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【ハンドボール】菊池啓太、25歳のGKコーチ。ドイツ流の指導がすごすぎた

ハンドボール女子日本リーグ・アランマーレ富山の菊池啓太GKコーチ
2022年度プレーオフでの菊池コーチ=東京都調布市の「武蔵野の森 総合スポーツプラザ」で、久保写す。以下すべて)
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ハンドボールのGK講習会が2024年1月5日、愛知県豊田市で開かれました。元日本代表GKだった西みどりさん(旧姓村山・元シャトレーゼ)が豊田市で企画している、GKに特化した講習会です。2024年の講師は、西さんの教え子である菊池啓太GKコーチ(女子日本リーグ・アランマーレ)でした。愛知教育大を卒業して3年目。まだ25歳の「日本リーグ最年少コーチ」の指導は、これまでの日本にはない画期的な内容でした。

目次

愛知での講習、青森や愛媛からも参加者

菊池コーチの講習会は、座学が多いのが特徴=愛知県豊田市で、久保写す(以下すべて)
菊池コーチの講習会は、座学が多いのが特徴=愛知県豊田市で

今回の菊池コーチの講習会は3部構成になっていました。中学生の部、高校生の部、一般の部、各2時間ずつに分かれています。ここが大きなポイントです。「大人だから一般の部だけでいいや」と思わずに、時間と体力の余裕があるなら、ぜひとも中学生の部から受講してください。いいGKがヨーロッパで育つ理由がよく分かります。ちなみに今回のGK講習会には、青森や愛媛から参加した方もいました。GKの指導はニーズがあります。

「失点しない」方法より原理原則

自分にとって動きやすい手の位置を探す。中央が菊池コーチ
自分にとって動きやすい手の位置を探す。中央が菊池コーチ

中学生の部は「GKの役割は何ですか?」との質問から始まりました。GKに求められるのは構え、位置取り、止める、声をかける、さらには心構え(メンタリティ)とたくさんの要素がありますが、菊池コーチは「それはあくまでも方法」だと言います。「GKの目的は失点しないこと。だから構えや位置取り、止める、その他の方法は、失点しなければなんでもいい。方法はいくらでもあります。今回の講習会では方法は教えません。原理原則をみなさんに教えます」。かなりレベルの高い内容ですが、GKにとっては「一生もの」の財産になるはずです。

 失点をしないために、どうすればいいのか。菊池コーチは順序立てて説明します。「自分の動きやすい構えを探していきましょう。両手でボールを持って、どの高さにすると自分が一番跳びやすいかを探してください」。頭の上に両手がくるのがしっくりする人もいれば、両手が下の方が力を発揮しやすい人もいます。そこはGKの個性。同じようにして両足の幅やヒザの曲げ具合、カカトを浮かすか床につけるかなどを決めていきます。「筋力の成長によっても動きやすい構えが変わってくるので、3カ月に一回ぐらいのペースでセルフチェックしてください。GKを始めて3年目までの選手は、自分を把握することが大事です」。筋力がつけば、両足の幅を広げても跳べるようになります。筋力がまだ足りないなら、両足の幅を狭くした方が動きやすくなります。「あのキーパーのマネをしたい」という気持ちも大切ですが、まずは己を知ることが第一になります。

目つぶりジャンプ10回、ズレない感覚養う

目を閉じて動いても元の場所に戻れる感覚を、海外では若いうちに鍛える
目を閉じて動いても元の場所に戻れる感覚を、海外では若いうちに鍛える

自分自身を把握するひとつの例を、菊池コーチが教えてくれました。「目をつぶったまま、その場で10回軽く跳んでください。両足を揃えて、同じ位置を保ったまま跳びましょう。ジャンプが終わったら、目を開けてください。最初の位置にいましたか?」最初と同じ位置にいる学生はほとんどいません。みんな少しずつずれています。「知らないうちに位置取りがずれてしまうのは、自分がどこにいるかを把握できていないからです。ヨーロッパでは14歳のうちに、こういったトレーニングで『自分の場所を把握する』感覚を養います。アランマーレの選手も去年1年間トレーニングをして、やっとできるようになりました」。菊池コーチが言うには、日本リーグのGKは駆け引きはうまいけど、ヨーロッパで教えている基礎が欠落しているとのこと。自分の位置を把握できるのは「才能」ではなく「最初に覚える基本スキル」なのでしょう。センスは後天的に身につけられるのです。

【位置取り】球じゃない、シュートに合わせろ

シュートに合わせて位置取りする。明らかにシュートが来ない場面はリラックスでいい
シュートに合わせて位置取りする。明らかにシュートが来ない場面はリラックスでいい

高校生の部では、GKに求められる3要素「位置取り、構え、止める」を突き詰めました。菊池コーチは「GKの位置取りは何に合わせますか?」と質問しました。多くの高校生が「ボールに合わせる」と答えました。菊池コーチは「シュートに合わせてください」と言います。ボールとシュート。2つの違いは何でしょう?「シュートが来ない時まで、わざわざ位置取りを合わせる必要はありません。世界のGKの映像を見ればよくわかります。いちいちボールに対して位置取りしていません。シュートが来ると察知したところで、位置取りを始めています」。参考例として、2023年夏に来日したパリ・サン=ジェルマンのヤニック・グリーン(デンマーク代表)の動画を添えておきます。

