日本ハンドボール協会は2024年10月7日、10月11~13日に行われる男子日本代表合宿の参加メンバーを発表しました。急ごしらえだった8月のパリ・サン=ジェルマン戦とは異なり、今回の21名は、パリ五輪後に就任したトニー・ジローナ監督が国内で視察したうえで選ばれています。ここに海外組を加えて、2025年1月の世界選手権(クロアチア・デンマーク・ノルウェー)を戦うことになるでしょう。
※日本ハンドボール協会は10月8日、髙野 颯太(トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷)が、同9日には矢野 世人(豊田合成ブルーファルコン名古屋) がいずれもコンディション不良のため、参加を辞退したことを発表しました。同10日、南城 魁星(群馬県立富岡高校)の追加招集を発表しました。
東京在住のジローナ監督が、見て選んだ21名
8月の代表監督就任以降、トニー・ジローナ監督は東京で暮らしています。週末にはリーグHの試合などを精力的に視察していました。呼びたい選手が呼べなかった2024年8月のパリ・サン=ジェルマン戦とは違い、今回はジローナ監督の意向が反映されたメンバー構成となっています。4年後のロサンゼルス五輪を見据えて、メンバーも大幅に若返りました。東京・味の素ナショナルトレーニングセンターでの合宿に参加する21名を、ポジションごとに見ていきましょう。(下に記事が続きます)
GK(ゴールキーパー)はパリ五輪の2人
中村匠(豊田合成ブルーファルコン名古屋)
若くして「悟りの境地」に達したかのような安定感を見せていましたが、今季のリーグHではやや調子が上がってこない印象があります。迷いなくシュートに飛びつき、リバウンドにも全力で反応する、本来の中村匠らしさが見たいですね。味方を励ます「ポジティブな声かけ」は、彼にしかできない「匠の技」です。
岡本大亮(トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷)
この夏のパリ五輪の初戦、クロアチア戦で見せた大当たりは、記憶に新しいところです。本人は「クロアチア戦よりも、代表でアンテック(アントニ・パレツキ元GKコーチ)とやってきた位置取りや駆け引きが自信になっている」と語っていました。次の世界選手権でも、自己ベストを更新してくれると信じています。
LW(レフトウイング)は守り重視
髙野颯太(トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷)
2枚目、3枚目の両方が守れて、トップDFでも機能するスペシャルな存在です。小柄なバックプレーヤーを2枚並べたい時は、レフトウイングに髙野を入れておけば、攻守のバランスが整います。純正のウイングではないですけど、それなりにサイドシュートが入るので、セットOFで穴になることはありません。
矢野世人(豊田合成ブルーファルコン名古屋)
今季は豊田合成で3枚目を守る機会が増えてきました。筑波大の先輩でもある髙野と同系統で、純正のウイングではなく「いいディフェンダーがウイングにいる」タイプ。髙野と同じで、攻守のバランスを整える役割が求められます。代表に定着するには、シュート精度をもうワンランク上げる必要があるかもしれません。
LB(レフトバック)は将来性
富永聖也(トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷)
身体能力抜群の「アイク」。飛び跳ねるようなカットインは、他の選手にはない魅力です。世界レベルでディスタンスシュートを決め切れれば、ベンチからの起爆剤になれます。長い手足と運動能力を生かしてトップDFでも機能してくれたら、活躍の場がさらに広がります。
小畠来生(トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷)
所属ではレフトバックの3番手ですが、将来性に期待してのメンバー入りになりました。学生時代は名の売れた点取り屋でしたが、世界で通用する武器は何かを、早く見定めてほしいところです。
水町孝太郎(豊田合成ブルーファルコン名古屋)
ベテランの域に入り、ここ1~2年でビックリするほどアシストが上手になりました。狭いところでのポストパスなどの「巧さ」だけでなく、パスそのものの「速さ」が抜きん出ています。アップテンポなパス回しで相手を翻弄したい時に、水町の判断力が役に立ちます。「火力のある2番手センター」でも十分に機能します。
泉本心(中央大学)
この春はドイツ2部のEHVアウェでもプレーしました。大学レベルなら様々な引き出しを駆使して、当たり前のように10点が取れます。ただし世界のレベルで勝負するなら、得意のアウト割りに特化した方が、チームにとってもプラスになります。当たりが強く、レフトウイングでプレーできるのも強みです。
小坂井瞭(筑波大学)
中沖仁希太とともに最年少の20歳。身体の強さを感じさせるバックプレーヤーです。海外への挑戦を推奨している筑波大ですから、近い将来、海外でプレーすることになるでしょう。「守れるパワーヒッター」に育ってくれたら、少し小さめの185㎝でも世界で戦えるはずです。
CB(センターバック)は得点力
藤坂尚輝(日本体育大学)
パリ五輪に選ばれ、安平光佑(ブルガン/クウェート)とともに1対1でガンガン点を取りました。低く潜り込む1対1のキレ味は文句なし。「逆ミスマッチ」で大きい相手を翻弄し、華麗なポストパスもあります。7月の代表選考では「サプライズ」と言われましたが、今はもう「選ばれて当然」の位置付けになりました。
北詰明未(トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷)
打ち屋からプレーメーカーに転向して、今が最盛期。時間をかけながら、攻撃力のあるセンターに育ちました。代名詞とも言える「ジャンプフェイクからのカットイン」を軸に、シンプルに攻撃を組み立てます。「火力の高い2番手センター」の枠にピッタリの選手。サイズと守備力があるので、戻りで交代できなかった時も安心です。
伊禮雅太(ジークスター東京)
アウト割りが得意で、DFでも体を張れるバックプレーヤー。大学までは大エースでしたが、将来を見越して、ジークスター東京ではセンターの勉強をしています。周りを生かしつつ、ポジションチェンジで左側に来たらアウトを割るスタイルが確立できれば、バランスのいいセンターになれるでしょう。8月のパリ・サン=ジェルマン戦でも、カットイン主体に切り替えてからは通用していた印象です。
RB(ライトバック)は誰が主力に?
