コロナ禍で奪われた2020年夏を取り戻そうと、戦後初の中止となった第102回全国高校野球選手権大会(2020年)当時の選手たちが企画した「あの夏を取り戻せ~全国元高校球児野球大会2020‐2023~」は2023年11月29日、開幕。「栄冠は君に輝く」が流れ、指笛が鳴り響くなか、700人が甲子園の土を踏みました。全国から集まった42チーム(45校)がシートノックや入場行進、3日間に渡る交流試合を満喫しました。
シートノック5分。それぞれの「あの夏」
「あの夏を取り戻せ」はまず、各校ごと5分のシートノックから始まりました。Pen&Sports[ペンスポ]編集者の多田が狙っていたのは、新潟代表・中越でした。朝日新聞記者2年生だった29年前、同行記者として中越に同行、甲子園まで取材したからです。「CHUETSU」と胸に入ったグレーのユニフォームを見ただけで、こみ上げるものがありました。
1994年当時、鈴木春祥監督が率いる中越は甲子園出場が6年ぶり6回目でした。鈴木監督はなかなか勝てなかった甲子園で、就任30年目にして悲願の初勝利を挙げました。顔をくしゃくしゃにして泣く監督とは対照的に、エースの右腕・穐谷(あきや)正人投手が勝利インタビューで開口一番、「甲子園の審判、うまいですね」と笑ったのを覚えています。次の浦和学院には1-0でサヨナラ勝ちを収め、新潟県勢として10年ぶりの「甲子園2勝」も果たしました。
入場行進。中越OB・室橋さん「鳥肌が立った」
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入場行進は沖縄代表・八重山高校から始まりました(クリックすると拡大します)。本大会では見られない、女子マネジャーの姿もありました。どのチームにも喜びと個性があふれていました。中越OBの室橋弦輝さんは「甲子園は他のどんな球場とも違う景色でした。監督やOB、いろんな人から『甲子園は特別』と聞いていましたが、信じていなかった。でも初めて入って鳥肌が立ちました。3年越しに感じられて最高でした」。
現在は石巻専修大学3年生で、野球部主務として活動を続けています。入場行進も「みんなで話し合って、中越の伝統の足を高く上げる行進をしようと決めました」。人数が足らずに試合はできませんでしたが、笑顔が弾けていました。
42チームが入場したあと、大会アンバサダーを務める阪神前監督・矢野燿大さんは、下記のようなスピーチをしました。
小さい時から、野球を始めた時から「甲子園に行きたい」、その気持ちには本当に大きな喪失感と、どこにもぶつけることのできない悔しさがあったかと思います。その時から止まってしまった時間でしたが、この大会がまたスタートを切る大会になると信じています。
みんなが思い描いていた甲子園大会とは違う大会になってしまったかもしれないですが、みんなだからこそできた、特別な、特別なオンリーワンの大会になると思います。
この後、野球ができること。そして、この甲子園球場の土の感触、芝のにおい。そしてグラウンドからみるスタンドの景色。そんなものを思う存分、味わって楽しんでいってください。
2023年11月29日、阪神甲子園球場で
実感のこもった言葉でした。
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独立リーグでプレー続ける佐藤雄飛選手
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独立リーグでプレーを続ける中越OB・佐藤雄飛投手も甲子園に駆け付けました。ところが「プロアマ規定」を理由に、入場行進にもシートノックにも参加がかないませんでした。一緒に歩くぐらい…と水を向けると、「いやいや…。高1の甲子園出場時にも帯同メンバーに選ばれて、甲子園はスタンドでした」と笑いました。
佐藤投手は高校卒業後はNPB入りをめざし、新潟アルビレックスをへて現在、大阪ゼロロクブルズ(本拠・東大阪)に所属しています。2023年シーズンはリーグ2位の10勝を挙げる活躍でした。来季は「勝負の年。ドラフトに指名されなければ、辞める覚悟で臨みたい」と話しました。
本田仁哉・中越監督「負けることさえできなかった」

3塁側スタンドで本田仁哉監督に話を聞きました。本田監督にとっては2018年に出場して以来、5年ぶりの甲子園です。「やはり甲子園のグラウンドも景色も違いますね。感慨深いです。この機会をつくってくれたみなさんに感謝したい」。
甲子園に集まったのは当時の3年生16人中、7人です。ユニフォーム姿は現役そのものですが全員、丸刈りではないのでOBと気付きますね、というと「うちも丸刈りは3年前から選ぶようにしたんですよ」と本田監督。
中越は2020年5月20日に地方大会の中止が決まり、「独自大会」で8月6日、優勝しました。前評判は高くありませんでしたが、本命の日本文理に9-3で逆転勝ちしました。
本田監督:2020年はセンバツが中止になり、何となく夏もできないかもしれないと思う一方、大会がなくなるわけがないとの思いもあって。独自大会では3年生16人がフルメンバーで戦いました。自分たちでオーダーを組んで、代打も代走も考えて、自分たちでやるんだと。切り開いていく、自分たちで主体的にやることほど尊いものはないなと感じました。
2021年も試練が続きました。県大会は開かれましたが試合当日の7月13日、学校が臨時休校になったため、規定により出場辞退(不戦敗)となりました。
本田監督:もっと、こんなことがあるなんて、と。試合ができないということは、勝つことはもちろん、負けることさえできない。どうしたらいいのかと。
3年ぶりの大会となった2022年は、県大会準決勝で延長12回、0-1で帝京長岡に敗れました。2023年は県大会決勝に進出、9回裏2アウト2ストライクから逆転され、5-6で東京学館新潟にサヨナラ負けしました。「負けに不思議の負けなしとは思っていますが…」。来夏こそ、の思いがにじんでいました。
高野連会長「多忙」により欠席
一連のセレモニーに宝馨(たからかおる)高野連会長は「多忙」を理由に欠席、メッセージが代読されました。聞きながら思いました。自分自身が多忙なら副会長でも、代理を送ることができたのではないですか、と。
プロジェクト発起人・大武さん「苦労吹き飛んだ」
プロジェクトの発起人は城西(東京)の元・野球部員で、現在は武蔵野大学3年の大武優斗さんです。大武さんはセレモニーのあと「多くの人に支えられて開催できました。いまが幸せすぎて、実現するまでの苦労も全部忘れてしまいました」と話しました。
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