イタリア男子バレーボールのセリエAスーペルレガでは、後半6戦目を終え、上位5チームが勝ち点12差にひしめく白熱した戦いを繰り広げていている。「台風の目」として開幕前から前評判が高かったヴェローナ(正式名称:ラーナ・ヴェローナ)は期待を裏切らず、現在レギュラーシーズンでは5位につける。昨年12月29日に行われたコッパ・イタリアの準々決勝では同3位で2022-23シーズンにコッパを制した強豪ピアチェンツァを倒し、クラブ史上初のファイナル4入りを決めた。準決勝の相手は同1位で日本代表キャプテン石川祐希が所属するペルージャだ。
連載[下]となる本稿では、ヴェローナにコーチ研修に来ている元日本代表でジェイテクトSTINGS愛知でも活躍した浅野博亮さんへのインタビューと、コッパ前のモデナ戦や1月23日に行われたラドスティン・ストチェフ監督とキャプテン・モジッチの記者会見などをふまえ、コッパ準決勝の大一番、ペルージャ戦の行方を占ってみる。
浅野コーチ「二枚看板が乗ればペルージャに勝てる」
浅野博亮さん(34)は、ジェイテクトSTINGS愛知でプレーした元日本代表のアウトサイドヒッターだ。2021年の現役引退後、「一度はバレーボール以外の仕事を」と会社員として3年間勤務したが、指導者の道を進むために現在ヴェローナにコーチ研修に来ている。浅野さんが在籍時のジェイテクトのコーチで、昨季ヴェローナのコーチであったフェデリーコ・ファジャーニ(現Vリーグ北海道イエロースターズコーチ)の紹介がきっかけだった。
かつて海外でプレーを夢見たこともあったが、178㎝という小柄な体格ということもあり実現しなかった。しかし、コーチとして世界最高峰のイタリアリーグに来ることができた今、日本とイタリアのバレーの違いを再認識しているという。パワーと高さ、攻撃に意識が向く海外リーグに比べ、日本は繊細さとテクニック、守備に重きを置くのが特徴。またケンカかと思うほどの意見のぶつけ合いと、それなのにあと腐れがない人間関係の構築は、外国人も多く在籍するようになった日本のリーグでも大いに参考にすべきところだという。
浅野さんはヴェローナに着いてまだ1か月あまりだが「街は美しくて人はとても優しい。英語もイタリア語もほとんどできないのに、皆に助けられて充実した毎日を送っています」と語る。(下に記事が続きます)
スポンサーではなく「パートナー」、ファンではなく「サポーター」。バレーの技術や選手との関係づくりはもとより、スポンサーやファンたちとの密接な関係性も、会社からしっかり見てきて欲しいと言われている課題である。
今季、善戦しているヴェローナに関しては、「何よりも若いチーム。それゆえに荒い部分もあるが、そのポテンシャルは計り知れないものがある。キャプテンのロク(モジッチ)はとにかく自分に厳しく、ストイチェフ監督も練習からものすごく厳しく、雑なプレーは一切許さない。これが、若いチームなのに上位に食い込んでいる理由だと思います」と述べた。
さて、目前に迫ったコッパ・イタリアの準決勝、レギュラーシーズンは2戦2敗しているペルージャ戦でヴェローナに勝ち目はあるのだろうか?浅野コーチに直撃した。
「勝てる可能性は大いにあります。課題である守備は今すぐどうなるものでもないので、まずはそこでミスをしないこと。そしてケイタとモジッチという二枚看板がしっかり決められるように、周りも彼らを乗せていく。彼ら2人が100%乗れば、止められませんから」と大きな期待を寄せた。
新フォーメーションでモデナに快勝
ケイタ、モジッチ、浅野さんへのインタビューは、モデナ戦の前日、モデナ郊外のヴェローナが滞在しているホテルで行った。翌日の試合日午前の練習見学も可能ということで、バレーの聖地ともいえるモデナのホームアリーナ、パラ・パニーニに向かう。
「あ、ここだけは試合前に写真を投稿しないでね」と広報担当が私に声をかけたのは、レセプションの練習の最中だった。最初はモジッチ、ケイタ、リベロのダミーコが2人ずつ交代で練習していたが、最後にこの3人が一緒に入り、位置取りなどを細かく確認する。ストイチェフ監督も彼らの後ろにつき、何度もアドバイスを送る。
OHジャボロノクの負傷後に続けてきたフォーメーションを変更し、モデナ戦ではOPに据えていたケイタをOHに戻すのだ。空いたOPはデンマークのエンセンを投入。後で聞いた話だが、ジャボロノクの穴を埋めていたOHサーニが風邪で万全でなかったことも1つの理由だった。
モデナ戦では、このフォーメーションがうまくハマった。相手のミスに助けられたことも多かったが、スパイク決定率はモデナの45%に対し52%、レセプションは51%に対し54%。エースはモデナ6本に対し4本にとどまったが、何よりも11本のブロックが大きな違いを生み、ここぞという時の踏ん張りもきいた。終わってみれば3-0のストレート勝ち、直近の2連敗を払拭する気持ちの良い勝利だった。
この日はヴェローナから100人以上のファンが詰めかけ、ホームのモデナ応援団に負けじと大きな声援を送った彼らに、選手や監督も大きく手を振り勝利をともに喜んだ。最後はモジッチがエンド2階席によじ登り、応援団の中へ。「NOSTRO CAPITANO(僕たちのキャプテン)」のコールが響くパラ・パニーニには、もうモデナの選手もファンも誰ひとり残っていなかった。
ストイチェフ監督「若い監督の初経験のように緊張」
