた。(下に記事が続きます)
ヒール役が主役に
FC町田ゼルビアは、ヒール役を演じることとなったが、最終的には優勝で主役をかっさらうこととなった。
黒田剛監督の打ち立てたアンチテーゼは、Jリーグの目を覚ますには十分だっただろう。多様な人材により、日本のサッカーは活性化された。
黒田剛監督は長いコーチングキャリアのなかで、Jリーグでの指揮に必要な指導者ライセンスを取得した。しかし、このサッカー協会のライセンス・システムが人材の流動化を阻んでいる。競技のさらなる発展のためには、指導者ライセンス制度の制限、取得条件の緩和など抜本的な改革が必要だろう。(下に記事が続きます)
勝者の理論を築けるか
これまでFC町田ゼルビアの黒田剛監督は、追いかける側の「弱者の理論」で戦ってきた。今後は、追われる側になるが、それでも守りを固めるサッカーに固執し続けるのだろうか。
堅守スタイルを貫いていると、ファンタジスタといわれるような大物選手の獲得には苦労するだろう。攻撃が大好物で、守備ばかりさせられるチームには行きたがらないからだ。
また守備偏重が、子供世代に果たして響くかどうか。クラブのルーツが、ジュニアサッカーであることを忘れてはならない。
FC町田ゼルビアが真の強豪クラブに脱皮するためには、進化が求められる。そのためには、さらに長い歳月を要することになるかもしれない。
市民クラブが頂点、Jリーグの理念が結実
FC町田ゼルビアは、市民クラブとして発足し36年という月日を経て頂点に上り詰めた。今回の天皇杯優勝は、Jリーグの理念が結実した瞬間でもあった。
少年サッカーが盛んな東京都町田市で、小学生の選抜チームとして1977年に結成されたジュニアチームを源流とする。その後にジュニアユース、ユースと育成年代のチームが組成され、1989年にトップチームが結成され東京都社会人サッカーリーグ4部からの船出だった。
2006年に関東サッカーリーグ2部に昇格すると、2009年にJFL(日本フットボールリーグ)に昇格。
2012年にJ2に昇格し1シーズンで降格するも2014年に発足したJ3に参加。2016年にJ2に昇格するもJ1ライセンスがないため、なかなかJ1が見えてこなかった。(下に記事が続きます)
サイバーエージェントによる買収が転機に
転機となったのが2018年のサイバーエージェントによるクラブ経営権の取得だ。潤沢な資金を元手にJ1昇格への準備を着々と進めていった。
サイバーエージェント藤田晋社長がクラブの代表取締役社長兼CEOに就任して迎えた2023年に黒田剛新監督が招聘されたことで、大きな変化がもたらされた。シーズン序盤にJ2首位に付けると独走。就任から1年で見事にクラブ史上初のJ1昇格を決めた。
初昇格のJ1でも町田旋風は猛威をふるい一時は首位に付けた。最終節まで優勝の可能性を残すも3位で終了しJ1初昇格チームとして初となるACLの出場権を獲得。残留争い候補があわや優勝かというスリリングな話題を振りまいた。
最終的に19勝9分10敗だったが、リーグ最少となる失点34がFC町田というチームを物語っている。J1初昇格チームとして初めてACLの出場権を手にし、戦いの場をアジアに拡大している。(下に記事が続きます)
スタジアムは気の遠くなる「天空の城」
本拠地の町田GIONスタジアムの正式名称は「町田市立陸上競技場」だ。サッカーを観るのには最適化されていないが、そもそも建設時には興行は想定していなかったのだろう。スタジアムのフェンスにシートを張り、チケットを販売することとなった。
そして、その立地は駅から徒歩60分という遠い野津田公園の山の上にある。自虐ネタか、それとも少しでも道中を楽しんでもらうためか「天空の城 野津田」と銘打っている。
先述の通りチームのプレーも興行を意識しているとは思えず、ホームスタジアムのアクセスもとても不便であり、集客に主眼を置いているとは言い難い。自治体が造成した地域インフラに依存するのには限界もある。
ありとあらゆるエンタメがひしめき合う東京という土地で、FC町田ゼルビアが地域の人々に選ばれ続け真のビッグクラブになるためには、長期的な視野にたったクラブの根本的な改善策が必要になるだろう。

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