サッカー日本代表(FIFAランキング19位)は10月10日、「パナソニック スタジアム 吹田」でパラグアイ代表(同37位)と国際親善試合(キリンチャレンジカップ2025)を行い、2-2で引き分けた。ホームで後手を踏み、試合終了間際の土壇場で辛くも追いついた試合の成果と課題について考察する。
2度リードされ、2度追いつく
日本は21分、パラグアイの守備的MFダミアン・ボバディージャに前線中央に縦パスを通されると、走り込んだミゲル・アルミロンに左足トラップのあと、利き足の左足を振り抜かれ先制を許す。0-1。
26分に日本は左サイドの中村敬斗のクロスをクリアされるも、高い位置でボールを拾った佐野海舟が倒れ込みながら前線にパス。そのボールを迷わずにターンしながら受けた小川航基が右足を一閃。強烈な無回転ボールにGKは手を当てたが、勢い余ったボールは枠内に弾んでゴール。先制されてギアを上げた日本は、5分後に追いつき1−1の同点とした。
64分に日本は再びリードを許す。パラグアイの右サイド、フアン・カセレスが右足で上げたクロスをディエゴ・ゴメスに頭で合わせられ、クロスバーに当たりゴール。1-2とされた。
さらに日本は90+4分、左サイドのFKのこぼれ球を拾った伊東純也が右サイドからクロス。ファーサイドの裏に走り込んだ上田綺世がダイビングヘッド気味に合わせて押し込む。土壇場で2-2の同点に持ち込んだ。(下に記事が続きます)
主導権握れず、攻撃では一定の成果
日本はホームの利を生かせず、引いて守るパラグアイを相手に主導権を握ることができなかった。
一方で、世界基準の堅守を誇るパラグアイがリードして本気で守りを固めた状態で2度ゴールをこじ開けたのは評価していいだろう。とりわけ、得点者がストライカーだったことは喜ばしい。国際試合で日本のFW陣はなかなか存在感を示すことができなかったが、この試合では、ともにオランダでプレーする小川航基と、代わって入った上田綺世が揃って決めた。
上田綺世は、試合終了間際に攻撃で決定的な仕事をしたほか、守備でも大きく貢献した。後方でボールポゼッションをして逃げ切ろうとするパラグアイに対して、あえてパラグアイ後方へのコースを消して退路を断ち切りサイドで前進させた。このようにパラグアイに無理やり攻めさせて日本がボールを奪える機会をつくった。そして、結果的に自らの同点弾を呼び込んだのだ。
伊東純也と中村敬斗の両ウイングバックも効いていた。攻撃のアクセントとなり、左右サイドで距離が離れていながら、ともにスタッド・ランスでプレーした間柄とあり摩訶不思議な連携を見せた。(下に記事が続きます)
試合運びのまずさを露呈
パラグアイは、南米のブラジルやアルゼンチンに照準を合わせて引いて守る戦い方が伝統になっている。
守備がアジアの強国より強烈なら、ボールプレーもアジアより巧みで、遅攻も速攻も変幻自在で日本は翻弄された。アジアでは日本が主導権を握れるが、この試合ではアウェイのパラグアイが主導権を握り、日本がどうにか同点にしたという状況だった。
試合後のサムライブルーの選手達の表情は、総じて冴えずうつむき気味だった。仮にもワールドカップ優勝を目指しているのであれば、ホームチームがこのような試合に満足してはいけない。
地元の観衆を前に不覚を取った。余裕のない試合展開で選手たちは追いつこうと必死で走り回り、試合終盤に体力が消耗した。森保一監督は、攻撃のカードとしてパワープレーを得意とする望月ヘンリー海輝を投入しようとしたが、佐野海舟の脚が疲労困憊で動かなくなると急遽、同じく守備的MFの藤田譲瑠チマを投入した。厳しい戦いを強いられて攻撃のカードが切れなかったことは、日本の試合運びのまずさを浮き彫りにした。(下に記事が続きます)
キャプテン遠藤の不在
本来のキャプテンである遠藤航が不在だったが、南野拓実がゲームキャプテンを務め、交代で退くと伊東純也がキャプテンマークを巻いた。守備的MFとして先発した佐野海舟と田中碧、そして途中出場した鎌田大地と藤田譲瑠チマは奮闘した。
佐野海舟は縦横無尽に走り回って攻守でどこにでも顔を出したように存在感があり、むしろ試合終了間際の時間帯まで体力が続いたことのほうが驚きだ。藤田譲瑠チマも限られた時間の中でどうにか追いつこうと積極的に前方に走り込んだ。
田中碧は、イングランド仕込みの守備が板に付いてきて頼もしい。物怖じするのではなく体を張ってチャージし、激しい南米のチームを相手に引けを取らなかった。さらに欲を言えば、ファウルにならないようにデュエルでボールを奪うことができれば、そのまま攻撃に転じることができる。ファウル数はパラグアイの10回に対して日本は14回だった。(下に記事が続きます)
失点シーンで多くの課題
守備では様々な課題が表出した。メキシコ戦同様に前線からのプレスはある程度は機能した。しかし、その弊害も出た。前に行く気持ちが裏目に出て失点を喫したのだ。
1失点目のシーンではセンターバックの瀬古歩夢が相手に走ってついていくのではなく、ラインを高く保ちオフサイドを狙ったが、ホイッスルは鳴らず結果的にポジショニングが中途半端になった。しかし、個人の判断ミスと片付けることはできない。そのような難しい判断を強いる際どいボールが供給された背景を考える必要がある。
日本の選手たちは枚数は揃っていたが、前線が中盤に吸収されてチーム全体の陣形が2ラインのようになって自陣に引き過ぎた。結果としてパラグアイのアンカーのスペースをフリーで使われてセンターバックの渡辺剛と瀬古歩夢の間に決定的なロングフィードを入れられた。
パスを追うごとに増幅する綻び
2失点目は、複数の小さな判断の遅れや連携の乱れが積み重なって喫した。鈴木淳之介がマークに行くかスペースを守るか迷い、対応が遅れたことで中盤にフリーの選手を生んだ。さらに田中碧が即座にカバーせず、戻りが遅れて後手に回った。そしてウイングバックの中村敬斗が中央に絞らざるを得なくなり、生まれたサイドのスペースからフリーでタイミングを見計らってクロスを上げられて、ピンポイントで頭に合わせられた。
その局面よりも前に遡ると、すでに糸が解れ始めていたことが見て取れる。前段階では前進する瀬古歩夢と後退する田中碧が一箇所に誘引されて中央の守備バランスが崩れていた。落としたボールをパラグアイは散らして綻びが広がった。
田中碧が相手に寄らずに中央のスペースに残っていれば、前線から引いてきたもう一方の選手に身体を寄せることができて、鈴木淳之介も引き出されることはなかった。そうすれば、中村敬斗はサイドでしっかりとマークができてフリーでクロスを上げられることもなかったのだ。
2失点ともパラグアイのアンカー起点
1失点目も2失点目も前に出る守備が裏目に出た。前に出る守備は判断を見誤ると決定的なピンチに直結する。個人・チーム全体ともに判断の精度を高める必要がある。
そして守備の連携不足も露呈した。これは1人や2人ではなく、チーム全体の連携や配置だ。小さなズレがパスで増幅し失点につながった。
特筆すべきは、2失点ともパラグアイのアンカーの位置が起点となって効果的なパスを出されたという点だ。ゴール前だけではなく、相手後方の位置の守備についても再確認する必要があるだろう。日本代表は、10月14日にブラジル代表と対戦する。

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