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【バレーボール】ペルージャ会長「石川祐希はやってくれる」| インタビュー[下]

石川祐希選手が加入するペルージャ(正式名:SIR SUSA VIM PERUGIA=シル ・スーサ・ ヴィム・ペルージャ)のジーノ・シルチ(Gino Sirci)会長
石川祐希選手が加入するペルージャのジーノ・シルチ(Gino Sirci)会長=2024年5月(写真提供:SIR SUSA VIM PERUGIA)
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イタリア男子バレーボール・スーペルレガで、来季2024-25シーズンに日本代表のキャプテン・石川祐希選手が加入するペルージャ(正式名:SIR SUSA VIM PERUGIA=シル ・スーサ・ ヴィム・ペルージャ)のジーノ・シルチ(Gino Sirci)会長に2024年5月、インタビューした記事の下編。背番号が14番に決定した秘話からチームにかける資金、スポンサーの数まで、世界最強チームの裏側までを赤裸々に答えてくれた。

目次

「14」ペルージャにも特別な意味

Sir Safety System 本社にて、製品の広告にも使われていたアタナシエヴィッチ=中山写す
Sir Safety System 本社にて、製品の広告にも使われていたアタナシエヴィッチ=中山写す

「何としてでも獲得したい」と、NOと言えない金額を最初から提示し、石川の獲得に成功したペルージャ。石川と言えば背番号14番だが、ペルージャで14番は特別な意味を持つ番号だった。

石川の前にペルージャの14番をつけていたのは、オポジットのアレクサンダル・アタナシエヴィッチ。セルビア代表でも14番をつける、32歳のベテランだ。彼はペルージャがスーペル・レガに昇格した翌年の2013年から加入。まさにペルージャとともに成長し、8シーズンに渡ってペルージャの顔となってきた選手だ。プレーもさながら、コートでチームを鼓舞し、観客を巻き込んでアリーナを大興奮の渦に導くカリスマでもあった。それゆえアタナシエヴィッチが退団した2021年以降、空いていた14番を石川が付けることに対し、抵抗感を抱くペルージャファンがいたことも事実だ。

サッカーでローマの10番を永久欠番にしたくない理由についてのフランチェスコ・トッティのコメントを引用し、「ペルージャの14番に憧れる人からその夢を奪いたくない」とインスタで投稿したアタナシエヴィッチ

シルチ会長はこう語る。「14番を使っていいかは、まずアタナシエヴィッチに確認した。彼がもちろんだと答えたので、石川選手にも空いている番号を告げ、彼は当然ながら14番を選んだ。一部の選手やファンは嫌がったけれど、もっと大事なのは未来だ。NOと言った彼らも、この先のイシカワの活躍を見て意見を変えるさ。アタナシエヴィッチと同じくらいイシカワはやってくれる。きっと14番はチームにとってもラッキーナンバーなんだよ」

インタビューの後、本社併設のショップにオンライン・イベント参加者に抽選でプレゼントするユニフォームを受け取りに立ち寄ると、そこにはアタナシエヴィッチがSirの安全靴を持ったのぼりが掲げられていた。チームだけでなく本社製品の広告にも使われていた選手の後を引き継ぐ石川は、それくらいの期待を背負ってペルージャにやってくるのだ。(下に記事が続きます)

来季スタメン「僕の頭に構想ある」

来季ペルージャでチームメイトとなるポーランド代表のアウトサイドヒッター・セミニウク選手(写真提供:@kamil_semeniuk_)
来季ペルージャでチームメイトとなるポーランド代表のアウトサイドヒッター・セメニウク選手(写真提供:@kamil_semeniuk_)

それではスタメンは決定ですか?の問いに、会長は珍しく一呼吸おいてこう答えた。

「僕の頭にスタメン構想はあるけど、イシカワを獲得した時にこう思ったんだよ。今季もアウトサイド・ヒッターの2席には3人(レオン、セメニウク、プロトニツキ)のすばらしい選手がいたけれど、最終的には皆が出場機会に恵まれた。上手に休むこともできたし、来季はチャンピオンズ・リーグもあり、さらに厳しいシーズンになるからね。なので同じハイレベルの選手が複数必要であり、そういうチーム作りをしないといけない、と」

