日本サッカー協会(JFA)は、MF佐野海舟(24歳)の日本代表への招集をしばらく見合わせていたが2025年、北中米ワールドカップ・アジア最終予選で再び招集したことで大きな注目を集めることとなった。
佐野海舟の代表復帰は、北中米ワールドカップで優勝を目指す森保一監督のたっての願いだった。監督が嘆願して呼び戻した佐野海舟は一体、何が凄いのか詳しく解説する。
世界を狙える逸材
佐野海舟は、アジアカップのインドネシア戦(2024年1月24日)に途中出場して以来の出場となった北中米ワールドカップ・アジア最終予選オーストラリア戦(2025年6月5日)に先発し64分までプレー。続く6月10日のインドネシア戦では弟の佐野航大とサムライブルーで初共演を果たした。その連戦後に、筆者は佐野海舟が「ドイツでの活躍そのままに、日本代表でも即戦力であることを示した」と評価した。
欧州5大リーグの一つ、ドイツ・ブンデスリーガの1.FSVマインツ05に加入した1シーズン目の2024-2025シーズンに、すぐにレギュラーに定着し34試合に出場。走行距離393.7km、デュエル勝利数209回、インターセプト数65回、スプリント数764回、ドリブル数32回はいずれもリーグでトップだった(ドリブル数はタイ記録)。また、空中戦の勝利数162回と最高速度34.42km/hは、いずれも3位という驚異的な数値を残した。
サッカーは難解な競技であり、データを鵜呑みにできないこともあるが、これだけ並べ立てられると疑いの余地がなくなる。
デュエル勝利数とインターセプト数は、佐野海舟のいわゆる「回収」力を示すものだ。巨漢揃いのドイツで身長176cm、体重67kgは小柄だが、空中戦の勝利数でも上位にランクインしているのは見上げたものだ。(下に記事が続きます)
高いアスリート能力
とにもかくにも、よく働く。これが、佐野海舟の第一印象だ。攻守において重要な場面に常に顔を出している。これはリーグナンバー1の走力がなせる技だ。
しかし、サッカーは単に長距離を走ればよいというものではない。スプリントをしたり、急に停止したりというプレーの繰り返しだ。
短距離走と長距離走の選手の体格や筋肉のつき方が大きく異なることから分かるように、短距離と長距離では、求められる能力が異なる。しかし、サッカーには短距離と長距離の両方の要素があり、どれだけ両立できるかが重要となる。
そして佐野海舟は、短距離と長距離の両方で優れている。また、単に身体能力が高いだけではなく、足腰に粘り強さがある。幼少期には、元スキー選手の父親の指導のもとで下駄を履いたトレーニングを行っていたという。
サッカーでは、走る方向はまっすぐとは限らず、ジグザグに走ったり、側面から体当りされることもある。走るだけではなく、相手とぶつかり合い、組み合うような格闘力も必要になる。
これらの素養が佐野海舟は、ずば抜けている。(下に記事が続きます)
強豪相手に証明した対人プレーの強さ
2-2で幕切れしたパラグアイ戦(2025年10月10日)でも豊富な運動量で攻守において貢献した。
3-2で劇的な勝利を収めたブラジル戦で先発フル出場した佐野海舟を、森保監督は続くガーナ戦でも先発させ、ケガから復帰したキャプテン遠藤航はベンチに座ることとなった。勝利のいい流れを引き継ぐことを意図していたのだろうが、森保一監督は屈強なアフリカのフィジカルに佐野海舟がどのように対処するかを見たかったのではないだろうか。
ブラジルも1対1の強さはピカ一だが、身体的な強さのほかに柔軟な身のこなしやボールテクニックといった総合的な個人能力だ。一方で、アフリカの個人能力は身体的な強度が突出している。
そんなガーナの選手たちに対して佐野海舟は、ことごとく体当たりの真っ向勝負を挑んで競り勝った。世界の強力な個に対して、あの手この手で対抗してきたのがこれまでの日本だった。しかし、佐野海舟は、個の力でストレートに上回ってしまうのである。(下に記事が続きます)
攻守の切り替え役
また、佐野海舟は激しいチャージを得意とするがボールに触れているため、ファウルになることが少ない。ファウルは相手ボールのリスタートになる。一旦プレーを止めることができるため、ファウルやむなしの姿勢で守備をする選手もいるが、佐野海舟はきれいにボールを奪ってそのままの流れで攻撃につなげることができる。これは、ファウルで止めるよりも1段も2段も高次元のプレーだ。
猪突猛進のごとく、ボールを奪って突進していく佐野海舟を私たちはよく目撃する。攻撃をする側は、攻撃で有利なポジショニングをしており、ボールを奪われたら守備位置に戻る必要がある。その攻守の切れ目を突こうとしているのだ。いわゆるトランジション(切り替え)でどれだけ主導権を握るかが、展開の速い現代のサッカーにおいて、より重要になっている。
佐野海舟がボールを奪取し前方にダッシュする動きは、ボールを奪った時点で、1人の相手選手を置き去りにしていることになる。そこで迅速に差し込めば、数的優位を生かして有効な攻撃を行うことができる。佐野海舟の「奪取ダッシュ」には、そのような意図があるのだ。
同じ中盤の選手でも、ボールを奪って展開することを得意とする選手もいる。それも、もちろん正しい。しかし、後方に残っていては、守備の準備はできても、自ら得点をする可能性は低い。佐野海舟は、持ち前のスタミナを生かして、守備でしっかりと仕事をして、さらには前方に加勢して攻撃に厚みをもたらし得点にもからむ仕事をしているのだ。(下に記事が続きます)
チームに馴染みさらに深まる味
佐野海舟は、岡山県津山市出身。米子北高等学校で注目を集めると当時J2のFC町田ゼルビアでプロデビューし、Jリーグの有力クラブである鹿島アントラーズに移籍。そして2024年に1.FSVマインツ05と4年契約を締結した。
まだ24歳と若く伸び盛りで、今後の成長にも期待ができる。さらには、年令を重ねるにつれて試合を読む力に磨きがかかり、チームを統率するリーダーシップも醸成されてくることを期待したい。
日本代表に復帰したワールドカップ予選では強烈な味を発揮し、鍋に入れたばかりのカレーのルーのようだった。試合を追うごとにその味が鍋全体に馴染んできてさらに深みを増している印象がある。
2026年の北中米ワールドカップで佐野海舟は、攻守を橋渡しする日本代表のキーマンになることが期待される。

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