徳田廉之介(アルバモス大阪)
大きくインに回り込んでの力強いプレーが特徴。アルバモスではまだ出せていませんが、本当はポストパスが一番の武器です。過去にも代表では吉田守一(ナント/フランス)とのホットラインで、ポストパスを何本も供給していました。ポーランドなど海外で鍛えたハードな身体接触も強みになります。
中村翼(ジークスター東京)
今年5月のプレーオフでブレークし、それ以降もリーグHでコンスタントに活躍しています。見栄えはしませんが、重くて強いカットインは「一芸」と呼べる域に達しました。我慢強く出場機会を作ってくれた、ジークスター東京の佐藤智仁監督への恩義に応えるためにも、代表に定着したいところです。
石嶺秀(豊田合成ブルーファルコン名古屋)
趙顯章が抜けた今年の豊田合成では、ライトバックの1番手。才能のきらめきを見せる時もあれば、イージーミスでボールを失うこともあり、まだまだ真のレギュラーとは呼べません。代表合宿を機に、ワンランク上の安定感を身につけてくれたら。
RW(ライトウイング)も可能性
櫻井睦哉(トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷)
パリ五輪代表にも選ばれた、守れる大型ライトウイング。右の2枚目に入って、相手のエースをタイトに守ります。マークを受け渡さずに、そのまま足でついていくDFが、櫻井の真骨頂。システムによって守り方も変わりますが、櫻井がいてくれれば、右側のDF力が落ちることはありません。サイドシュートもシンプルですが、よく入ります。
荒瀬廉(大阪体育大学)
8月のパリ・サン=ジェルマン戦では、ライトバックで強烈なインパクトを残しました。プレースタイルはよくも悪くもトリッキー。横から下から、柔らかい手首を使って、タイミングを外しながら打ち込めます。DF力に課題があるため、ベンチに近い側での出番だけに限られるでしょうが、初見の相手には彼の「技」が効くはずです。
金岡宙斗(アルバモス大阪)
手足が長い大型ウイング。大きい割に走れて、器用で、左側まで回り込んで打てる力があります。DFの1枚目と2枚目の間にカットインを仕掛けたりもできます。まだ線が細いので、これからフィジカルを強化して、2枚目を守れる力をつけていけば、日本を代表するライトウイングになれる可能性を秘めています。
PV(ピボット)は攻守の柱
玉川裕康(ジークスター東京)
8月のパリ五輪後も、フル回転で日本代表を支えています。長い手足で3枚目を守り、速攻では先頭を走り、セットOFでは片手キャッチでパスをもぎ取ります。以前は単調だったシュートも、目線の駆け引きを覚えて、確率が上がってきました。代表では2番手の時代が長かったですが、「心優しい玉ちゃん」がついに代表を背負う時代になりました。
市原宗弥(豊田合成ブルーファルコン名古屋)
合成では1年目から多くの出場機会に恵まれ、豪華メンバーのなかで鍛えられてきました。決して器用ではありませんが、愚直なまでに体を張って、ライン際でハッスルします。スコアに表れにくい「球際の強さ」が生命線。泥臭さがワンランク上の世界でも通用すれば、日本のDFの要にもなれます。
中沖仁希太(日本体育大学)
まだ20歳になったばかりの育成枠。3枚目を守れるサイズがある選手が、若い世代ではあまりいないので、中沖にも期待がかかります。8月のパリ・サン=ジェルマン戦では戸惑っていましたが、世界のレベルに早く馴染んでほしいところです
監督の育成力にも期待
8月のパリ・サン=ジェルマン戦では短期間にもかかわらず、予想以上にチームをまとめてきたトニー・ジローナ監督。しっかりと準備して臨める来年1月の世界選手権では、どんなハンドボールを見せてくれるでしょうか。カルロス・オルテガ前監督の「バルサ流」を継承しつつも、目先の勝ちにこだわりすぎない「育成力」にも期待したいところです。
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