スタメンになり得るハイレベルの選手が複数いることに越したことはない……他チームがうらやむほど層が厚いペルージャは、体調やコンディションを見ながら一流選手を使い分けて4冠を達成し、来季はチャンピオンズ・リーグ優勝も狙う。「世界クラブ選手権でも日本のチーム(サントリー・サンバーズ)はとても強かったし、(来年そこにポーランド代表のシリフカ選手と日本代表で元モンツァの高橋藍選手が入ると伝えると)ますます強敵になるが、うちも負けはしない」。そう言いながらも、出場大会全制覇が来季の目標、との明言は避けた。

「来季も勝ち続けたいのは当然。でもそれは時間の経過ともに見えてくるものだから、何も宣言することなく、まず楽しみたい。僕たちの心の中には、すばらしいシーズンにするぞという気持ちがある。すばらしいシーズン、って何を意味しているか分かるよね?」

明言を避けながらもガッハッハ、と豪快に笑う会長。しかしこれが決して大言壮語でないことは、最強チーム作りの裏側を知ると容易に納得できる。(下に記事が続きます)

 投資額250万ユーロ、スポンサー数160

2023-2024シーズンのインタビュー用バックパネルに様々なスポンサーのロゴが=中山写す
2023-2024シーズンのインタビュー用バックパネルに様々なスポンサーのロゴが=中山写す

業界トップ企業とはいえ、ペルージャという人口16万人の地方都市で世界一のクラブを作り上げるのには多大なる情熱はもちろん、多額の資金が必要である。

シルチ会長とバレーボールの縁は2002年、当時セリエCのバスティア・ウンブリアのアンダーカテゴリーに息子が入ったのがきっかけだ。試合を観に行き、一目でバレーボールという競技のファンになった。スポンサーとなってからわずか10年で一気にスーペルレガまで駆け上がり、その後12年で世界最強チームの1つにまで上りつめた。会社と共にチームも成長を続け、会社の総売り上げの2.5%程度、近年は250万ユーロ(約4億2700万円)をチームに充てる。それだけではない。

SIR SAFETY SYSTEM社に加えユニフォーム全面に大きくロゴが入るSUSA社、VIM社、CONAD社のトップスポンサーの他、広告制作にチームが協力するスポンサーまで大小含め160近いスポンサーがいるという。優勝後のインタビューで「まずスポンサーの皆さんに感謝する」とシルチ会長が述べるのは、資金提供はもちろん、共に夢を追い、情熱を共有する大事な仲間と強く認識しているからに他ならない。日本企業のスポンサーも探しているそうなので、ユニフォームに日本企業のロゴが入ったり、チームのSNSで選手が日本企業のPRをしたりするかも?と、来季のペルージャへの期待がまた1つ追加された。(下に記事が続きます)

ファンと4冠祝う「ポーカーフェス」

ポーカーフェスの舞台にて、スペシャルゲストのファビオ・ロヴァッツィ(左から2人目)、ロレンツェッティ監督(右から2人目)とシルチ会長(写真提供:SIR SUSA VIM PERUGIA)
ポーカーフェスの舞台にて、スペシャルゲストのファビオ・ロヴァッツィ(左から2人目)、ロレンツェッティ監督(右から2人目)とシルチ会長(写真提供:SIR SUSA VIM PERUGIA)

共に夢を追い、情熱を共有する仲間はスポンサーだけではない。会長に負けず劣らず熱いペルージャのサポーター達である。地方都市であるからこそ、またイタリアでは断トツにファン数の多いサッカーで最上級カテゴリーのチームがないことも相まって、ペルージャのバレーボールへの関心の強さやファンの多さ、そしてその熱さは計り知れないものがある。

そんな彼らのサポートに感謝する意味も込めて6月22日、4冠を祝う「ポーカーフェス」がホームアリーナ前のウンブリア・ジャズ広場で行われた。若者を中心に人気のあるファビオ・ロヴァッツィなど3組の屋外音楽ライブは入場無料で、3000人の市民が音楽に合わせて踊り、トロフィーとともに写真を撮ったり、ポーカー特別Tシャツを購入することができた。各種フードトラックでは、年間パス所持者には20ユーロのクーポンが配布される特別待遇。もちろん何人かの選手やスポンサーも参加し、特別ディナー会も催された。

