ハンドボールリーグHプレーオフは2026年6月12日~14日、東京の代々木第一体育館で開催されました。女子のファイナルに進出したのは、リーグH初代女王・ブルーサクヤ鹿児島と、初のファイナル進出の香川銀行シラソル香川でした。試合は26-23でシラソルが勝ち、リーグH初優勝を成し遂げました。
前半14分:比嘉楓、ノーマーク防ぐ

立ち上がりから香川銀行シラソル香川がいいスタートを切りました。センターの岡田彩愛、レフトバックの松浦未南、ライトウイングの田渕伶奈が速攻を決めるなど、堅守速攻でペースをつかみます。対するブルーサクヤ鹿児島も高来葵美が速攻に飛び出しますが、シラソルのGK比嘉楓が前に詰めて防ぎます。比嘉は大阪体育大学から年明けに加入し、最優秀新人賞を獲得したルーキー。大体大で同学年だった、ブルーサクヤの高来や奥山紗彩のシュートを防ぐなど、同期対決で圧倒的な力を見せつけていました。(下に記事が続きます)
前半25分:青麗子、エンプティゴール

前半16分11-5まで、シラソルが点差を広げましたが、ブルーサクヤも徐々に巻き返します。ピヴォットの笠井千香子の得点に、25分には青麗子のエンプティゴールが決まり、2点差まで詰め寄りました。これまでケガに泣かされることが多かった青ですが、2025-26シーズンは大きなケガもなく、チームの中心であり続けました。2026年の年明けから就任した楠本繁生監督のハンドボールにも「言っていることが一貫しているから、やりやすい」と順応しています。
前半29分:松浦未南、ロングシュート

追い上げられても、シラソルは崩れません。前半最後にはレフトバックの松浦がロングシュートを決めて、15-11で折り返します。日本代表に入って「カットインの感覚をつかんだ」と話す松浦は、2025年12月の世界選手権では逆ミスマッチの1対1に特化して、海外の大型ディフェンダーを翻弄しました。帰国後もカットインの割合を大幅に増やしています。しかし小さいながらもロングシュートが入り、なおかつパスもさばけて、判断ができるのが、本来の松浦未南の姿です。「あの場面はロングが入ると思ったから打ちました」と素っ気なかったですが、決勝では低いポストパスを通すなど、いいバランスでプレーしていたように見えました。 (下に記事が続きます)
後半3分:ブルーサクヤ、早めのタイムアウト

追い上げたいブルーサクヤですが、なかなか点が取れません。ライトバックの宇治村唯のアウト割りをGK比嘉に阻止され、速攻で失点した直後に、楠本繁生監督がタイムアウトを取りました。楠本監督は「後半の15~20分ぐらいで追いついて、最後の10分どう戦うかというところに持っていきたかったけど、GK比嘉にノーマークを止められて、逆に速攻に持っていかれたのが、勝敗を分けたかな」と、試合後に振り返っていました。やられたくないパターンでの失点に、早めのタイムアウトで対処していましたが、なかなか立て直せませんでした。
後半11分:立石恋菜、DFでハードワーク

一進一退の攻防が続くなかで、シラソルはGKを含めたDF力で踏みとどまります。キャプテンの立石恋菜は右の2枚目DFに入り、相手のエースポジションを封じました。シラソルはシーズン途中から、身長173㎝とチームで2番目に長身の立石をあえて2枚目に置き、3枚目は和田薫と福井すみれのコンビで守る時間帯が増えています。立石が言うには「今年の2月のハニービー石川戦で、中村歩夢さんが右の2枚目に入る布陣にやられました。中村さんにパスをカットされた、あの試合のあとからですね。亀井好弘監督に『お前もできるやろ。2枚目やってみい』と言われて、この並びになりました」とのこと。リーチの長い立石を2枚目に置くことで、エースキラーにもなるし、飛ばしパスもカットできます。
立石は相手のレフトバック竹内琉奈をバチンと止めて、さらにはポジションチェンジしてきたセンターの高来にも接触して、GK比嘉にシュートを捕らせています。
「ブルーサクヤのピヴォットが怖いからいつも引いてしまって、バックプレーヤーの個人技にやられていました。今日の後半途中も、向こうがピヴォットの笠井さんを使ってきたり、バックプレーヤーが1対1で仕掛けてきたので『もう一度ラインを上げよう。抜かれても必ずフォローしよう』と徹底しました。相手どうこうではなく、全員がやるべきことをやって、最後はGKの比嘉がよく止めてくれました」
キャラの濃い辛島美奈前キャプテン(現広報)からチームを引き継いだ、心優しいキャプテン立石。献身的なハードワークで、チームをひとつにまとめました。
後半18分:下馬場燦、この日2本目の7mスロー阻止

