ハンドボールリーグHプレーオフは2026年6月12日~14日、東京・代々木第一体育館で開催されました。男子ファイナルは6年連続で、豊田合成ブルーファルコン名古屋とブレイヴキングス刈谷の対戦になりました。試合は28-27でブレイヴキングス刈谷が勝ち、7年ぶり2度目の優勝。豊田合成ブルーファルコン名古屋の連覇は5でストップしました。
前半1分:富永聖也、トップDFで躍動

今季のブレイヴキングス刈谷の目玉は、年明けから導入した変則的な5:1DFです。富永聖也がライン際で様子を伺いながら、タイミングを見て前に出ます。この5:1DFを崩そうと、豊田合成ブルーファルコン名古屋はレフトバックのヨアン・バラスケスとライトバックの石嶺秀が、大きなクロスで対抗します。トップDFの富永も負けていません。バラスケスに接触したあと、クロスしてきた石嶺にもしっかりと当たります。富永が動き回ることで、スタートから刈谷のDFに勢いが出ました。(下に記事が続きます)
前半10分:吉野樹3連続ポストパス

刈谷はOFも好調でした。レフトバックのエース・吉野樹が3連続でポストパスを通し、アグレッシブな合成DFの裏を取りました。8分と9分には空中からピヴォットの髙野颯太に落とします。10分には田代翔真へバウンドパス。合成の3枚目DFが2人とも前に出たタイミングを逃しませんでした。
20代のころの吉野は、対戦相手から「ロングシュートはすごいけど、ポストパスはないから」と言われていました。そこから毎年できることを増やして、ポストパスで相手を翻弄できるベテランになりました。吉野は「今回のプレーオフは、北詰明未の負傷もあって、僕がセンターに入る時間帯が多くなりました。やることが多くて、例年よりもハードな大会でしたが、周りを使うところまで落ち着いて考えられたのは成長かな」と言います。ファイナルでも両チーム最多の7得点だけでなく、チーム全体の得点を伸ばし、プレーオフの最高殊勲選手に選ばれています。
前半21分:岡本大亮、顔面セーブ

追いかける合成は、前半21分にライトウイングの出村直嗣を余らせます。合成の5連覇を支えてきたベテランの一撃を、刈谷のGK岡本大亮が顔面でセーブ。もちろん出村に悪意はありません。逃げなかった岡本の気迫が上回りました。岡本は合成のライトウイングを封じただけでなく、試合を通して安定したキーピングを見せていました。ファイナルの阻止率は41.2%です。
前半28分:藤勢流のパスカットから速攻、同点

6連覇をめざす合成は押され気味でしたが、26分からの3連取で13-13の同点に追いつきます。28分には右2枚目DFに入った藤勢流が、高い位置で動き回ってパスカット。そのまま速攻を決めて、同点としました。シーズン終盤に合成が調子を落としていたのは、藤をケガで欠いていたからです。藤が戻ったことで、合成のアグレッシブに仕掛けるDFが復活しました。
結局前半は13-13で終了。刈谷の内容はいいのに、いつの間にか合成が点差を詰める。いつもの展開になりました。後半は合成がライトバックの選手を交代させやすい陣地になります。藤で右2枚目の守りを固めて、一気に突き放す流れができていました。合成の田中茂監督も「接戦なら、絶対にウチが勝つ。刈谷には接戦を落とし続けたトラウマがあるだろうから」と、5連覇してきた経験値を信じていました。(下に記事が続きます)
後半13分:刈谷に不正入場

後半13分19-19の場面で試合が止まりました。ビデオ検証の結果、刈谷の外国籍選手が3人同時にコートに立っていたため、トリム・コルぺルド・ジョンセンが2分間の退場になりました。リーグHのルールでは、外国籍のコートプレーヤーが同時に出場できるのは2人までです。アンドレ・ゴメス、パウエル・パチコフスキー、ジョンセンと、強力な外国籍選手3人を誇る刈谷が、ここにきて痛恨の不正入場。ひとつのミスが命取りになるかと思われましたが、刈谷は全員でカバーし、退場の2分間をしのぎました。
後半25分:水町孝太郎、退場つきカットイン

その後刈谷が26-24とリードを奪うも、合成も食らいつきます。25分にはレフトバックの水町孝太郎がカットイン。シュートを決め切り、日大の先輩・渡部仁を退場に追い込むスーパープレーで、26-26とします。やはり最後に勝つのは合成か。センターの田中大介は「最後の15分間は思うように崩せていた」と、終盤の攻撃を振り返ります。数々の修羅場をくぐり抜けてきた合成が、残り5分で流れをつかんだかに見えました。(下に記事が続きます)
後半25分:戸井凱音、前に出るDF