ペルージャの公式Xより

熱血会長「僕はありのまま」

ポーカーフェスにてファンと一緒に盛り上がるシルチ会長(写真提供:SIR SUSA VIM PERUGIA)
ポーカーフェスにてファンと一緒に盛り上がるシルチ会長(写真提供:SIR SUSA VIM PERUGIA)

話はまだまだ盛り上がるが、「WELCOME YUKI」Tシャツ緊急会議から1時間経過していたため、満を持して最後に「ご自身どんなタイプの会長だと思われますか?」と聞いてみた。

「かなり変わっていると思う」と、ふふっと笑みをこぼす。「好感も持たれるけれど、嫌われることもある。ちょっとおこがましいけれど、こうしてチームが強くなって僕も有名になって、嫌われるよりも好かれている方が多いと信じている。なぜなら僕はありのままなんだよ。イシカワを好きなのは、笑顔や勝ちへの欲求に親近感を覚えるから。時に素を出しすぎて、特に敵チームのファンには感じ悪く思われるかもしれない。でも理解して欲しいのは、愛を持って大きなことを成し遂げたいなら、自然と過度になるものだろう?大げさに見えるのだろうが、抑えるのは好きじゃない」

しかし、敵チームに対してのリスペクトは忘れない。「イタリアでスポーツはとても闘争心を露わにするけれど、バレーボールはそういうリスペクトを決してなおざりにしないスポーツなんだ」と締めくくった。(下に記事が続きます)

全試合駆け付け「いけー!」

インドで開催された世界クラブ選手権にも帯同した(写真提供:SIR SUSA VIM PERUGIA)
インドで開催された世界クラブ選手権にも帯同した(写真提供:SIR SUSA VIM PERUGIA)

確かYouTube番組・ウンブリアTVで、シルチ会長がサッカーとの比較をしていたのを思い出した。

「サッカーでは全てが許されるっていうか、スタジアムには発散しに行くっていうか、だから豹変しちゃう人が多い。例えばピッチにボトルを投げ入れるのもサッカーではよくあったことだけど、バレーコートだったら絶対に追い出されるか罰金が課せられる。古代ローマのコロッセオでは民衆を楽しませるために野獣に人を食わせたり人が殺し合ったりしたけれど、今は人をリスペクトする世界に熟成した。そういう意味でバレーボールはとても近代的な世界なんだよ」

日本のファンは観戦でも秩序正しく、自然な感情で応援するのは慣れていない。でもイタリアではもっと自由に応援してもいい。

「ファッロー!(反則だー!)」

突然立ち上がり手を斜めに振りかざす会長に筆者が一瞬たじろぐと、「後ろの人がこう叫んだら、それに負けずに僕も叫ぶ。観客が闘争心を出せばチームにパワーを与え良いプレーが生まれるからね。観客が少ない時の選手の力が8とすれば、満席だと9になる。それくらい巻き込まれるんだよ」

「ダーイ、ダーイ、ダーイ!(いけ、いけ、いけー!)」

再び拳を突き上げて大声を出した後、「声援を受けると試合のレベルが上がる。もちろんリスペクトは忘れずに、カルチャーの範囲内でね」とにっこり笑ってみせた。

予想以上に長く、熱いシルチ会長のインタビューを終えて、「こんな会長がいるチームが強くならないはずがないね」と、同伴してくれたソーシャル・メディア・マネジャーのフランチェスコに言うと、「その通り。会長はアウェーの試合が世界どこにあろうとも全試合に必ず駆けつける。ファンの存在と同じくらい選手が鼓舞されているのは、この会長の熱意だよ」と付け加えた。

日本の方にもぜひ、パラ・バルトンで観戦を……シルチ魂に満たされた会場で、興奮のるつぼに巻き込まれましょう!

Pen&Sports読者へ、シルチ会長からメッセージ

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