ハンドボールの各ポジションに求められる役割、技術について、2024年9月に発足した国内トップリーグ・リーグHで活躍する選手のプレースタイルとともに紹介します。第5回はライトウイング(RW)。右サイド、逆サイドなどと呼ばれるポジションで、ここにいい選手を置けるチームは強いです。高度なシュート技術を持った左利きや、玄人好みな働きをする右利きなど、味わい深い選手が揃っています。
中田航太(レッドトルネード佐賀)純正のフィニッシャー

2000年代前半にリーグ6連覇を達成したHONDAの教えのひとつに「いい攻撃をすると、右サイド(ライトウイング)が余る」があります。左側で攻撃の波を起こしていけば、右側で必ずプラス1(1人余った状態)が作れます。それを確実に仕留めるのがフィニッシャーの仕事です。
国内で一番精度の高い左利きは、日本代表に選ばれた中田航太(レッドトルネード佐賀)です。余計なことをせずに、最後まで遠め(左利きの中田から見て左)か近め(同じく右)かわからないシュートフォームで、丁寧に打ち分けます。2025年1月の世界選手権では、海外の大型GKに面食らっていた様子でしたが、国内での高いシュート率(8割超え)に近い数値を、国際試合でも残せるようになってほしいですね。古きよき古典的ライトウイングの代表格には、出村直嗣(豊田合成ブルーファルコン名古屋)がいます。バックプレーヤーをウイングに転向させる豊田合成では、数少ない純正のウイングプレーヤー。その出村の後継者と言われているのが朝野暉英(豊田合成ブルーファルコン名古屋)です。出村に習った遠めの上の打ち方を短期間でマスターするなど、センスにあふれています。
女子では服部沙紀(ブルーサクヤ鹿児島)の精度が抜きん出ています。国内でも対アジアでも対ヨーロッパでも、手許の見えにくいコンパクトなフォームから、7割以上の確率でシュートを決めます。相手の息の根を止める速攻も見事です。新沼未央(イズミメイプルレッズ広島)は、三橋未来がケガで出遅れた間に、ライトウイングの定位置をつかみ取りました。7mスローを任されるなど、シュート技術のある左利きです。松浦志織(アランマーレ富山)もシュートが巧い左利き。西川千華(香川銀行シラソル香川)はチーム待望の左利き。西川が移籍してきたことで、香川銀行の右側の得点力が大幅に上がりました。
金岡宙斗(アルバモス大阪)オンリーワンの技

左利きはめちゃくちゃ器用な人と、極端に不器用な人に分かれる傾向があります。ライトウイングには、手先の器用さを生かしたオンリーワンの技を持ったテクニシャンが揃っています。
ライトバックでの出場機会が増えている蔦谷大雅(ジークスター東京)は、ループシュートが一級品。勝負のかかった場面でも、GKを翻弄するかのようにループシュートを繰り出します。鈴木幸弥(大崎オーソル埼玉)の必殺技は、GKの頭の上を抜くハーフループ。野球のチェンジアップみたいな抜き球で、GKのタイミングを外します。金岡宙斗(アルバモス大阪)は左腕の名産地・高岡向陵高校(富山県)の出身。大きい割には手先が器用で、逆スピンからの浮かしを打てます。尾﨑佳奈(熊本ビューストピンディーズ)の逆足シュートは、ある種の「異常中の正常」。本来ならば直されるはずの動きを、独自の技に昇華させました。左手を挙げて、左足で踏み込むから「DFに当たられても、体勢が崩れにくい」とのこと。確かに踏み込んだ瞬間は古武術的な動きになって、接触に負けない力が出ます。逆足を主にする尾﨑は珍しいパターンですが、歩数が合わなかった時の引き出しとして、逆足ジャンプは効果的です。
後藤悟(安芸高田わくながハンドボールクラブ)パスセンス

