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【2024パリ五輪】日本代表内定選手リスト完全版です。(7.18更新)

【パラスポーツ】小須田潤太と高居千紘、それぞれの「金」へ。超ポジティブ競技人生

【O-EN フォーラム presended by OPEN HOUSE】
右から五十嵐亮太さん、高居千紘、小須田潤太、久下真以子さん=写真提供:オープンハウス(以下すべて)
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障がいがある2人のトップアスリート・小須田潤太と高居千紘のトークに50人の聴衆からどっと笑いが起きる。会議室に満ちていく超ポジティブな空気。そこには悲壮感のかけらもない。住宅大手のオープンハウスグループ(本社・東京)が2024年6月10日、東京体育館で開催したパネルディスカッション「O-EN フォーラム」を取材した。これまで五輪5大会を現場で経験した筆者自身もメモを取る手が止まるほど、彼らの話に引き込まれた。「パラスポーツと共創する新たな未来」という少しお堅いタイトルを、いい意味ではみ出した「驚き」と「笑い」が詰まった内容をリポートする。聞き手は元プロ野球選手の五十嵐亮太さん、パラスポーツの取材経験が豊富なフリーアナウンサーの久下真以子さんが務めた。

目次

義足スノーボーダー小須田、2026ミラノ「金」めざす

右足を失った事故のことを笑顔で話す小須田(左から2人目)
右足を失った事故のことを笑顔で話す小須田(左から2人目)=東京体育館で

パネリスト1人目の主役は、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季パラリンピック・スノーボードクロス男子で金メダルを目指す小須田潤太(33)=オープンハウス=だ。

2021年東京パラリンピック陸上男子走り幅跳び(義足T63)で7位、その半年後の2022年北京冬季パラリンピックではスノーボードクロス男子でも7位入賞を果たしている。

夏・冬二刀流のパラリンピアンは「メダリストとそれ以外の決定的な差を感じて、メダルを取るための最短の道を考え抜いた」という理由で、現在は競技をスノーボード一本に絞っている。ミラノ・コルティナパラリンピックでの金メダルが最大の目標だ。オープンハウスの社員でありながら、現在はトレーニングに専念でき、遠征費や義足購入のサポートを受ける恵まれた環境だ。

「いま足をあげますと言われても、いらない」

「足がなくなって悩んだりすることはなかった」と話す小須田
「足がなくなって悩んだりすることはなかった」と話す小須田

「心の底から足がなくなってよかった」。右太もも下を切断した義足の小須田の言葉が衝撃的だった。「いま、足をあげますよ、どうしますか?と言われても、絶対にいらない。障がいを負ったことで得たものの方が大きかったので」

大事故にあったのは、21歳だった2012年3月31日のことだった。契約社員として勤務していた引っ越し会社の繁忙期でほぼ休まず働きづめだったその日、2トントラックを運転しながら居眠りをした。電柱に激突。「その場で意識が戻って気づいたら、膝から下の足がもうなかった。でも考えていたのは自分の足のことよりもお客さんの荷物をこれからどうしよう、会社になんて報告しよう、ということでした」。マイクを使わなくてもよく通る声で、小須田は人生最大のピンチを自ら、笑い飛ばした。

小須田が振り返る。「当時は何も考えずにただ生きていた。何かに打ち込んでいたわけでもなく、目標もなかった」。小学校から続けていたサッカーも高校1年でやめてしまった。

5人兄弟の2番目。「3番目の弟が病院で足がなくなった自分を見て泣いた」と話した時には、少ししんみりした表情を見せたが、小須田自身は「足がなくなって、悩んだりすることはなかった」ときっぱり。「あれから考え方も、生き方も変わった。みなさんの前でこうして話すことなんて絶対にありえなかったですからね」と笑った。

第一人者・山本篤さんの背中を追って

2024年2月にフィンランド・ピュハで行われたパラスノーボードのワールドカップ、スノーボードクロス LL1で銅メダルを獲得した小須田潤太選手(オープンハウス提供)
2024年2月にフィンランド・ピュハで行われたパラスノーボードのワールドカップ・スノーボードクロス LL1で銅メダルを獲得した小須田

