競技力を高めるだけなら、完全プロ化にした方がいい。しかし仕事をしながら競技を続ける「デュアルキャリア」も悪くない。仕事とハンドボールをリンクさせながら、己を高めてきた選手がいる。仲程海渡(なかほど・かいと)、33歳。ユニフォームネクスト株式会社(本社・福井市)の営業マンでもある、福井永平寺ブルーサンダーのレフトウイングは2026年5月、完全燃焼して競技生活を終えた。
最後まで「戦う姿勢」見せ続けた

仲程海渡は東京五輪に出場する目標を立て、東海大学卒業後にはデンマーク3部でプレーした。その後日本に戻り、地元沖縄の琉球コラソンに入団したが、2018年に一度引退している。1年半ほど会社員で働いたのちに、2019年8月にはフェロー諸島リーグ1部でのプロ契約を勝ち取った。日本代表にこそ選ばれなかったものの、海外でプロのハンドボール選手になれた。
しかしプロの世界は厳しい。2020年には契約が更新されず、一時期は気持ちが引退に傾きかけた。それでも諦めなかった仲程は、2021年から琉球コラソンに復帰する。紆余曲折を経て戻ってきた日本リーグ(現在のリーグH)で、仲程は唯一無二の存在感を放つ選手になっていた。骨惜しみせずに、誰よりもよく走り、声を出して味方を鼓舞する。GKにシュートを止められても、何度も立ち向かう。福井永平寺ブルーサンダーに移籍した2024年以降も、彼の「戦う姿勢」は変わらなかった。
日本代表でもない。テクニシャンでもスピードスターでもない。それでも多くのファンに愛された。「仲程海渡の戦う姿勢を見るためだけに、入場料を払う価値がある」と言われた男は、2026年5月のリーグ戦を最後に、現役を退いた。完全燃焼してコートを去った男の言葉を、ここに残しておきたい。(下に記事が続きます)
「応援に来てよかった」と思われる選手に

――仲程さんは東京五輪に出ることが一つの目標でしたが、その夢が叶わなかった後の方が、充実した競技人生を歩んでいるように見えます。
仲程:東京五輪に出るという、自分の大きな夢を叶えることができなくて、そのあとにパリ五輪を若い選手が中心になって、自力でつかみ取りました。そういう若い選手たちを見て、ほんとすごいなと思いました。「僕はまだそのレベルではなかったのかな」という悔しさもあった反面、「すごい時代になってきたんだな」と、一選手としても、一ファンとしてもうれしかったです。
――ハンドボールを愛する視点ですね。
仲程:自分が五輪のコートに立つことはできなかったですが、次はこの中(福井永平寺ブルーサンダー)から出てきてほしいと僕は思っています。じゃあ僕が彼らに何を伝えられるかというと、ただ派手なプレーして、ただ点を取るとか、ただシュートを打つ選手っていうのは、僕、正直そんな魅力ないなと思っているんですよ。大事なところは、得点に表れないところ。自分のチームメートがミスした時に全力で戻れるのか。小さい声かけができているのか。こういったところを僕は競技人生で大事にしてきました。 それが、僕が少し伝えられる部分かな。数字に表れないところで手を抜かずにやっていくと、人として成長するでしょうし、それがファンの皆様に伝わって、「今日応援しに来てよかったな」って思ってもらえる選手や人になれるはずです。
ポジティブな声かけ