試合前の独占インタビューは不可、モデナ戦後もコッパのことは聞くことが禁止だったためにこの日はストイチェフ監督とはあいさつだけに終わったが、ビッグマッチの2日前である1月23日に監督とキャプテン、モジッチの記者会見が行われ、筆者もリモートで参加した。
「ペルージャはこの3-4年で最強のチーム。イタリアリーグでもサーブとレセプションがダントツに良いチームで、特にサーブに関しては32%と3本に1本のエースを量産している。逆に彼らからエースを奪うのはたやすいことではなく、ハイセットからも決められるため、敵はなかなか崩すことができない。僕たちはそんなチームが相手だということは十分に分かっているので、それに向けてただただ練習に励んでいます」とペルージャの強さを分析した。
現役を引退した後は指導者となり、2007年にトレンティーノの監督就任するや否やスクデット(リーグ優勝)、チャンピオンズリーグ、世界クラブ選手権、コッパ・イタリアを制覇。その後もトルコのハルクバンク、モデナ、ブルガリア代表などの豊富な経験を持つ。しかし、今回ヴェローナで達成した初めてのファイナル4進出は、「若い監督が初めての経験をするように緊張している」とも明かす。
「モデナ戦での新フォーメーションは悪い結果になる可能性もあったし、チーム一いちの強力なサーバーでレセプションの中心だったジャボロノクの離脱は厳しい。彼のレセプションのおかげでミドルの攻撃も活発にできたし、ケイタがうまくスペースを使えた。しかし毎日の練習で前進しているし、その成果がこの数日に出てきているのは間違いない」と、ペルージャ戦へ向けて着々と準備が整っていることを示唆した。
ケイタ「信じるのみ」モジッチ「失うものなし、エンジン全開で」
モデナ戦前の独占インタビューでは、ケイタやモジッチにもコッパ・イタリアの準決勝の相手であるペルージャにどのように立ち向かうかも尋ねた。
ケイタはすぐに「分かんないよ、ただプレーするだけ」と笑った後、「勝つのは不可能じゃない。自分たちを信じてプレーするのみ」と、敵の分析や具体的なプレーについては全く触れず、自分に言い聞かせるように「just believe」を何度も何度も繰り返した。
一方、モジッチは「ずっと夢にみていた大舞台、相手は最強チーム。でも僕たちは(ペルージャとの)最後の試合もフルセットまでいったので、次こそはというモチベーションも大きい。何も失うものはない。全力で立ち向かうだけ。レセプションを崩せなければ世界トップセッターの1人であるジャンネッリにやられ放題になってしまうので、まずはサーブからガンガン攻めていく。勝つチャンスは十分にある。最初からエンジン全開で行きます」と力強く述べた。
リモートで出席参加した前述の記者会見で質問する機会があったので、ちょうど前日にYouTubeで見たペルージャのセッターでキャプテンのジャンネッリのコメントについて、モジッチに尋ねてみた。ジャンネッリは「厳しい試合になるし、どちらが勝つか分からない」と前置きしつつも、「ヴェローナは初参加なので、レギュラーシーズンとは違うコッパ・ファイナルの雰囲気にのまれるかもしれない」とコメントしたのだ。
それに対しモジッチは、「僕たちにプレッシャーはないとは言えないが、2連敗の今の状況ではプレッシャーがあるのはペルージャの方だろう。とはいえ、彼らは間違いなく立て直してくる。しかし強いチームが勝つのではなく、自分たちをより強く信じる者に勝利の女神がほほ笑むこともある」と、力強く締めくくった。
1月19日のモデナ戦前のインタビューで、ゼネラル・マネジャーのマルケージ氏からは「ケイタの契約更新までもう少し」と聞いていたが、この記者会見の前日22日、ケイタの2027年までの契約更新が正式に発表された。この朗報により、ヴェローナは最高潮の状態でビッグ・マッチを迎えるに違いない。
ペルージャがスーペルコッパに続く今季二冠目に向かって決勝にコマを進めるのか。初出場のヴェローナが番狂わせを起こすのか。コッパ・イタリア準決勝ペルージャ対ヴェローナは2025年1月25日16時15分(日本時間26日0時15分)、ボローニャのウニボール・アリーナにて行われる。
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コメント一覧 (2件)
こんにちは
記事を読ませていただきました。
引退後、会社員をしながら解説者としても活躍していた浅野博亮選手がどのような視点で現在のチームを見ているか、王者ペルージャ戦に対する見立てやベローナにコーチ研修に行っている目的や会社から見てきてほしいと言われている課題、技術や関係性づくり、スポンサーやファンとの関係性作りにまで話を深掘りしており、興味深く読ませていただきました。
有名選手だけでなく、チームを支えるコーチにスポットを当て記事を配信していただき嬉しく思います。
コメントをありがとうございます。
日本メディアでは当然ながら、今プレーしている日本選手やそのチームの記事に偏りがちなんですが、それ以外の選手やチームのストーリーも取材していきたいと思っているので、今回のお言葉はとても励みになります!イタリアリーグは純粋にバレーボールとして、また今回浅野さんやゼネラル・マネジャーさんがお話しくださったように、ファンやスポンサー、地域との取り組みもとても興味深いです。