確かに菊池コーチの言うとおりです。グリーンはいちいちボールに合わせず、シュートが来そうな時だけ位置を合わせています。でもシュートが来てから構えたのでは、遅くなります。いち早くシュートを察知するには、相手の動きをよく観察して、ラテラルパス(正面を向いて横にずらすパス)のような「明らかにシュートがない」動きを捨てる判断力が求められます。

【構え】両手を下げず動く

移動する時も、足を上げる時も、両手は上げたままで
移動する時も、足を上げる時も、両手は上げたままで

続いては構えです。菊池コーチが重要視していたのが「両手を下げない」こと。前に詰めたり、足を上げたりする場合にも、両手を下げずに動けるかどうか。日本の多くのGKは、移動するうちに自然と手が下がっています。海外のいいGKは手を下げないから、上のシュートへも対応ができるのです。ここは意識づけで改善するしかありません。

【止める】身長162cm以上なら飛びつくな

横移動するだけで、ハイコーナーに手が届く。無理にジャンプして、自分から崩れる必要はない
横移動するだけで、ハイコーナーに手が届く。無理にジャンプして、自分から崩れる必要はない

そして3つ目のシュートの止め方。菊池コーチの金言が飛び出しました。「身長が162㎝以上あるなら、横に移動してから手を出せば、ハイコーナー(ゴールの上の隅)には届きます。無理にジャンプする必要はありません」。小柄なGKの弱点はハイコーナーです。高さ2mのゴールの角に手を届かせようと、一生懸命ジャンプします。「でもジャンプしてしまうと、相手にタイミングを外された時点で終わりです。ジャンプしなくても、床を蹴って横に移動してから手を出せば、十分にゴールの角に手が届きますよね」と、身長172㎝の菊池コーチが実演していました。これは日本ではなかなか教えてもらえない考え方です。

 ちなみに162㎝に満たないGKの場合は「横移動してからジャンプする」と、菊池コーチは教えていました。横移動を入れることで、タイミングをずらされるリスクを減らしています。一瞬の最高到達点に期待するギャンブルに頼らず、横への移動で手が届く範囲をカバーしていけば、ロングシュートへの苦手意識がなくなるかもしれません。

ドイツに1年滞在、学んだGK育成術

ロングシュートに詰めて、枠外に打たせる
ロングシュートに詰めて、枠外に打たせる

最後の一般向けの指導ではアランマーレが2022年度、プレーオフに進出した躍進の理由のひとつでもある「ロングシュートを枠外に打たせる駆け引き」を紹介していました。

 ここで講習会の全体の流れをもう一度振り返っておきます。中学生の部では「すべては失点しないため」というGKの原理原則を伝え、自分の位置や動きを把握することを主眼に置きました。高校生の部では「位置取り、構え、止め方」という3つのスキルを追求しました。一般の部では、セオリーとあえて逆の動きを取り入れて、相手をかく乱するGK戦術を教えています。「これがヨーロッパの一貫指導の流れです。ヨーロッパでは『GKは10年かけて育てる』と言われていて、こういう手順で育成しているんですよ」。菊池コーチの構成力に改めて驚かされました。

25歳になったばかりの菊池コーチは、どのようにして一貫指導の全貌をつかんだのでしょうか。「大学3年の時に短期留学でドイツやフランスに行って、その時に育成の資料をもらったのがきっかけでした。その後もいろんな論文を読んで『一貫指導のやり方が日本と根本的に違うな』と思うようになりました。大学卒業後には1年かけてドイツのRegionalliga Nordrhein(ブンデスリーガ4部)で下部組織の指導を手伝い、全体像が見えてきました」。 

技術指導のプロ「世界に通用するGKを」

菊池コーチとアランマーレ富山のGK笠野(右)
菊池コーチ(右)とアランマーレのGK笠野

ハンドボールだけに限らず、日本のスポーツでは経験が絶対でした。昔だったら菊池コーチは「日本リーグの経験のないヤツが、日本リーグの選手を教えるなんて」と言われていたでしょう。でも今は違います。もちろん勝負どころの駆け引きなどの経験を伝えるコーチも必要です。しかしそれ以外の技術指導では、理にかなったものを提供できるコーチの方が重要になってきました。ハンドボールにもその流れは来るはずです。菊池コーチは若くして「指導のプロ」と言える力を持っています。こういう若者が増えてくれば、日本のハンドボールは強くなります。

 「世界に通用するGKを自前で育てられるようにならないと、日本の女子はオリンピックに行けません。そのためにもアランマーレでは笠野未奈が代表に入れるよう育てたいですね。笠野はいい意味で色がついていないGKだから、国際試合に強いタイプに育つ可能性を秘めています」。日本リーグ最年少コーチのこれからが楽しみです。

菊池 啓太(きくち・けいた)1998年生まれ、愛知県豊田市出身。豊田市立前林中、中部大学春日丘高では全国大会に出場。愛知教育大で指導者の道を志し、卒業後に1年間ドイツに留学。Regionalliga Nordrhein(ブンデスリーガ4部)でアンダーカテゴリーの指導を実地で学んだ。2022年から日本リーグのプレステージ・インターナショナル アランマーレのGKコーチに就任。1年目からGKの阻止率を改善し、チーム初のプレーオフ進出に貢献した。指導の内容が見られるInstagramは、フォロワー数が8,000人を超える。

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