19歳の森が世界選手権初V クライミング・リード 東京五輪金メダリストを退け快挙

スポーツクライミングの世界選手権（2023年8月1日〜12日）がスイス・ベルンで行なわれ、大会第6日の8月6日、到達した高さを競う女子リード決勝で19歳の森秋彩（もり・あい）選手＝茨城県連盟＝が初優勝しました。日本女子の金メダルは五輪、世界選手権を通じて初めて。日本勢のリードの世界選手権制覇は男女を通じて初の快挙です。

パリ五輪から種目変更、森に追い風

準決勝を首位で通過した森選手は、東京五輪金メダルのヤンヤ・ガルンブレト（スロベニア）とともに完登。準決勝の順位により五輪女王を上回りました。

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2021年の東京で初めて五輪競技に採用されたスポーツクライミングは、どれだけ速く登れたかを競う「スピード」、課題をいくつ登り切れたかを競う「ボルダリング（ボルダー）」、どこまで高く登れたかを競う「リード」の3種目を1人で行なう複合（コンバインド）としてメダルを争いました。

ところが、2024年のパリ五輪ではこれが大きく変わります。この種目変更が「リード」と「ボルダー」を得意とする森秋彩選手にとっては極めて追い風となりそうです。森選手は今回の世界選手権でボルダーでも決勝進出し、6位に入賞しています。

「ボルダー＆リード」2種複合に

Being the best climber in the semi-final round eventually turned out to be decisive for Ai Mori 🇯🇵, who won her first-ever IFSC world title in Bern!@climbbern2023 | #IFSC #SportClimbing #BernWCH #BernToClimb pic.twitter.com/qgKnFPGXRO

— International Federation of Sport Climbing (@ifsclimbing) August 6, 2023

パリ五輪では、男女ともスピードが切り離されて単独種目になります。さらに、ボルダー＆リードが（2種目複合）がもう一つの種目となり、男女計4種目でメダルを争うことになります。

そもそも、スピードとボルダー＆リードは選手に求められる能力がかなり異なるため、多くの選手はパリ五輪からの種目改訂を歓迎していると聞きます。スポーツクライミングの種目のなかで「リード」「ボルダリング」が得意な反面、「スピード」が極端に苦手な森選手にとって、この種目変更は願ってもない朗報です。

リードでの世界制覇に意義

日本のスポーツクライミングの主力選手はこれまで、ボルダー（ボルダリング）が得意な選手が多かった印象です。男子で言えばW杯年間と世界選手権で2度の優勝した楢崎智亜さん。女子なら東京五輪銅メダルの野口啓代さん、東京五輪銀の野中生萌さんなどです。

国内に続々と増えているクライミングジムもほとんどが「ボルダー」のジムです。一方で日本でもほぼ専用の練習環境が乏しいのが「リード」です。森さんは、19歳にしてその「リード」で世界一になったことに大きな意味があると思っています。しかも東京五輪金メダリストを上回って。

ボルダー、リード、スピードの3種目複合で争う東京五輪には結局、森秋彩選手は出られませんでした。ボルダー、リードは「得意」だけど、スピードは「超苦手」だからです。

もしもパリ五輪が、東京五輪と同じ3種コンバインド（複合）のままで争うのだったら、森選手はパリ五輪出場が難しかったかもしれない。でも、種目変更によって流れは大きく変わりました。森さんにとってはかなり有利となる種目変更で、パリ五輪でも十分メダルを狙えるでしょう。

森秋彩（もり・あい）父と一緒にクライミングを始め、小学生時代から国内外の大会で活躍。15歳で出場した2019年世界選手権の「リード」で日本選手最年少メダルとなる銅メダル獲得。東京五輪代表を逃した後、コロナ禍や受験準備もあり、2022年9月までの約3年間国際大会に出場しなかったが、再び競技の世界に復帰した。茨城県出身。2003年9月17日生まれの19歳。筑波大在学中。2023年4月時点でオリンピックSランク強化選手に選出された。

クライミング・リードとは　高さ15mほどの壁に1本のコースが設定され、到達した高さを競う種目。6分間の制限時間にどの地点まで登ることができたかで、記録が決まる。選手はロープと身体を繋げるハーネスを装着し、クイックドローという器具（下まで落ちないようにロープを掛ける支点）にロープを引っ掛けながら登っていく。 頂上にあるクイックドローをかければ完登（ゴール）となる。