パラスポーツを始めるきっかけは2015年8月、義足ユーザー向けのランニング講習会だった。何気なく参加したその講習会で、パラ陸上の第一人者、男子走り幅跳び北京、リオ大会銀メダルの山本篤さんに出会った。右足を失って以来、走るなんて想像もできなかったが、自分と同じように太ももから足を切断しながら、全力疾走する山本さんに衝撃を受けた。

小須田が2017年からスノーボードに取り組み始めたのも、2018年平昌パラリンピックにスノーボードで出場した山本さんの背中を追ったからだ。

「いまの会社(オープンハウス)に入社できたのも、山本さんに紹介いただいたのがきっかけです。尊敬している山本さんを超えたい」。2024年5月に現役を退いた山本さんに恩返しする意味でも、冬季パラリンピックで金メダルという明確な目標に小須田は突き進む。来年2025年、まずはカナダで行われる世界選手権で優勝し、ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季パラリンピックの出場権を獲得するシナリオを思い描いている。

思い描く未来は「野次OK」

義足を聴衆に見せる小須田。スノーボード用の義足は嗜好品扱いで保険適応外。約150万円するという。
義足を聴衆に見せる小須田。スノーボード用の義足は保険適用外。約150万円するという

2021年自国開催だった東京パラリンピックを経験し、スノーボードに専念しているいま、小須田は感じていることがある。「陸上競技では健常者と障がい者が同じ大会に出る機会も増えてきましたが、冬の競技はまだそこまで行っていない」

「海外のスキー場に遠征すると、五輪やパラリンピックに出るようなトップ選手と、子どもたちが同じ場所で練習している。遠征する自分たちはそこに混ぜてもらうんです。そこには壁がなくて、いいなあと思います。そういう環境はまだ日本では少ないのかな」

オーストラリアに遠征していた時には、街中で8歳ぐらいの子どもから”I like your leg(あなたの足が好き)”と声をかけられた。「衝撃でした。日本なら、腫れ物に触るじゃないですが、親がジロジロ見ちゃだめよというんです。こっちに気を使ってくれているのでしょうけれど、気の使い方が海外とは違うんです」

「パラスポーツと共創する新たな未来」というテーマの締めに、小須田はこう言った。「成績が振るわなかったときは、野次、大歓迎です。お願いします!」

高居千紘の目標、2025東京デフリンピック「金」

デフリンピックの知名度を上げたいと話す高居
デフリンピックの知名度を上げたいと話す高居

もう一人、パネリストとして登場した障がい者アスリートは、聴覚障害者のための2025年東京デフリンピック・男子走り高跳びで日本記録での優勝を狙う高居千紘(27)=コカ・コーラボトラーズジャパン=だ。

生まれつき感音性難聴の障害があるが、相手の口の動きや表情を見て聞き取り、しっかりと語尾まで濁らず発声する。専門は陸上競技の走り高跳びで2013〜2015年に全国聾学校陸上で3連覇。ベスト記録は1m90だ。コカ・コーラボトリングジャパンの社員として、人事データの管理・分析などを担いながら、2025年11月15日〜26日に東京で開かれるろう者のためのオリンピック「デフリンピック」で金メダルを目指すハイジャンパーだ。

高居は健常者と同じ学校に通った中学までバレーボールに取り組んだ。高校から特別支援学校に進み、デフリンピックのハンマー投げの金メダリストで健常者の日本選手権にも出場した森本真敏さん(39)の講演を通じてデフ陸上、デフリンピックの存在を知った。

「自分も森本さんのようになりたいと思った。中学まではバレーボールをしていたのでジャンプ力を生かせると思って、走り幅跳びに挑戦しました」。日体大に進学後、さらに社会人になっても競技を続けたいという高居の希望をかなえたのが現在の職場、コカ・コーラボトラーズだ。

元日本記録保持者から直接指導

「中学まで取り組んだバレーボールのジャンプ力を生かせると思い走り幅跳びを始めた」と語る高居(右から2人目)
「中学まで取り組んだバレーボールのジャンプ力を生かせると思い走り高跳びを始めた」と語る高居(右から2人目)

