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【函館】元アナウンサー、15年ぶりのスポーツ実況席。52歳の敗者復活戦

久保弘毅、15年ぶり実況
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遠い昔にアナウンサーをやっていた男が、久しぶりに実況席でしゃべりました。2023年11月8日にBS松竹東急で放送された、全日本学生ハンドボール選手権(インカレ)の男女決勝戦を担当した久保弘毅が、およそ15年ぶりに実況した感想をうだうだとつづっています。52歳のおっさんの敗者復活戦です。 

目次

局アナ「知らないのにしゃべる」仕事に疑問

放送席のイメージカット。解説(写真右)は桃山学院高の木村雅俊監督(元湧永製薬)

「金輪際、人前でしゃべりたくない」。そう思って2005年、テレビ局(テレビ神奈川)を辞めました。その後スポーツ専門局でハンドボールのプレーオフを2~3回実況しましたが、人前でしゃべると色々と心がむしばまれます。何よりも嫌な緊張感がつきまといます。私のデキも良くなかったこともあり、実況の仕事は来なくなりました。ごくまれに依頼が来ても、丁重にお断りしていました。

アナウンサーの仕事で心に引っかかっていたのは、上司のあるひと言でした。インタビューが下手で、知らない競技のリポーターでしどろもどろになっていた私に、上司はこう言ったのです。「競技を知らなくても、しっかりと実況を聞いていれば、質問内容がわかるだろ」。今となっては意味が理解できるのですが、当時の私は「知らないのにしゃべれるって、どういう神経をしているんだ」と驚き、アナウンサーの仕事そのものに疑問を感じてしまったのです。

アナなんて「自己顕示欲の化け物」。そして退社

どんなに努力をしても、自分の仕事そのものに疑問を感じていたら、伸びは鈍ります。毎回同じような失敗を繰り返し、「もっと競技を知らないと」と努力はするけど、自信を持てるほどの裏付けにはならず、また失敗して、緊張しての繰り返し。最後の方は「アナウンサーなんて、自己顕示欲が化けたような職業だ」と決めつけて、努力すら放棄するようになりました。こんな人間がアナウンサーを続ける資格はありませんね。

それから10年以上は見ることに徹してきました。野球もハンドボールも、しゃべらずに見るのは快適です。しっかりとスコアをつけて、選手や監督に話を聞いて、見る目を養い、文章に反映していく――。その繰り返しが面白くて、将来の目標が「ハンドボールや野球がよく見えるようになりたい」になってしまいました。もうからないダメライターの道を一直線です。 

2023年、ラジオ出演。「しゃべってもいいかな」

「渋谷で2分間退場中」の収録風景。楽しくしゃべらせてもらえたことで、人前でしゃべる自信になった

野球もハンドボールも見ていくうちに、多少なりとも理解が深まっていきました。本当に競技を知っている人からは「お前、何もわかってないな」と言われそうですが、それでも昔よりも試合の解像度が上がりました。「競技が好き」という気持ちも前より強くなりました。「今なら、昔よりも抵抗なくしゃべれるかも」と、ずうずうしくも思うようになりました。だからと言って、しゃべる練習は特にしていません。厚かましいですね。

しゃべるリハビリになったのがラジオでした。国内唯一のハンドボール雑誌「スポーツイベントハンドボール」が音声配信「stand.fm」で放送するようになったので、「ギャラはいらないから、参加させて」とお願いしました。若い編集部員と日常会話の延長でしゃべったら、しゃべりすぎなくらいしゃべれました。今まで殻に閉じこもっていたけれど、知っていることならしゃべれます。「俺、しゃべってもいいかな」と思えるようになりました。コミュニティ放送「渋谷のラジオ」の「渋谷で2分間退場中」というハンドボール専門番組でゲスト出演したのも、少し自信になりました。

note(ノート)
渋谷で2分間退場中 毎月最終水曜23:00-23:55|「渋谷のラジオ」|note ここ渋谷で、スポーツやハンドボールについてとにかく話しましょう! SNSでのハッシュタグは「#渋谷で2min」

