IOC会長に初の女性・コベントリー氏 | 歴代最年少、初のアフリカ出身

任期満了で退任するトーマス・バッハ会長（71）=ドイツ=の後任を決める第10代国際オリンピック委員会（IOC）会長選は2025年3月20日、ギリシアのリゾート地、コスタナヴァリノで開かれ、IOC委員による投票の結果、立候補した7人のなかで、唯一の女性候補者であるカースティ・コベントリー氏（ジンバブエ）が選ばれた。コベントリー氏はIOCの歴代会長で最年少の41歳。初の女性、初のアフリカ出身の会長となる。コベントリー氏は、競泳女子背泳ぎ200mでアテネ、北京五輪の2大会連続金メダリスト。彼女は水泳の金メダルで「ジンバブエ」という当時は無名だった国の名を世界中に知らしめ、「ゴールデンガール」と称された。バッハ会長が退任する6月に就任する。

IOC会長選にはコベントリー氏のほかに以下の候補者が立候補した。（順不同）

• セバスチャン・コー氏（英国）＝国際陸上競技連盟（WA）会長
• 渡辺守成氏（日本）＝国際体操連盟（FIG）会長
• フアン・アントニオ・サマランチ・ジュニア氏（スペイン）現IOC副会長
• ファイサル・アル・フセイン王子（ヨルダン）
• ダヴィド・ラパルティエン氏（フランス）＝国際自転車競技（UCI）会長
• ヨハン・エリアシュ（スウェーデン系英国人）＝国際スキー連盟（FIS）会長

1回目の投票で過半数の支持

IOC会長は、世界の産業界の重鎮、富豪、欧州や中東の王族、連盟のトップ、政治家、元・現役アスリートなどで構成される97人のIOC委員による非公開での無記名投票で選出された。投票の手法はいずれかの候補者が過半数の票を獲得するまで、最下位の候補者を除いて繰り返される「繰り返し最下位消去ルール」が採用されるはずだったが、コベントリー氏は1回目の投票で過半数を獲得するという、圧倒的な支持を得て当選を勝ち取った。世界陸連（WA）会長のセバスチャン・コー氏や国際体操連盟（FIG)会長の渡辺守成氏ら国際連盟（IF）のトップが4人同時に立候補したことが、IFの利害が絡む票が分散する前提となり、結果的にコベントリー氏の地滑り的勝利を後押ししたと見る。

投票結果（有効票数97）

• ◎コベントリー氏　49票
• サマランチ・ジュニア氏　28票
• セバスチャン・コー氏　8票
• 渡辺守成氏　4票
• ラパルティエン氏　4票
• ファイサル王子　2票
• エリアシュ氏　2票

ジンバブエでは現職のスポーツ相

コベントリー氏はバッハ会長率いる現執行委員会メンバーの一人。IOCでは2032年ブリスベン夏季五輪の調整委員長という重責を担い、ジンバブエでは現職のスポーツ大臣も務めている。会長選挙に先立ち、IOC名誉会長に就任したバッハ会長のお気に入りで右腕的存在でもある。オリンピックに関する思想や理念はバッハ会長に近く、マニフェストはややオーソドックスかつ現状踏襲型で業務遂行にはバッハ会長の影響力がしばらくちらつきそうだ。

一方、IOC会長歴代初、候補者の中で唯一の女性という立場は、スポーツ界のジェンダー平等を掲げるIOCの変革の象徴としてのアピールとなりそうだ。さらに、これまでの歴代会長はすべて欧米出身だったが、初のアフリカ大陸出身という立場も意義深い。IOCトップの存在そのものが夏季・冬季を通じて五輪が開催されたことがないアフリカに光を当てることになる。（下に記事が続きます）

「きょうガラスの天井は砕かれた」

コベントリー氏はIOC会長選後のスピーチで以下のように語った。

「信じられない瞬間です。9歳の時、ジンバブエで水泳を始めた少女は、この瞬間を夢にも思わなかったでしょう」

「私は、女性初のIOC会長となり、アフリカ初の会長になることを特に誇りに思っています。この投票が多くの人々の励みとなることを願っています。きょう、ガラスの天井は打ち砕かれ、私はその模範としての責任を十分に認識しています」

「スポーツには、すべての人を団結させ、刺激を与え、機会を創出する比類のない力があります。私はその力を最大限に生かすよう尽力して​​いきます。アスリート、ファン、スポンサーを含むオリンピックファミリー全体と共に、私たちは強固な基盤を築き、革新を受け入れ、友情、卓越性、尊敬の価値を擁護します。オリンピックムーブメントの未来は明るく、私はスタートを切るのが待ちきれません」

IOCは世界最大で、最も資金力がある国際スポーツ組織。すべての主要国際連盟（IF）、各国オリンピック委員会（NOC)、世界の経済界、国際政治にまで影響力を持つ。コベントリー氏のIOC会長就任は事実上、今後8年間のスポーツ界の方向性を左右する人選とも言える。就任はバッハ会長が退任する6月となる。

• コベントリー氏のIOC会長選のマニフェスト

カースティ・コベントリー　1983年9月16日、ジンバブエ・ハラレ生まれ。IOC理事。競泳で五輪5大会に出場。2004年アテネ、2008年北京大会の女子200メートル背泳ぎで連覇。2013年からIOCアスリート委員に就任。2018年からジンバブエスポーツ相。41歳。