「パラリンピックの知名度は上がっていますが、デフリンピックの知名度はまだまだ。自分が来年のデフリンピックで金メダルを取って、同じ障がいを持つ子どもたちに夢や勇気を与えたい」。その目標が高居を突き動かしている。

「実は1m90の自己ベストを出したのは高校3年生の時。ここ10年ぐらい記録が伸びていないんです」。それでも、2023年のアジアデフ選手権で1m80を跳ぶなど、コンスタントに競技力をキープしている。

「健常者の元日本記録保持者の方に新たに指導を受け始めました。2mを跳べば、デフリンピックでもメダルが狙える」。2006年に2m33の日本記録(当時)をマークした2008年北京五輪代表の醍醐直幸さん(43)の指導を受け始めたといい、高居はそれをきっかけに2mに迫る飛躍的な記録更新を目指す。デフ日本記録は2m01だ。

新コーチの醍醐さんは高居と同じ身長182cm。その低身長で2m33を跳んだこともあり、跳躍フォームや助走技術など、吸収できることは多そうだ。高居は2024年7月18日〜23日には、走り高跳び日本代表として、台北で開かれる第5回世界デフ陸上選手権に出場する。(下に記事が続きます)

ファッションモデルの顔も

高居にはもう一つの顔がある。ファッションモデルだ。今年2024年4月23日「多様性」をテーマに開催されたカナダ・バンクーバーでのファッションウィークでモデルに抜擢され、ランウェイを歩いた。「それも、デフリンピックを多くの人に知ってもらうため。きれいに歩くというよりは、自然体で、転ばないように歩きました」と照れくさそうに語った。

現役を終えたらやりたいことを聞かれた高居は「今は控えているお酒をたくさん飲みたいです」とニヤリ。「お酒は強いか?ですか。はい、日体大出身なので。コカ・コーラからも『檸檬堂』というお酒が出ています。おいしいですよ」と語り、聴衆を笑わせた。

自然と応援したくなる土壌こそ

「応援」や「共創」がテーマだった今回のパネルディスカッションに耳を傾けながら、2023年5月に取材した車いすテニスの国枝慎吾さんの言葉を思い出した。生涯グランドスラムを達成、東京パラリンピックで金メダルをつかんで引退した国枝さんは「パラリンピックを盛り上げようみたいな風潮は、すごく気持ち悪い」と言った。

オリンピックは「盛り上げよう」と言われないのにパラリンピックだけ「じゃあ盛り上げよう」っていう風潮は、まだオリンピックの域に達していない証拠だ。選手も努力しないと、パラスポーツが真の意味でスポーツとして認められない、と語っていた。スポーツではなく、福祉に寄った「盛り上げ」は、パラスポーツの価値を逆に貶めると個人的にも思う。

そういう意味では、今回パネルディスカッションに登場した小須田、高居の両トップアスリートと所属企業の関係は理想的に映った。企業の惜しみない支援を選手は競技結果と社会への貢献、引退後のセカンドキャリアで返す。企業による「応援の押し売り」ではなく、自立した選手自身の発信で、自然と応援したくなる雰囲気ができていく。それが心地よかった。

オープンハウスグループ 戸建事業を中心に、マンション事業、収益不動産事業、海外不動産事業など幅広く手がける独立系総合ディベロッパー。1997年創業から右肩上がりの成長を遂げ、2023年9月期決算では売上高が1兆1484億円となり、初の売り上げ1兆円超えを達成。純利益も前年比18.2%増の920億円で過去最高益を更新した。「挑戦する人や組織を応援する」という企業姿勢を掲げ、2018年からプロ野球ヤクルト球団のトップスポンサーを継続中。障がい者雇用にも積極的で、2023年6月には全社員に占める障がい者雇用率2.9%を達成した。2024年2月からは東京都パラスポーツ応援プロジェクト「TEAM BEYOND」に参画し、パラスポーツ振興にも注力している。社員約6,000人。本社は東京駅徒歩1分、東京都千代田区のJPタワー20階と21階。

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