26-26に追いついた直後、合成は3枚目DFの戸井凱音を前に出しました。田中監督は「5:1DFではなく、上と下を分けた」という表現をしていました。「3枚目DFが、刈谷のバックプレーヤーを気にして、2人同時に前に出て、ピヴォットに落とされたりしていたから、あらかじめ戸井を前に出して、役割分担をした」とのことです。本来ならDFで柱になる市原宗弥が、セミファイナルのジークスター東京戦で脳震盪になり、ファイナルはベンチアウト。戸井も直前の練習でアクシデントがあり、セミファイナルはベンチ入りしていません。3枚目で頼れる選手が例年よりも少なく、やり繰りが大変でしたが、そんななかでも田中監督は「これまで試合で使っていない」札を切ってきました。OFでも、プレーオフで過去5年間一度もやってこなかった7人攻撃を、今年は使っています。
後半29分:松下海の連続得点、刈谷1点リード

後半28分26-26で、刈谷が7mスローを獲得しました。ここで出てきたのが、レフトウイングの2番手・松下海でした。いつもならエースの吉野に託す場面で、予想外の人選です。会場は一瞬ざわつきましたが、任された松下は冷静でした。
「杉岡尚樹さんが足をつって、僕が入ってすぐのタイミング。直前に吉野さんが7mスローを外していたのもあって、僕が打つことになりました。ベンチから『打つか?』と聞かれて『行きます』と即答しました。僕が入ってから5年間、ファイナルでは勝てていませんが、気持ちで負けたら勝てないから、絶対に決めてやると思って打ちました」
7mスローでこの日最初の得点を挙げた松下は、さらに29分に左サイドからのシュートを近めに決めました。28-27。勝負を決める一本でした。
「7mスローもサイドシュートも、GKの岡本大亮さんに相手してもらって、鍛えてきました。岡本さんは最後まで動かないんですよ。岡本さんで練習してきたから、今日は相手のGKが早く動きだすのが見えました」
門山哲也チームディレクターは「松下はレギュラーシーズンで合成に勝った試合でも、大事なところで7mスローを決めているんですよ(2026年2月21日、後半25分)。勝つ時にはこういうラッキーボーイが出てくるのですね」と、松下の活躍を喜んでいました。(下に記事が続きます)
後半29分:加藤芳規セーブ、7年ぶり優勝

しかし、まだ試合は終わっていません。29分35秒に合成が最後のタイムアウトを取り、ラストの攻撃に備えます。タイムアウト明けの布陣は4バックの7人攻撃でした。タイムアウト明けの様子を、刈谷のGK加藤芳規はこのように振り返っています。
「最後のタイムアウト明けは、フワーッと始まったような感じでした。『スカイプレーだけは気をつけよう』という声はありましたが、どっち側で勝負するかまでは、DFと話をしないまま始まってしまいました。直前でライトウイングの出村さんにいいサイドシュートを決められていたから、来るならこっち側で来てほしいかな」
と、加藤が指を差したのは右側。合成から見て左側です。その読み通り、合成はレフトウイングの小塩豪紀を余らせてきました。この日フィールドシュートは1本もなかった小塩ですが、これまで何本ものシュートを決めて、チームを救ってきました。その小塩のサイドシュートが近めに飛んできました。GKの加藤は面を崩さず、右手でセーブ。トレードマークの雄叫びも出ました。残り9秒はしっかりとボールをつなぎ、ブレイヴキングス刈谷が7年ぶりにプレーオフを制しました。
渡部仁キャプテン、プレーオフ負けなし

「残り3分ぐらいから、時計が進むのが遅く感じました。試合終了の瞬間は『やっと終わった』という気持ちでした」
刈谷のキャプテンの渡部仁は、試合終盤の心境をこう語っていました。3年前の2023年のプレーオフファイナルでは、第一延長後半に3点リードを奪いながら追いつかれ、7mスローコンテストで敗れました。その苦い教訓があるから、最後まで集中して戦えたのかもしれません。渡部は言います。
「7年前(2019年)にプレーオフで優勝した時、僕がキャプテンでした。今回も僕がキャプテンに復帰して優勝しました。僕がキャプテンでプレーオフに負けていないので、我ながら『持っているな』と思います」
シンプルなプレーと強靭なフィジカルで、36歳になった今も攻守に高いパフォーマンスを見せるキャプテンは、コメント力も超一流です。 (下に記事が続きます)
強度と熱量の日本一

刈谷のラース・ウェルダーヘッドコーチは、就任3年目でようやくプレーオフを制しました。
「OFのミスが多く、苦しい展開になったが、今日はDFがベリーベリーストロングだった。優勝できた大きな要因はDFかな。チームはすぐに強くはならない。ハードワークを1年1年積み重ねてきたことで、今がある」
酒巻清治監督(現福井永平寺ブルーサンダー監督)の時代から受け継がれてきたロジカルなハンドボールに、ラースヘッドは強度と熱量を注入しました。強力な外国籍選手が時間をかけてチームにフィットし、ファイナルでは伏兵・松下の活躍もありました。固定メンバーで最後に力尽きた過去2年とは違って、いろんな選手の力を集結させての日本一でした。これからのラースヘッドの仕事は、次世代の核となる日本人選手の育成です。渡部、吉野の両輪の後継者を育てていけたら、ブレイヴキングス刈谷の黄金期がやってくるでしょう。

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