2025年の代表シーズン、VNL(ネーションズリーグ)でも世界バレーでもメダル獲得まであと一歩の4位と健闘したバレーボール女子日本代表。その躍進の余韻が残る中、選手はそれぞれのクラブに合流した。イタリアでプレーするのは、今季で3季目、強豪ノヴァーラで2季目を迎える石川真佑(25)と、女王コネリアーノから中堅のブスト・アルシツィオへ移籍した関菜々巳(26)の2人。彼女たちは代表活動、そして今季にかけるどんな思いを抱くのか。セリエA開幕2戦目であるノヴァーラ対ブスト戦のレポートをお届けするとともに、今回の記事では、試合前日の練習後にインタビューを行った関の「決意」に焦点を当てる。

創部25年、2011-2012は3冠

関が今季プレーするのは、UYBA BUSTO ARSIZIO(ウィバ・ブスト・アルシツィオ)。創部は2000年で、A昇格は2007-2008シーズン。現ベルガモ監督のパリージ監督が率いていた2011-2012シーズンはコッパ、スクデット、CEVカップと3冠を達成した時代もあるが、近年は良くてプレーオフ出場、昨年は6位でシーズンを終えた中堅クラブだ。
ブスト・アルシツィオはミラノが州都のロンバルディア州の西側にあり、現在は唯一日本からの直行便が出ているミラノ・マルペンサ空港のおひざ元。現在は人口約8万3000人の小都市だが、かつては繊維産業で栄え、今はそれで財を成した人物の美しい館と繊維博物館が残っている。
女子バレーボールクラブのメインスポンサーは、ブスト近郊ガッララーテに本社を構えるインナーとホームウェアのYamamay(ヤママイ)。同名の蝶がクラブのシンボルマークにもなっている。(下に記事が続きます)
審判にキレる姿「イタリア化してる」

「イオ!(私がとる)」「ブラーヴァ!(いいね)」。Palayamamay アリーナにひときわ大きな声が響く。イタリアに渡ってまだ2シーズン目、合流して1か月も経たない新チームの中で、そうとは思えないほど関は堂々とイタリア語で声を出し、精力的に練習に取り組んでいた。
イタリア1シーズン目の2024年11月にインタビューした時に「真面目な私でなくていい」と言っていた通り、表情はさらに豊かになり、声やジェスチャーで感情をストレートに出すのも板についてきた。関自身はそんな自意識はなかったそうだが、帰国して周りから言われたのは「すごく変わったね」。極めつけは「はぁっ!?とか審判にキレてると、ゆっこ(和田由紀子)に『セナさん、イタリア化してるー』『めっちゃ怒ってましたよね』って言われて、あ、そうなんだって」と笑う。
イタリアでは当たり前でも、日本ではそういうふるまいで存在感が際立つ。代表では自分より若い世代も増えたが、同じくイタリアで戦う新キャプテン石川真佑をサポートしながら、中心選手として新生日本代表を引っ張った。VNL(ネーションズリーグ)も世界バレーも司令塔として4位に導き、大健闘の結果で終えた。
海外に行くだけでは強くなれない

躍進の理由についてはアクバシュ新監督を中心に語られることが多いが、関はそれだけではなく、スタッフもほぼ総入れ替えとなったこと、若手がのびのびとプレーできるようにベテランが良い雰囲気を作ってくれたこと、自分を始め海外クラブ経験のあるメンバーが増えたことなどを挙げた。関自身は、「私が勝手にすごい人、自分は下の立場で戦ってる」と思っていた世界トップ選手がチームメートになって、「彼女たちも普通の人間で、私も彼女たちと同じ土俵で戦ってるんだ」と意識が変わり、心に余裕ができたのも大きかった、と語る。
そして、海外でプレーする石川や関の後に続くべき、という意見もより多く聞かれるようになったが、関の考え方はこうだ。
「海外に行くのが正義ではないし、行けば自動的にうまくなるわけではない。そこまでに至る自分の決断や道筋が大事であって、はいどうぞと言われて行っただけでは何も変わらない。言語や習慣も違う環境でもここで自分はうまくなるんだと覚悟を決めて、意識をもって過ごせるのなら行くべきだとと思います」。それを体現し、今の結果につなげた関の言葉には重みがある。
先日イタリアのエージェンシーと契約をした日本代表でNECレッドロケッツ川崎のアウトサイドヒッター佐藤淑乃(23)とは家族ぐるみの付き合いもあるため、本人や家族を通してイタリアについての質問を受けていたそう。また1人、イタリアリーグで日本人選手が誕生するかもしれない。(下に記事が続きます)
イタリア残留を強く希望「認められうれしかった」

イタリアに行く前から2年ぐらいはいたいと思っていて、今季もイタリアに残りたいと代理人に伝えていた関。それゆえにイタリア以外のチームからのオファーは代理人から関にあがってはこなかったが、日本のチームからのオファーはあったそうだ。そして念願のイタリアからのオファーでブストの名を聞いた時は、「昨シーズン、リーグ戦では数少なかったスタメンで出た試合の1つがブスト戦。その時のプレーを見てオファーをしてくれたのかな、と思って本当に嬉しかった」と顔をほころばせた。
昨シーズンは出場した大会ですべて優勝したコネリアーノに所属し、スタメンで出られる試合は少なくても世界トップチームでかけがえない経験を積んだ。2年目はもっと多くコートに立ちたいという気持ちが一段と強くなってのブスト移籍だが、ここでもそれは簡単なことではない。もう1人のセッターは昨シーズンのブストの正セッターで、今季はキャプテンも務めるボルディーニだ。
187㎝という長身にアグレッシブなプレーで、アタッカーの高さを引き出して気持ちよく打たせることができるボルディーニ。それに対して関は、スピードがあるトス回しでアタッカーに動きを、変化に富む攻撃を組み立てられる強みをアピールしたい。「試合中でも自然にそれができるように、アタッカーがどんなトスを欲しいのかを頭に叩き込んでおきたい」と、練習でもコート脇にある大型スクリーンに流されるプレーを逐一チェックし、ほぼ全てのトスに対してアタッカーと意見交換する姿が印象的だった。
関の入団を伝える投稿(UYBA Volley Busto Arsizio公式Instagram)
開幕2戦目、いきなり日本人対決

開幕第2戦は、石川真佑が所属するノヴァーラとの対戦だった。1セット目のスタメンはボルディーニだったものの、16-20と劣勢の場面で関がリリーフサーバーとして入り、そのままコートに残る。2セット目から関はスタメンで起用され、最後までコートに立ち続けた。
長く伸びるバックトス、最後まで手首を動かさず相手が読みずらいトスなどの技術的な面だけでなく、大きな声でチームメートを鼓舞する姿に大きな成長を感じた。結果は3-1でノヴァーラに軍配が上がったが、手ごたえを感じさせる内容だった。
昨年と同様、チームメートはオープンにお出かけに誘いあうので一緒に過ごす時間も多い。筆者がブストに取材に行ったノヴァーラ戦前日の練習後も、インタビュー後にミラノにランチに行っていた。その前は石川と郊外のショッピングセンターに出かけ、冬服や日用品を「爆買い」。石川とは車で40分の距離になったため昨年よりも頻繁に会うことでき、私生活もさらに充実するであろう。
もっと自由に、オープンに。守りに入らず、強気で攻めていく。さらに進化する関の2シーズン目に、見る私たちもワクワクが止まらなさそうだ。



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