速攻でのつなぎだったり、セットOFでのさりげないパスだったり、ライトウイングにパスセンスがあると、攻撃の幅が広がります。特にポストパスを落とせるウイングがいると、コートの端で簡単な2対2が成立します。
後藤悟(安芸高田わくながハンドボールクラブ)は大阪体育大学出身者らしく、ピヴォットを見ながらのプレーができます。新外国人のビルキル・ベネディクトソンがライトバックから切って、相手DFの1枚目とミスマッチを作った時に、回り込んでパスを落とせます。柴山裕貴博(ジークスター東京)も大阪体育大学出身なので、たまにポストパスを出したりします。パスセンスのあるライトウイングで記憶に残るのが平子卓人(元大同特殊鋼)です。北陸高校(福井県)時代から視野が広く、当時は小柄なライトバックでしたが、全国大会の決勝で無得点にもかかわらず、鮮やかなアシストで相手を翻ろう。対戦校の監督に「平子にやられた」と言わしめるほど、パスだけでゲームを支配していました。大同特殊鋼ではライトウイングに専念しましたが、速攻のつなぎなどで見せるパスセンスはさすがでした。
谷藤要(アースフレンズBM)速攻で映える

ウイングは速攻で走るポジションです。40mの長い距離を走って、得点に結びつけるのが仕事。ライトウイングは、走る姿が絵になる選手が多いポジションでもあるのです。
谷藤要(アースフレンズBM)はサイズもあって、運動能力の高い左利き。「下位のチームだからあまり騒がれていないけど、上位のチームにいたら日本代表に呼ばれてもおかしくないよ」と言う人もいるくらい、高いポテンシャルを有します。ただ速いだけでなく、高く跳べて、2次速攻ではクロスからのミドルを打ち込めるなど、引き出しが豊富です。田代健流(福井永平寺ブルーサンダー)は福井に移籍して、引退した髙森翔太の穴を埋める活躍を見せています。2023年度のシーズンは谷藤、田代がアースフレンズでポジションを分け合っていましたが、2024年度はどちらも所属で1番手になりました。移籍が活発になるのはいいことです。治田大成(レッドトルネード佐賀)は、中田航太が世界選手権で抜けた間に力をつけて、出場時間を増やしています。速攻で盛り上がるのは川上真愛(ブルーサクヤ鹿児島)。愛くるしい顔立ちのムードメーカーは、シュートが入ったり入らなかったりはありますけど、1本決めるだけでベンチが異様に盛り上がります。
櫻井睦哉(ブレイヴキングス刈谷)DF力重視

ライトバックに攻撃的な選手を置きたい場合、ライトウイングに守備的な選手を置いて補完します。2人とも攻撃型だと、ベンチから遠い側になった時のDFが壊滅するからです。左利きで守備力が高くて、そこそこシュートを決める選手がウイングにいれば、攻守両面でプラスになります。
櫻井睦哉(ブレイヴキングス刈谷)はDF力のある大型ライトウイング。右の2枚目に入り、相手のエースとマッチアップして、マークを外さず足でついていきます。右サイドからのシュートでは、特に難しいことはしませんが、シンプルによく入ります。阿久津祐子(熊本ビューストピンディーズ)は3枚目が守れる大型ウイング。これまでの日本の女子にはいなかったタイプの左利きです。日本代表では右側のDFのバランスを整えるために、阿久津の出場時間がかなり長くなりました。ベンチから遠い側で攻防チェンジができなかった場合に備えて、3枚目を守れる阿久津の存在が保険として役立ちました。松倉みのり(北國ハニービー石川)はクロスアタックが得意な1枚目DF。安部碧(アランマーレ富山)は2枚目を守れるので、右側のバランスを整える際に重宝します。山崎佑真、武良悠希(ともに大崎オーソル埼玉)も守備型の左腕。特に武良が3枚目を守れるようになれば、色んな組み合わせが可能になるでしょう。
夏堀郁音(HC名古屋)右利きライトウイング