テレビ実況の話。心の隅に「もう一度勝負したい」

そうこうしているうちに、前の会社でディレクターだった人から連絡が届きました。「BS松竹東急でハンドボール中継をするので、実況してもらえませんか」と。15年ぐらいブランクのあるおっさんに、なぜか声をかけてくれたおじさん。「ハンドボールのお仕事を続けているのは知っていますので、しゃべれると思って声をかけました」。

ありがたいけど、もっとキレのいい本職の方々はいっぱいいます。しゃべることを放棄した人間に、しゃべる資格はないので、どうやって断ろうかとばかり考えていました。しかし心の片隅には「もう一度勝負してみたい」気持ちもありました。実況アナウンサーで大成できなかった気持ちに折り合いをつけるなら、このチャンスを逃す訳にはいきません。ダメだった自分を成仏させる意味でも、ハンドボールのインカレの仕事を引き受けました。 

中継の地・函館、5.0℃。勝負オムツに足を通す

中継終了後、男子の解説・植松伸之介さん(右)とともに

実況アナウンサーとしては箸にも棒にもかからなかった私ですが、唯一自信のある分野がありました。それは「トイレに行かなくても大丈夫な膀胱(ぼうこう)」でした。野球の延長戦で、中継が5時間をすぎても、小用を足さなくていいだけのタフさが、私の膀胱にはありました。ところが最近は、夜中にコーラを飲むと朝の4時に目覚めて、トイレに駆け込む体たらく。ああ、ジジイになったなあ。

今度のインカレの中継は2試合連続だから、4時間はトイレに行けないかもしれません。インカレの開催地・函館は冷えます。中継の11月8日、最低気温は5℃でした。最悪の事態を想定して、大人用オムツを用意しました。朗々と名実況を披露している裏で、駅伝やマラソンの中継車に乗る実況アナもオムツを履いています。中継をまっとうしよう――。当日の朝は覚悟を決めて、オムツに足を通しました。

15年ぶりの放送席。シメも体が覚えていた

およそ15年ぶりの放送席は、思ったよりも緊張しませんでした。トシを取って、ツラの皮が厚くなったのでしょう。「ハンドボールならある程度知っている」安心感もありました。日本リーグと違って初見の選手が多く、パッと名前が出なくて苦労しましたけれど、なるべくどっしり構えるよう心掛けました。「ミスは誰にでもある。ミスを気にして、ミスの連鎖になるのだけは避けよう」。ハンドボールの取材で学んだ心のあり方が、大いに支えになりました。2試合目の終盤に口がカラカラになり、活舌が悪くなったのはおおいに反省点ですが、とっさの場面でもなんとか対応できたと思います。

男子の試合が予想以上に早く終わって、30分ぐらい解説の植松伸之介さん(明星大ハンドボール部監督)と閉会式の話などで間を持たすなど、久しぶりにしてはハードルの高い中継でしたが、そこは昔なかった雑談力でしのぎました。放送席のディレクターのカウントダウンに合わせるシメのしゃべりも、なんだかんだ言って体が覚えているものです。

悔しいのは戦えている証拠。土俵に上がった

ザ・テラスホテルズのGK田口舞。ベテランになっても、柔軟性に衰えナシ

反省だらけで悔しさはありますが「次はもっと改善したい」とも感じました。もっと解説の河合哲さん(高松商業監督)、植松さんの会話も引き出したかったし、もっと丁寧に用語を説明してもよかったかもしれません。でも「悔しい」と感じるのは、戦えている証拠だと思うことにしておきます。とある試合で、ザ・テラスホテルズのベテランGK田口舞選手と、ハーフタイムでこんな会話をしたのを思い出しました。

田口:「ああ悔しい。もっと私が(シュートを)止められたのに。いくつになっても、相手にやられると悔しいですね」

久保:「悔しさがなくなったら、ただの熟女ですよ」

その言葉、そっくりそのまま自分に返しておきましょう。悔しさがなくなったら、ただの初老です。ひとまずは敗者復活戦の土俵に立てたかなと思っています。

BS松竹東急が中継したインカレ男女の決勝戦、無料の再放送は11月25日(土)深夜0時59分からです。女子の大阪体育大ー筑波大、男子の中央大ー筑波大、ともにいい試合でした。時間も時間なので、録画してご覧いただけたら幸いです。

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