比嘉だけでなく、もう一人のGK下馬場燦も活躍しました。後半8分と18分に、7mスローを阻止しています。特に最初に止めた一本は、退場者が出た直後の7mスローでした。この日は比嘉の調子がよすぎて、下馬場は7mスローのみの出番となりましたが、大舞台での勝負強さは相変わらずです。「トーナメントの方が乗っていけるんですよ」と話す下馬場は、セミファイナルの最後にハニービー石川のカットインを防いで、引き分けに持ち込みました(レギュレーションにより、レギュラーシーズンの順位が上の香川銀行が決勝進出)。その勢いに乗って、ファイナルは限られた出番で最高のプレーを見せています。比嘉が加わるまでは一人だけでゴールを守ってきた下馬場の活躍で、チームはさらに勢いに乗りました。(下に記事が続きます)
後半27分:岡田彩愛、逆足のステップシュート

残り時間が3分を切って、24-21とシラソルが3点リード。3分3点差は、セーフティリードとは言えません。センターの岡田はゆっくりとボール回しながら時間を使い、目の前が空いた瞬間、逆足のステップシュートを打ち込みました。
ゲームを作れて点も取れる、バランスのよさが岡田の持ち味ですが、国際レベルでは「火力不足な司令塔」になってしまうのが悩みでした。2025年12月の女子世界選手権では出番を得られず、悔しい思いをしています。「怖さのあるセンターになるために、これからの課題はフィジカル強化とステップシュートです」と話していた岡田が、いい場面でステップシュートを決め切りました。
後半29分:比嘉楓、相手の息の根止める

残り1分を切って25-23で、シラソルはタイムアウトを取りましたが、直後の攻撃は決まらず。時間のないブルーサクヤは、ライトウイング服部沙紀がライン際を切ってノーマークになりました。元日本代表で、精密機械のようなシュートを誇る服部が完全ノーマーク。残り30秒で決まれば1点差。まだ何が起こるか分からない状況で、GKの比嘉が大の字ジャンプで阻止しました。この一本で勝負が決まりました。
シラソルの今井郁維GKコーチが興味深い話をしていました。
「後半の15分くらいに比嘉と『止め方を変えてみよう』という話をしました。45分間は『比嘉①』で、後半15分から『比嘉②』に交代して、また当たり始めたイメージです。GKは2人しかいないけど、それぞれ2つの止め方を持っていたら、実質GKが4人ベンチにいることになりますよね。そういう切り替えができるのが、比嘉のクレバーなところです」
今井コーチは2025-26シーズンから、オンラインでシラソルのGK陣にアドバイスを送っていました。2026年4月には正式にチームに加わり、練習の指導だけでなく、試合でのGKの交代も任されています。順天堂大学大学院修士課程を卒業したばかりの今井コーチは「GKの阻止率をいかに落とさないかが、GKコーチの仕事」と言います。ファイナルでも比嘉の高い阻止率43.2%をベンチからサポートしていました。(下に記事が続きます)
ハンドボールの魅力、知ってもらうチャンス

試合は26-23で香川銀行シラソル香川が勝利し、リーグ参入4年目で初の頂点に立ちました。亀井好弘監督は「周りからは『順調に強くなっているね』と言われたりしますが、そんな簡単なことではありません。組織というものには悩みや苦悩、葛藤があります。その一つひとつに真剣に向き合ってきたら、今があるんじゃないかなと思います」と言っていました。亀井監督の誠実なアプローチが、チーム力を高め、結束を生んだと言えるでしょう。
また亀井監督は優勝の効果をこう語っています。
「2024年12月の日本選手権で初優勝した時は、地元の香川に戻ってから『優勝した香川銀行のハンドボール部の方ですよね』と声をかけられるようになりました。『これはひとつのチャンスやな。もうひとつチャンスをつかみたいな』と思っていたので、プレーオフで優勝できたのは大きいですね」
普段から、支えてくれる人への思いを言葉にして、行動に移している亀井監督らしい発言です。自分のチームだけでなく、ハンドボールの魅力を多くの人に伝えたい。そんな思いが、会見からも伝わってきました。
それぞれの持ち場で役割果たす

最後に昨季までキャプテンを務めた辛島美奈広報のコメントです。
「ほんと、よかったです。私のカリスマ性がなくても、日本一になれるんですねー。ハハハ」
プレーオフではカメラを抱えて動き回っていた辛島広報。セミファイナルのハニービー石川戦では、ワンポイントで出てきた吉本里緒のステップシュートを撮影しながら「吉本のシュートが決まって、鳥肌が立ちましたよ」と、こちらに腕を見せつけてきました。吉本や辛島広報だけでなく、全員が自分の役割をまっとうし、それがチームの一体感を生み出し、プレーオフ初制覇につながりました。リーグ参入4年目で、香川銀行シラソル香川は名実ともに「強くて愛されるチーム」になりました。


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