カタールで開催されていたハンドボール男子のパリ五輪アジア予選決勝で、日本代表(彗星JAPAN)は2023年10月28日、バーレーンと対戦。32-29で勝利し、パリ五輪行きの切符を手にした。自力での五輪出場は1988年のソウル五輪以来。世界的な名将ダグル・シグルドソン監督が7年かけて作り上げたチーム力で、アジアの頂点に立った。
決勝で再びバーレーン。ベテラン99番がスタメン
決勝に進んだ日本の相手はバーレーン。予選ラウンドでは1点差で勝利した相手ですが、バーレーンも再戦へ向けてメンバーを入れ替えてきました。予選ラウンドにはベンチ入りしていなかった99番アルサヤドが、決勝ではスタートから出ているじゃないですか! この選手はバーレーンの精神的支柱とも言えるベテランで、ここ数年はいつも勝負どころでアルサヤドにやられているイメージがありました。開始早々、バーレーンはセンターのアルサヤドで点を取ってきました。完全体のバーレーンにどう立ち向かうか。日本は前回にも効いていた5:1DFで、バーレーンの理にかなった攻撃を封じにかかります。
前半11-12分:ピヴォット吉田守一、退場誘うナイスプレー
11-12分あたりから、日本はピヴォットの吉田守一(ダンケルク/フランス)にボールを集めます。吉田はライン際での強さで7mスローを獲得したり、得点だけでなく2分間の退場を誘います。14点目の得点はいわゆる「退場つき」のナイスプレー。1点取って、相手が1人少なくなる、ピヴォットにとっては最高の仕事でした。退場を誘ったことで、そのあとの渡部仁(トヨタ車体)のエンプティゴール(GKのいないゴールへの直接シュート)にもつながりました。ライン際に吉田がいるから、バックプレーヤー陣が生きてきます。国際大会で位置取りで勝てるピヴォットの存在は大きいですね。攻撃だけなら間違いなく歴代最強のピヴォットです。
前半18-13。ダグル監督の勝負師ぶり随所に
日本は前回に続いて5:1DFが機能しています。トップDFを部井久アダム勇樹(ジークスター東京)から髙野颯太(トヨタ車体)に代えて、さらにギアが上がったように見えました。そして前半終了間際に、ワンポイントでセンターに入ったキャプテン・東江雄斗(ジークスター東京)が得点を決めて18-13で前半を終えました。好調な安平光佑(ヴァルダル/北マケドニア)を長く引っ張りつつ、ワンプレーで東江を使うあたりは、ダグル・シグルドソン監督のさい配もさえています。今大会はダグルさんの勝負師ぶりが随所に見られて、ハンドボールファンとしてはうれしい限り。ネームバリューだけでなく、勝負勘も含めて世界トップレベルの監督なのだと、改めて感じた次第です。
後半6分:バーレーン猛追、1点差に
デキすぎなくらいの前半から、後半に入ると苦しい時間帯が続きました。退場者が出て、ミスからのエンプティゴールを許し、6分には19-18まで追い上げられました。やはりバーレーンは力があります。99番アルサヤドがカットインで退場を誘うなど、的確なプレーで日本を苦しめます。6分43秒に日本が後半最初のタイムアウト。シグルドソン監督は「ライト ポジション! ファイト アゲイン!」と声をかけました。正しい位置取りをして、もう一度戦おう。シンプルで当たり前のことだけど、これができないと世界では勝てません。シグルドソン監督のハンドボールはいつも「王道」です。
後半11分:吉野樹、値千金の20点目
タイムアウト明けの攻撃こそミスで終わりましたが、そのあとに吉野樹(トヨタ車体)がレフトバックからミドルを打ち込み、ようやく20点目が入ります。この1本で日本は息を吹き返しました。そのあとにはGK坂井幹(大崎電気)が顔面でシュートをセーブ。さらに坂井の治療の間に入った中村匠(豊田合成)もナイスセーブを見せ、盛り上がります。欲しかった場面でゴールキーパーに当たりが出ると、ここからは日本ペース。蔦谷大雅(ジークスター東京)がこの日1本目の7mスローをループシュートで決めて、11分23-19。今度はバーレーンがタイムアウトを取りました。
後半19分:GK中村、連続セーブ
バーレーンの大声援に屈することなく、日本は自分たちのよさを出していました。安平はポジションチェンジでセンターからレフトバックに移動して、広い1対1をスピードで制しました。ライトウイングの元木博紀(ジークスター東京)は、ピンポイントで近め(シューターから見て近い側のコース)に通します。19分に吉野が退場して、バーレーンに7mスローが与えられた場面もありましたが、GK中村がセーブ。さらにはリバウンドを拾われたシュートも連続で阻止して、盛り上がりました。この反射神経のよさが中村匠です。個々が強みを発揮して、仲間のミスがあったら、カバーし合う。強い個が集まって、なおかつチームワークも抜群。7年間でチームは成熟しました。
後半29分:安平、1対1抜き決定的な3点差に
27分過ぎのタイムアウトのあとから、4点差を追うバーレーンはプレスDFを仕掛けてきました。日本はやや攻めあぐね、31-29に追い上げられます。29分22秒で日本は最後のタイムアウトを取り、やるべきことを再度確認。安平が得意の1対1を仕掛けて、フリースローを取ります。時間をかけて攻めながら、安平が1対1を抜いて決定的な3点差にしました。最後はGK中村がライトウイングのシュートを止めて、日本が勝利。1988年のソウル五輪以来となる「自力」での五輪出場を手にしました。重い重い扉をこじ開け、パリ行きの切符をつかみ取った選手たちは、日本のハンドボール界の誇りです。
ダグルジャパン7年、王道のチームづくり実る
ダグル・シグルドソン監督体制になって7年。集大成とも言えるパリ五輪アジア予選で、ずっと目指してきたハンドボールが完成したと言っていいでしょう。大会ごとにメンバーを替えながら、代表候補のすそ野を広げて、誰が入っても短時間で合わせられるヨーロッパスタイルのチーム作りを続けてきました。「日本人は速さだ。巧さだ」と言って小手先に走ることなく、プレースタイルはいたってオーソドックス。数少ない国内の試合でも「お試しモード」だったりするので批判されたりもしましたが、最後の最後で名将ぶりをいかんなく発揮してくれました。
ダグルさんにお祝いハイチュウを
親日家のダグルさんは森永製菓のハイチュウが大好きで、舎利弗学コーチからもらった時に「こんなおいしいキャンディが日本にあるのか!」と、大変驚いたそうです。パリ行きを決めたダグルさんに、ハイチュウ1年分を贈ってもいいんじゃないでしょうか。それだけの価値のある快挙だと思います。みなさんもダグルさんへの差し入れはハイチュウでお願いします。
今回の試合の録画はコチラです。解説は元日本代表の銘苅淳さん(関西学院大コーチ、アルバモス大阪監督)が、今回もわかりやすいです。どちらも永久保存版。日本のハンドボールの歴史が変わった瞬間です。何度も見返して、勝利に酔いしれましょう。
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