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【柔道】角田「金」泣き虫なっちゃん、必殺の巴投げ開花 | 48kg級 パリ五輪

2024年 パリ五輪 柔道 女子 48kg級 決勝 キャプション (U to D) Baasankhuu BAVUUDORJ (MGL), 角田夏実/Natsumi Tsunoda (JPN), JULY 27, 2024 - Judo : Women's -48kg Final during the Paris 2024 Olympic Games at Champ de Mars Arena in Paris, France. (Photo by YUTAKA/AFLO SPORT) クレジット表記 写真:YUTAKA/アフロスポーツ 日付 2024年7月27日 人物 角田夏実, バブードルジ・バーサンフー 撮影国 フランス コンテンツカテゴリー 柔道
パリ五輪柔道女子48㎏級決勝、バブドルジ(モンゴル)を巴投げで攻める角田夏実(下) =2024年7月27日、パリ・シャンドマルス・アリーナ(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
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競技が本格的に始まったパリ五輪第2日の2024年7月27日、柔道もシャンドマルス・アリーナで開幕。先陣を切った女子48kg級で角田夏実(SBC湘南美容クリニック)が優勝。日本選手団として今大会第1号の金メダルを獲得した。このメダルは1912年に日本が初めての五輪となるストックホルムに参加して以来、通算500個目という記念のメダルに。48kg級では04年アテネの谷亮子以来、20年ぶりの頂点となった。

目次

連続一本勝ち、強さ証明

まさに日本柔道が目指してきた鮮やかな一本勝ちの連続。角田が初出場の五輪で、その強さを証明した。初戦の1回戦から相手を寄せ付けなかった。ブラジルの選手から巴投げで技ありを奪うと、腕ひしぎ十字固めで一本勝ち。2回戦の南アフリカの選手も同様に仕留めた。

3回戦は最難関と見られた地元フランスのブクリとの対戦。角田は左、ブクリは右のけんか四つだったが、こちらも相手にほとんど攻めさせないまま、巴投げで一本勝ち。準決勝はスウェーデンの若手選手に粘られ、延長の末に相手の反則負けで勝ち上がったが、決勝では今年の世界王者であるバブドルジ(モンゴル)から、またも巴投げで技ありを取り、一本までは届かなかったが、文句なく勝負を決めた。

21、22、23年の世界選手権15試合連続一本勝ちで3連覇した実力は、この日も遺憾なく発揮された。強さの根源は、自らの「型」を持ち、ほとんどの時間、先手で攻め切り、勝負していることに尽きる。得意の寝技と巴投げ。特に投げてから、寝技の関節技への移行の速さ、正確さは秀逸だ。相手が分かっていても防ぎようのない強さは文字通りの「横綱相撲」。圧勝だった。

柔術学び「腕ひしぎ十字固め」

飛躍のきっかけは、東京学芸大時代に通常の部活動以外に「柔術」を学んだことに始まる。戦国時代の組討ちに起源を持つ柔術は、素手で相手を制する技術として関節技や締め技を決め手にした。当時、ロシアの伝統的な格闘技であるサンボと柔術に取り組むOBがおり、「柔道の足しになれば」と軽い気持ちで練習に加わったことから道が開けた。その中で「腕ひしぎ十字固め」という必殺の関節技をものにしていった。

それだけなら同様に関節技、締め技、抑え込みの寝技に強く、「蟻地獄」「寝技師」などと呼ばれる過去にいた選手と同じだ。だが、角田はそれに加えて独特の「巴投げ」を身に着けたことが大きい。社会人になってからこの技をマスターしたことで、立ち技から寝技への勝ちパターンが出来上がったと言ってよい。(下に記事が続きます)

巴投げ、両手両足で相手を宙に

「背負い投げ」とともに、柔道を経験したことのない人たちもなじみのある巴投げは、分類で言うと「捨て身技」と言われる自ら体を投げ出す形の技。普通は、相手の目の前で自分の背中を畳に着けるようにして、片方の足を相手の下腹部に当てて持ち上げ、そこを支点に自分の頭の後方や横に落としていく。俊敏でリズム感のある軽量級の選手がよく使う技だ。

