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【ハンドボール】Knockü SC新宿が6人制、4人制ともに3連覇 | 日本車椅子ハンドボール競技大会

諸岡晋之助(Knockü SC新宿)は車いすハンドボール日本代表のエース=2025年11月、徳島県鳴門市アミノバリューホールで(久保写す、以下すべて)
 諸岡晋之助(Knockü SC新宿)は車いすハンドボール日本代表のエース=2025年11月、徳島県鳴門市アミノバリューホールで(久保写す、以下すべて)
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文部科学大臣杯日本車椅子ハンドボール競技大会が2025年11月15~16日、徳島県鳴門市のアミノバリューホールで開催されました。大会には総勢98名の選手が参加。競技の部では6人制、4人制ともに、2024年の世界選手権出場メンバーが揃うKnockü(ノッキュー) SC新宿(東京)が優勝し、2部門で3連覇を達成しています。 

目次

6人制V、Knockü SC新宿Aはスターぞろい

森谷幸生(Knockü SC新宿A)得意のティルティング(片輪を上げて打つ技術)
森谷幸生(Knockü SC新宿A)得意のティルティング(片輪を上げて打つ技術)

車いすハンドボールには6人制と4人制があります。日本になじみ深いのが6人制。前後半15分ずつで行われ、握りやすいソフティボールを使用します。

6人制の部を制したのはKnockü SC新宿Aでした。6人制ではA、Bの2チームに分かれてエントリーしたKnockü SC新宿は、Aチームに2024年9月の車いすハンドボール世界選手権出場メンバーを揃えてきました。日本代表の要となる諸岡晋之助と森谷幸生を中心に、車いすバスケットボールで2016年のリオデジャネイロパラリンピックに出場した永田裕幸、車いすソフトボールで2022年のワールドシリーズMVPに輝いた小貫怜央、DFのスペシャリスト伊藤優也と、ビッグネームが揃います。GKには健常者で監督兼任の松本賢。日本リーグの三景で活躍したのちに、ドイツでもプレー経験があり、ビーチハンドボールや車いすハンドボールにも精通しています。(下に記事が続きます)

相手封じたDF「ハイライン」

左から永田裕幸、森谷幸生、小貫怜央、諸岡晋之助、伊藤優也。このDFラインを高く上げるのがハイライン
左から永田裕幸、森谷幸生、小貫怜央、諸岡晋之助、伊藤優也。このDFラインを高く上げるのがハイライン

今大会のKnockü SC新宿Aは、高度なチェアスキル(車いす操作)に基づいた、バリエーション豊富なDFで勝利しました。準々決勝の大阪体育大学APES-A戦では「ハイライン」と呼ぶシステムで、相手の機動力を封じています。ほぼセンターライン付近に、5人の選手が横一線にDFラインを形成します。個々でプレスをかけるのではなく、高い一線DFだから「ハイライン」。マークを受け渡しながら、間を割られることなく守り続けます。

諸岡は「チェアスキルのある5人が揃ったからできるDFシステム。誰か1人でもチェアスキルが劣ると、そこから崩されますからね。じわじわと守りながら、最終的に相手をパッシブプレーに追い込めたら成功です」と、ハイラインの意図を説明していました。日本の車いすハンドのレベルを引き上げた、新たな戦術です。(下に記事が続きます)

効いた伊藤優也のDF

伊藤(Knockü SC新宿A)はDFの達人。動けば動くほどによさが出る。課題のシュート力も向上してきた
伊藤(Knockü SC新宿A)はDFの達人。動けば動くほどによさが出る。課題のシュート力も向上してきた

Knockü SC新宿Aはほかにも、永田や伊藤を前に出した4:1DFなどがあります。準決勝のLBH_6(滋賀)戦では、伊藤が相手のエース・佐藤克輝にマンツーマンでついて、完全に動きを封じ込めました。決勝戦の大阪体育大学APES-S戦では、後半の苦しい場面で伊藤がパスカット。森谷のエンプティゴールにつなげて20-18としました。苦しい時ほど物を言うのがDFです。高度な連携と機動力を武器に、Knockü SC新宿Aが大会3連覇を成し遂げました。 

GK中西敬登(大体大APES-S)大当たり

中西敬登(大体大APES-S)の好セーブで、6人制決勝戦は引き締まった試合になった
中西敬登(大体大APES-S)の好セーブで、6人制決勝戦は引き締まった試合になった