右利きのライトウイングは、海外ではほとんどお目にかかりません。日本独自の文化かもしれません。昭和の時代には野田清(元大同特殊鋼)が、右サイドから倒れ込む「ムササビシュート」で一世を風靡しました。今も職人気質な選手が、右利きライトウイングには揃います。
右利きライトウイングで絶賛売り出し中なのが、日本代表にも選ばれた夏堀郁音(HC名古屋)。右の2枚目DFでハードワークしながら、速攻でもよく走り、セットOFでも角度のないところから飛び込みます。桐蔭横浜大学の岡本大監督が「球際の強さとか、長く使うほど夏堀のよさが出るんですよ」と言うとおり、2年目で定位置をつかんで、いい働きを見せています。比嘉信吾(琉球コラソン)はチームの汗かき役。骨惜しみせずよく走り、球際で執念を見せてくれます。琉球コラソンにはかつて、右利き右サイドの名手・名嘉真吾がいました。コラソンのライトウイングは「シンゴ」のポジションです。奥山夏帆(大阪ラヴィッツ)、内藤ひな(香川銀行シラソル香川)、高橋杏奈(飛騨高山ブラックブルズ岐阜)は、いずれも守備型の右利きライトウイング。高橋は161㎝の身長で3枚目を守り、マークを受け渡すか、そのままで守るかを上手に使い分けます。
大島ひなた(ザ・テラスホテルズラティーダ琉球)バックもOK

左利きの人数が少ないチームは特に、ライトバックとライトウイングを掛け持ちでやれる選手がいると助かります。右側の2ポジションを3人で回せたら、他のポジションにも人数を割くことができます。
大島ひなた(ザ・テラスホテルズラティーダ琉球)はライトウイングでスタートし、途中からライトバックに回って、朴宣映の休憩時間を作ります。センターでのパス回しもできるなど、3ポジションでそつなくプレーできます。安田つぐみ(北國ハニービー石川)は元々がライトバック。2枚目を守るには不安があるので、ウイングと1枚目DFでサイズのアドバンテージを生かした方がいいかもしれません。回り込んでミドルを打ち込めたら、今までの北國にいなかったタイプのライトウイングになります。堤裕貴(トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城)は、2ポジションで高度なシュート技術を見せるベテラン。2枚目DFでも運動量豊富です。村藤空吾(大同フェニックス東海)は、大同大学時代はライトバックで点取り屋でした。大同に入ってからはサイズの関係でウイングに限定されていますが、広いスペースをもらった方が彼の得点感覚は生きると思われます。梅岡大祐(ゴールデンウルヴス福岡)は小さなライトウイングですが、マインドはバリバリのバックプレーヤー。DFで奮闘する木村翔太が疲れてきたタイミングでさりげなくポジションを入れ替わり、スキルフルなプレーで得点します。
角森彩(飛騨高山ブラックブルズ岐阜)ピヴォットもOK

大きいピヴォットを無理やりウイングに置くのではなく、機動力のある選手をライトウイングとピヴォット兼用にするパターンです。
角森彩(飛騨高山ブラックブルズ岐阜)は高い水準で、ライトウイングとピヴォットの両方でプレーできます。右の2枚目DFでの積極的な牽制からパスカットで飛び出し、速攻の先頭を走ります。セットOFでは右側からのプロンジョンシュートだけでなく、切ってダブルポストになったり、そのままピヴォットでプレーしたりと、幅広い活躍を見せます。ちなみに角森の山陽高校(広島県)時代の恩師・青戸あかね監督(元広島メイプルレッズ)はレフトウイングとピヴォット兼用で、鉄壁の2枚目DFを誇った元日本代表です。角森は青戸監督の最高傑作。勘のよさ、ハートの強さは恩師譲りで、脚力だけなら恩師をはるかに超えています。
土佐竜眞(富山ドリームス)両手を使い分ける


ハンドボールは左右対称なスポーツです。右手と左手の両方を同じくらい使えると、理論上は最強です。
土佐竜眞(富山ドリームス)は登録では右利きのレフトウイングですが、ライトウイングに入ったら、左手できれいにシュートを打ちます。レフトウイングではもちろん右手で打ちます。両利きで登録してもいいくらい、左右差がほとんどありません。こういう面白い選手をきちんと戦力化してくるあたりが、富山ドリームスの「らしさ」です。コーディネーションを重要視しているチームなので、土佐のような「体の機能の優れた選手」が、これからも出てきそうな予感がします。
以上がライトウイングの紹介、分類でした。次回はピヴォットの選手を予定しています。




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