大人になってハンドボールやバレーボールをやろうと思うと、まず体育館を借りないといけません。とりわけハンドボールは、体力や技術、キャリアがある程度そろった人同士でないと楽しみにくい特性があります。「もっと気軽にハンドボールを楽しみたい」との思いをかなえた「大人向けハンドボール教室in東海」を2024年11月、愛知県稲沢市で取材しました。
「ちぃさん」が2023年1月立ち上げ
愛知県稲沢市の尾西信金いなざわアリーナ(稲沢市総合体育館)で開かれる「大人向けハンドボール教室in東海」は、2023年1月にスタートしました。「大人向け」とありますが、親子でも気軽に楽しめて、体育館で思い切りシュートが打てて、毎回替わる講師からハンドボールを学べます。ハンドボール好きの夢が詰まった教室を立ち上げたのは、「ちぃさん」という1人の女性でした。
「大学を卒業してからずっと『ハンドボールがやりたい!』と思っていたんですけど、気軽に楽しめる場がなくて悩んでいたところ、X(Twitter)でつながっていた人から「東京の八王子で小田中叡人さんがハンドボール教室をやっているよ」と教えてもらいました。さっそく申し込んで、車で片道5時間かけて岐阜から八王子まで行って、小田中さんの教室に参加したんです」
35年ぶりのプレーから始まった
2022年10月、これがちぃさんにとって実に35年ぶりとなるハンドボールでした。八王子ユナイトH.C.代表の小田中さんの指導と教室の雰囲気に感激したちぃさんは、ここで思い切った行動に出ました。
「初対面の小田中さんに『東海圏で同じような教室を開きたいので、愛知にも来てくれますか?』と聞いたら、小田中さんが『いいですよ』と答えてくれました。そこで稲沢の体育館を押さえて、みなさんに参加費を出してもらって、小田中さんを講師に招いて、第1回の『大人のハンドボール教室in東海』が始まりました」
第1回のハンドボール教室では「こういう場所が欲しかったんだよ!」と言ってくれる参加者もいました。その後も様々な講師を招いて、不定期開催ながら教室は21回も続いています。(下に記事が続きます)
トップリーグの面々を講師に
歴代の講師陣がこれまた豪華です。主だったところを挙げると石立真悠子(三重バイオレットアイリスコーチ)、菊地啓太(プレステージインターナショナルアランマーレGKコーチ)、櫛田亮介(中部大学監督、元三重バイオレットアイリス監督)、西みどり(元シャトレーゼ、元日本代表GK)、松信亮平(早稲田大学男子コーチ、元琉球コラソンほか)、冨永直斗(元トヨタ車体)などなど。人柄がよくて、ハンドボール観がしっかりしていて、教え上手な人たちを的確にチョイスしています。「すごい人脈があるんですね」と言われるそうですが、ちぃさんは「そんなことはないですよ」と首を振ります。
「みなさんに紹介してもらったり、講習会をされている方にはDM(ダイレクトメール)でお願いしています。この教室を始めてからリーグHの試合を見るようになって、あとになって『すごい人を呼んでしまったんだ』と驚いています。石立さんに関しては、三重バイオレットアイリスの選手とファンがスポーツを楽しむイベント『Vスポ』に参加したのがきっかけです。『Vスポ』の雰囲気がとても好きで、こういう教室がもっと日本中に増えたらいいなと思っています」
21回目は岩見佳音GKコーチ
2024年11月30日に行われた21回目は、三重バイオレットアイリスの岩見佳音GKコーチが講師でした。こちらも「Vスポ」つながりです。現役時代人気選手だった岩見コーチ目当てで、三重からの参加者もいました。また富山から参加する常連さんもいるなど、東海圏以外にも「大人向けハンドボール教室」を楽しみにしている人が増えています。
自分の体を操る能力重視
GKコーチらしく、岩見コーチのウォーミングアップはコーディネーション(自分の体を操る能力)を織り交ぜたメニューでした。ハンドボールの本場ヨーロッパでは、コーディネーションを重要視していて、ジュニア期からトレーニングしています。もちろん大人になってからでも遅くありません。2024年8月のジャパンツアーで来日したパリ・サン=ジェルマンのGKヤニック・グリーン(デンマーク代表)は、取材の時にこう言っていました。「コーディネーションは若い頃だけでなく、大人になってからもトレーニングしているよ。毎日、毎日、体に覚えこませるように、繰り返しやるんだ」。GKだけでなくCP(コートプレーヤー)にも、コーディネーションは重要です。
「子どものシュートは3点」工夫して楽しむ
キャッチボールやシュートなどを練習して、最後はミニゲームを5分ずつ楽しみました。「ドリブル禁止」や「自陣と敵陣で3人ずつ」とか「子供のシュートは3点」といった制限をつけながら、みんなで動きを工夫します。「ドリブル禁止」だったら、位置取りやパスをもらう前の動きで工夫しないと、すぐに相手につかまります。「自陣と敵陣で3人ずつ」になると、パス&ランで動いてボールを運ばないと、敵陣までボールをつなげません。「子どものシュートは3点」になると、いい具合に子どもにボールが集まります。制限をつけることで、ハンドボールの攻撃に必要な要素を意識できるメニューになっていました。(下に記事が続きます)
岩見コーチ「レベル高い」
最後は全員でストレッチをして締めくくり。リラックスして体を伸ばしながら、岩見コーチが参加者全員に話しかけます。「みなさんは、リーグHのどのチームのファンですか?」レッドトルネード佐賀ファンがいたら「私の弟(岩見海里)がいますので、応援してくださいね」と、すかさず弟をアピールしていました。他にも「バスケの試合を見に行ったら、偶然瀧澤瞳子さんと白築麗子さんの隣になって、お2人がHC名古屋の選手だったから、ハンドボールも見るようになりました」という参加者もいました。ここまで引き出せるのは、岩見コーチの話術があってこそ。現役時代にチームのラジオパーソナリティをやっていたこともあり、ごく自然に話を振って、参加者の心をつかんでいました。
約2時間の教室が終わり、岩見コーチはサインや写真に快く応じていました。岩見コーチのオリジナルシールもプレゼントされて、参加者は大満足。岩見コーチは「参加したみなさんのレベルが、思った以上に高かったです。レベルに合ったメニューを練り直すので、もう一度チャンスをください」と、主催者のちぃさんにお願いしていました。
12/21の講師は富山ドリームス・庄司清志選手
次回の第22回「大人向けハンドボール教室in東海」は2024年12月21日14時から、尾西信金いなざわアリーナで開催予定です。講師は富山ドリームスの庄司清志選手。能登半島地震のチャリティTシャツを、庄司選手が勤務するトライプリントで作った縁で、講師としてくることになりました。
こういった、気軽にハンドボールを楽しめる場が増えると、潜在的なハンドボールファンを掘り起こせるし、リーグHのファンも増えるのではないでしょうか。とてもいい雰囲気の教室だったので、末永く続いてくれることを願っています。
ペンスポニュースレター(無料)に登録ください
スポーツ特化型メディア“Pen&Sports”[ペンスポ]ではニュースレター(メルマガ)を発行しています。「へぇ」が詰まった独自ニュースとスポーツの風を届けます。下記のフォームにメールアドレスを記入して、ぜひ登録ください。
\ 感想をお寄せください /