しかし、角田の場合は手と足の使い方に特徴がある。まずは利き足の左足を当てるが、すぐさま右足も追いかけて2本の足で相手を持ち上げる。ここでいったん粘られても、あきらめない。今度はすぐに投げるのではなくそのまま足の力を使って相手を宙に浮かせる。次に、何とかこらえようとする相手にとどめを刺すのが手だ。襟を持っている釣り手と袖を持っている引手でも引きつけ、持ち上げてコントロールして、両手両足で相手のバランスを崩す。元々が一つ上の52kg級だった角田は161cmと最軽量の48kg級では長身だ。その長い手足を有効に使って、相手を投げ飛ばしてしまう。

ルールも追い風

実は巴投げは、近年の「時代に合った技」と言える。小学校から大学まで柔道をしていた私は、2本足を含めて巴投げをかける選手は何人も見てきたし、対戦したこともある。だが、その時は私も含めて掛けられた相手の多くがどちらかの手で腹に当てられた足を払ったり、支点をずらしたりして攻撃を防いだ。しかし、今の国際柔道連盟(IJF)のルールでは、立った状態で相手の帯から下に手を持って行くと反則になる。組み合う前にいきなりタックルをする外国選手が増え、「レスリングとの差別化」との理由でそうなったのだが、その防御法が使えない時代であることも、角田にとっては間違いなく追い風となっている。

階級下げ世界王者に

柔術や巴投げと出会う前の角田は、自信が持てず、「技が掛からない」と言っては練習中や試合前によく泣きだす選手だったという。負けず嫌いだが、いつも最悪を考え、不安が先立つタイプ。柔道を辞めたいと思ったこともある。千葉の八千代高時代には会場での整列の段階で泣き出すようなこともあり、監督から「なんで、泣いているんだ」と問われて、「分かりません。涙が勝手に出てくるんです」と答えていたそうだ。

自己分析によると、「気持ちが高ぶると自然と涙が出てくる」とのこと。ドラマや映画を見ても涙もろいのは幼い頃から。でも、涙が出るとすっきりもするそうで、逆に全く泣くことなく試合をすると動きが悪かったりするらしい。「母からも『貴女は泣くと、不安がなくなる。それは顔を見たら分かる』って言われるんです。だから泣くのは止めません」

前回の五輪代表レースは52kg級で挑んで7歳年下の阿部詩らと競いあった。阿部には3勝1敗と勝ち越しながら国際大会の実績等で選ばれず、その後、48kg級に転向した。日本勢で階級を上げて成功した例はあるが、下げて大成した選手は思い当たらない。それでも決断しなければ、世界王者にも今回の代表にもなれなかった。阿部に対してのライバル心はもうない。「(阿部は)あの東京五輪で結果を出した。気持ちの強い選手だな、と思った。もしも、あの時に私が出ていても、あんな結果は出せなかったと思う」と言える。(下に記事が続きます)

31歳11カ月、日本柔道の「金」最年長

これで柔道は、1964年の東京で五輪に初採用されて以来、日本が出場した14大会連続(68年メキシコは採用されず、80年モスクワは日本が不参加)で、計49個目の金メダルに。31歳11カ月での優勝は、日本柔道界では3年前の東京での濱田尚里(女子78kg級)の30歳10カ月を上回り、男女の歴代最年長の記録になる。

大会前、角田は「五輪と世界選手権の違いは、世界選手権は優勝したらみんなから『おめでとう』と言われるけど、五輪は出場前からたくさんの人に応援してもらえる。これまでは結果は自分に返ってくるものという感覚だったが、五輪になると自分にではなく、周りに返すものになるというすごさがある」と話していた。

道場で畳の上に立つと「ああ、私は柔道が好きなんだなぁ、と思える。続けてきてよかった」という「泣き虫なっちゃん」。父に誘われて小学2年で柔道を始めた彼女は、これまで多くの指導者、先輩、後輩、同級生らの仲間に囲まれながらも、数えきれないほどの悔し涙を流してきた。

だが、この夏のパリでの表彰台ではついにうれし涙に。「これまで苦しいことが多かったので、もうあの頃には戻りたくない」と話しながら、最高の笑顔にたどり着いた。

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