Knockü SC新宿Aの森谷は「僕たちも年々強くなっているはずなんだけど、苦しい試合ばかりでした。他のチームのレベルが上がっているんでしょうね。特に大体大の伸びはすごい」と、若い力の成長に驚いていました。今大会準優勝の大体大APES-Sは、決勝戦でGKの中西敬登が大当たり。特にKnockü SC新宿Aのエース諸岡を止めまくり、接戦に持ち込みました。

中西は「まずは左利きの小貫さんに打たせないこと。スコアラーを諸岡さんと森谷さんに絞って、どちらかを止めるようにしました」と言っていました。決勝戦はほぼプラン通りに持ち込めていました。高校までは野球をやっていて、4番でライト。「GKは止めるというより、野球の狙い球を絞って打つ感覚に近いですね」と言うなど、若くしてGKの真髄を理解しています。 (下に記事が続きます)

村岡沙耶(大体大APES-S)、光った点取り屋

村岡沙耶(大体大APES-S)はバレーボールとソフトテニスの経験者。左腕を素早く振り切り、得点を重ねた
村岡沙耶(大体大APES-S)はバレーボールとソフトテニスの経験者。左腕を素早く振り切り、得点を重ねた

また大体大APES-Sで目立っていたのが、左利きの女子選手・村岡沙耶でした。ライン際に位置を取り、6mライン付近からシャープに打ち込んでいました。大体大APES-Aの金丸光里とともに、今大会を代表する女子の点取り屋です。「私も金丸も卒業するけど、来年以降も女子でシュートが打てる選手が出てくると思いますよ」と言っていました。運動能力の高い大体大には、ポテンシャルの高い女子選手が揃っています。

京都のAcro、初3位

山なりのポストパスを、歴舎敦輝(車椅子スポーツチームAcro、背番号30)が片手キャッチからシュートに持ち込む
山なりのポストパスを、歴舎敦輝(車椅子スポーツチームAcro、背番号30)が片手キャッチからシュートに持ち込む

6人制で初の3位入賞は車椅子スポーツチームAcro(京都)でした。3位決定戦でLBH_6に勝った瞬間、監督兼任の歴舎敦輝はひっそりと涙を拭いました。車いすハンドの普及委員長を務める歴舎は、古きよき6人制の戦い方でチームを作ってきました。歴舎や大濵佑輔がライン際に入り、松本爽らが山なりのポストパスを狙いつつ、DFが真ん中に寄ったら外側を割っていきます。

歴舎は「(以前大会9連覇した)宮城フェニックスや、同じ京都のドリーマーズの戦い方は、何度も見て研究してきました」と言います。今大会では、2010年代に決勝を戦った両雄が参加せず、時代の流れを感じましたが、両チームの戦術はAcroに受け継がれていました。Knockü SC新宿の登場以降、圧倒的なチェアスキルをベースにした戦いが増えている一方で、Acroのような正統派のセットOFも大切です。両者が融合して、より高度な駆け引きが生まれてくれば、日本の車いすハンドのレベルはさらに上がるでしょう。 (下に記事が続きます)

LBH_4、得点力で及ばず

Knockü SC新宿の諸岡(背中側背番号10)と、LBH_4の木村正也(写真中央)は、2024年9月の世界選手権メンバー
Knockü SC新宿の諸岡(背中側背番号10)と、LBH_4の木村正也(写真中央)は、2024年9月の世界選手権メンバー

4人制は2号球で行われ、10分間のセット制です。セットカウントが1-1の場合は、5分間の第3セットで勝敗を決します。今大会では、4人のうち最低1人は女性もしくはローポインター(障がいのクラスが2以下の選手)が出場するルールで行われました。また360度一回転するスペクタクルシュートが決まると、2点になります。この2点シュートをどれだけ決められるかが、4人制の大きなポイントです。

決勝戦はKnockü SC新宿(東京)が2セット連取で、LBH_4(滋賀)を下しました。第1セットは諸岡、森谷、永田、古矢千尋と、2024年9月の世界選手権のスタメンで勝負しました。一方のLBH_4も、世界選手権でキャプテンを務めた人格者・安田孝志に、高度な駆け引きを誇るGK木村正也らで挑みましたが、得点力で及びませんでした。

山島花音(Knockü SC新宿)スペクタクルシュート

左利きの山島花音(Knockü SC新宿)がクルッと一回転。スペクタクルシュートを放つ
左利きの山島花音(Knockü SC新宿)がクルッと一回転。スペクタクルシュートを放つ