――福井永平寺に移籍した1年目に、GKの笹本丈太郎が速攻のパスでミスをしたら、仲程さんが「狙いはいいから」と声をかけていました。それを見ていた竹内功コーチが「こういう声かけがありがたいんですよ。ウチは若いチームだから、ミスをするとつい『何やってんだ』とか言いがちなんです」と言っていたのを覚えています。
仲程:試合の場面で、最年長の僕がただ指摘するっていうのは、チームにとってプラスではない。トライしたことは、本人にとって素晴らしいことだと思うので。 僕が指摘をして、彼らがトライをしなくなるのが、一番良くないこと。あとはパスの長さを調整すればいいし、とにかくパスを出してくれれば走るからという、お互いの信頼関係が築ければいいなと思っていたので、そういった声かけになりました。今日(2026年5月16日、アルバモス大阪戦)も信用してパスを出してくれる若手がいたからこそ、僕が得点重ねることができました(この日6得点)。ネガティブなことを言っても、彼らにはうまく伝わらない。じゃあ、どうやったら次につながるか。どうやったらパスを出したいと思ってもらえるか。そういった声かけをしたいなと、常々思っています。
――仲程さんが移籍してきた2024年は、スピードスターだったレフトウイング久保博貴が引退した直後のシーズンでした。久保ほどのスピード、得点力はないけれど、仲程さんは戦う姿勢などの「無形の力」を、福井永平寺ブルーサンダーにもたらしてくれたと思っています。
仲程:僕はこれまでのキャリアの中で、日本代表を目指して、自分が一番になりたいっていう気持ちでやってきました。今の若い選手にも「自分が一番になりたい」って気持ちを持ってほしいし、そういう気持ちは大事だと思うんですよ。でも、その「自分が一番になる」夢が叶わなったら、そこで腐るのかと言ったら、そうではなくて。「自分が一番になりたい」というギラギラした時期を経て、僕は少しずつスタイルを変えてきました。「こういう声かけが大事なんだろうな」とか、先輩から声をかけてもらって「この人がいてよかった。この人に助けられたな」とか。特に指導者の方々には、そういう言葉で助けられたので、「今度は僕が次の世代につないでいく番だな」と思うようになりました。(下に記事が続きます)
チームのために汗かく

仲程:若い頃は「自分がサイドシュートでとにかく一番になりたい」と思っていたし、海外の経験を通して「色んなスキルを身につけたい」とがんばってきましたが、キャリアの終盤になって思うのは「やっぱり一番は走ることだな」と。
――そこに戻りますか。
仲程:見えないところでとにかく走って、一番に戻って、とにかくルーズボールに飛び込んで。逆にそこで一番になれるんじゃないかなと思いました。
――スコア上は地味でも、ハードワーカーはチームに必要です。
仲程:そういう見えない部分で、チームのためになれたらと思えるようになりました。それはおそらく酒さん(酒巻清治監督)も見てくれていると思います。だから、もう引退って決まっていても、ずっと試合にも出してくれますし、そういう信頼関係を感じているので、 僕もしっかりとこたえたいです。数字に表れない部分が若手にも伝わると、もしかしたらチームの人間力が増すかもしれない、といった思いもあります。
――福井永平寺は人柄のいい選手が多い反面、勝負どころで踏ん張りきれない印象があります。
仲程:いい時はいいですが、悪い時は本当に悪いってチームになっちゃうんで。そういう意味では、チームの規律を作ることが、僕は本当に大事だなと思っています。 いい時はどのチームもいいですよ。でも悪い時にどれだけ踏ん張れるかがチーム力。ちゃんと酒さんの言っていることを信じて徹底するとか、チームで大事にすることを徹底する。こういった規律が、やっぱり悪い時は守れなくなる。だからパスがワンテンポ遅れたり、DFなら守れるのに早く寄っちゃったりとか、GKを信用せずにとにかく早く枝あげちゃったりとか、細かい話ですが、そういう部分につながってくるんですよ。どこかで「自分さえ良ければ」という考えが出たり、「もう負けそうだから」と自分勝手な判断が出てしまう。規律を持って、理性を持って、やってきたことを徹底しないと、再現性がないんですよね。次につながらない。
――大事な場面で、こらえ性のないプレーが出てしまうのですね。
仲程:僕はそこを大事にしたいなと思っています。特に今シーズン(2025-26シーズン)は酒さんも入ってきてくれて、メンタリティといった大事なことは教えていただいているので。これはやっぱ時間がかかると思います。





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