決勝の第2セットで覚醒したのが、Knockü SC新宿の山島花音でした。山島は、4人制の公式戦は初出場。1セット目は慣れていなかったこともあり、1点のシュートを打っていました。ハーフタイムで松本監督から「タイミングが合うなら、もっと2点シュート(スペクタクルシュート)を打ちなよ」と言われて、山島は気持ちを切り替えます。「せっかく練習したんだから、一回転するシュートを打ってみよう」と、2セット目は積極的にチャレンジし、一回転を決めました。

360度一回転してからのスペクタクルシュートは、4人制ならではの武器で、世界選手権では当たり前です。障がいの有無に関係なく、一回転のシュートができる選手が増えてくると、4人制の競技レベルが上がっていきます。 (下に記事が続きます)

佐藤克輝(LBH)、得点王

佐藤克輝(LBH)は有言実行で、6人制のトップスコアラーになった
佐藤克輝(LBH)は有言実行で、6人制のトップスコアラーになった

大会終盤は連戦続きで順位を落としてしまいましたが、滋賀のLBHは6人制で4位、4人制で準優勝と健闘しました。今大会では初日の6人制予選リーグで、強豪のすわろ~ずに19-14で勝利しています。昨年は主にGKだった佐藤克輝が、今年はエースで獅子奮迅の活躍。「相手のGKがいいのはわかっていたので」と、丁寧にコースに打ち分け、すわろ~ずのGK山本俊也を攻略しました。佐藤はチームメートに宣言したとおり、大会の得点王になりました。

日本代表GK木村正也が本領

まさに守護神・木村(LBH)。巧みな駆け引きで、難しいシュートも止めてしまう
まさに守護神・木村(LBH)。巧みな駆け引きで、難しいシュートも止めてしまう

またGK木村が「すわろ~ず」のエース・刈谷匡志のロングシュートを封じました。木村は2024年9月の世界選手権メンバーで、純粋なGKの技術に限れば、国内でも一番とも言われる選手です。立ち位置を変えたり、相手の目線を見ながら「打たせるコースを限定しました」と、すわろ~ず戦の勝因を淡々と語っていました。2024年の世界選手権では障がいのクラス分けでクラス3にされてしまい、出番が限られてしまいましたが、本来のクラス2で出場できれば、世界でも活躍できるGKです。(下に記事が続きます)

「だいご味」損なわぬ判定を

タイトなマークや激しいぶつかり合いも、車いすスポーツの醍醐味
タイトなマークや激しいぶつかり合いも、車いすスポーツの面白さ

最後に大会の課題に触れておきます。審判の判定についてです。競技のレベルアップを図るために、近年は日本リーグ(リーグH)で活躍したベテラン審判員が「審判長」で大会に入るようになりました。それ自体は悪いことではないのですが、健常者の7人制のルールを過剰に当てはめたがるがゆえに、車いすスポーツのだいご味である激しいコンタクトが「即退場」になってしまうケースが増えました。今年は特に顕著でした。

たとえばボールとは関係ないところで、相手のキーマンにマンツーマンでついて、足止めさせるのは、車いすハンドの「隠れたナイスプレー」です。相手のエースを攻撃参加させない。相手のDFの戻りを遅らせて、広い3対2で攻める時間を作る。こういうプレーができる選手がクレバーだし、相手も気を利かせてスクリーンをかけたりするのが、味のあるやりとりです。車いす同士の激しくぶつかる音もまた、見る人の心を高ぶらせてくれます。 

ところが健常者の7人制の基準で笛を吹くと、こういった駆け引きが全否定されます。「ケンカ両成敗だから、いいだろ?」と言わんばかりに、両者にイエローカードを出されると、白熱した空気が一瞬にしてシラケてしまいます。世界選手権を経験した選手からは「この笛にアジャストしていったら、日本は世界で通用しなくなる」と危惧する声も出ていました。車いすハンドボールは、日本のハンドボールで数少ない「メダルが狙える」競技です。審判も間違った威厳で抑えつけるのではなく、世界がどういう基準で試合しているのかを学んだ上で、車いすのプレーヤーの力を引き出してほしいのです。2026年の世界選手権でメダルを獲れる可能性のある競技だからこそ、車いすのだいご味を損なわない判定をスタンダードにしてもらえないでしょうか。 

2024年の世界選手権、日本VSエジプトの死闘を見て、車いすハンドボールのすごみを感じ取ってください

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