東京・味の素ナショナルトレーニングセンターで2025年10月19日、、デフリンピック日本代表とアースフレンズBM東京・神奈川(以下アース)の合同練習が行われました。リーグ戦翌日にもかかわらず、アースのキャプテン三輪颯馬やエースの中村権一ら7人が練習に参加し、自分たちの技術を惜しみなく伝えていました。
谷口俊コーチ、アースとデフつなぐ

デフ日本代表の谷口俊コーチは、アースの現役選手です。今回の合同練習も、谷口コーチたっての要望で実現しました。
「試合の翌日ですが、アースの選手には無理を言って参加してもらいました。僕も子どものころは坪根敏宏さん(元湧永製薬ほか)や高木尚さん(元大同特殊鋼)といった名GKに憧れて、講習会で直接教わるなどして、成長しました。だからデフのみんなにも、日本のトップのレベルを肌で感じてもらいたかった。デフリンピックの本番(日本は2025年11月16日のトルコ戦が初戦)までに、どうしても実現させたかったんです」
谷口の要請に応えて、アースからはキャプテン三輪颯馬、エースの中村権一、バックプレーヤーの神谷弘平と熊野大雅、ピヴォットで元日本代表の笠原謙哉、GKの芳山直樹が参加しました。また日本代表で、海外への移籍先を探している石田知輝(元トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城)も加わり、豪華な練習相手となりました。 (下に記事が続きます)
デフ代表、クイックスタート採用

合同練習では、デフの選手とアースの選手が混じりながら、6対6の攻防が行われました。またデフ日本代表の亀井良和監督の要望で、クイックスタートの練習にも多くの時間を割きました。クイックスタートとは、失点を許した直後のリスタート。相手が戻りきる前に攻撃を仕掛けて、数的優位を作る戦術です。GKの素早い球出しから、全員で仕掛ける意思統一が大事になります。
アースの選手たちがクイックスタートの手本を見せたのですが、デフの選手たちはその迫力に面食らっていました。何気なく間を割ってきたアースの中村を、デフの選手が止めきれずに倒されるシーンもありました。
デフ日本代表の亀井監督は「一つひとつハンドボールのパーツを練習してきて、ようやくつなげてやれるようになりました。クイックスタートにしても、ケガが怖いですが、そのリスクを負ってでもやるに値するところまで来ました」と話していました。メンバー16人中、ハンドボール経験者はわずか7人のチームを鍛えて、ようやくハンドボールの全体像を全員で共有できるところまで来ました。(下に記事が続きます)
三輪颯馬、対応力伝授

とはいえ、デフの選手はまだ細部にまで気が回りません。クイックスタートを仕掛けられた時、戻ることに夢中になって、目の前しか見ることができません。そこで亀井監督からアースの三輪に「視野外から切る動きを多めでお願いします」とリクエストがありました。
アースのレフトウイングで活躍する三輪は「機転を利かせたプレーへの対応が、あまりできていないという話もあったので、僕の得意なプレーをやりました。『こういうプレーもあるんだぞ』と感じてもらえたかな」と言います。スピードスターの三輪は、左サイドから切る動きも得意技のひとつ。切るタイミングに工夫があるから、身長159㎝でもリーグHで活躍できています。デフリンピック本番も、リーグHレベルの対戦相手が続くと予想されるので、いい予行演習になったことでしょう。
中村権一、オフ・ザ・ボールの動き

ミニゲームをやったあとは、ポジションごとに分かれて、質疑応答が行われました。前日の試合(福井永平寺ブルーサンダー戦)で10得点を挙げている中村は、ボールをもらう前の動きを教えていました。
「デフの坂本州選手から、オフ・ザ・ボールの動きに関する質問があったので、その練習を一緒にやりました。前にも一度、デフの練習に参加したことがあって、ハンドボールに対するポジティブな姿勢、ピュアに向き合う姿に刺激をもらったので、今回も参加しました。僕自身も前向きにがんばる姿を見せていきたいですね。昨日の試合のあとで、体は疲れていますけど、気持ちの面でいいリフレッシュになりましたよ」
アースのエース中村は、普段は高津支援学校生田東分教室で働いているので、簡単な手話もできます。「短い時間で、できるようになったプレーもあったんで、デフリンピック本番を楽しみにしています」と、デフ日本代表との交流を楽しんでいました。(下に記事が続きます)
日本代表・石田知輝も指導

ライトウイングの班を担当したのは、元トヨタ自動車東日本の石田でした。以前も紹介したように、デフの司令塔・津村開とは、京都の松井ヶ丘小学校、大住中学校で一緒にプレーしていました。その縁もあって、今回の練習にも参加しています。
「津村とは、小、中学校で6年間一緒にプレーしました。上手で、まじめで、昔からハンドボールに真摯に取り組む子でした。高校からは離れましたけど、ある日デフ日本代表の集合写真を見た時に津村の顔があって、そこから気にするようになりました」
石田の本職ではないライトウイングの指導になりましたが、右利きライトウイングが揃うデフの選手にとっては、かえって好都合でした。石田は両足ジャンプでの飛び込み方を教え、選手たちはその動きをマスターしようとしていました。石田はこのあと日本代表の海外遠征に合流し、遠征後はセルビアを拠点に所属チームを探すとのこと。海外でも石田のダブルクラッチが見られることを楽しみにしています。(下に記事が続きます)
笠原謙哉、答え引き出す

元日本代表で、アイスランド等でのプレー経験のある笠原は、時間をかけてピヴォットの動きを教えていました。
「ピヴォットを教えるのは難しいと言われるけど、レベルの違いはあれど、教えたらできるんですよ。でも、僕はいきなり答えを教えません。気づいてほしいポイントをいくつか設定して、選手が自分からその答えを口にするまで、ずっと待っています。今日だったら、タイミングと位置取りですね。今日も選手の方から、想像を超える答えが返ってきましたよ。僕が一方的に教えても、明日になったら忘れてしまう。自分で獲得すれば、僕がいなくなっても忘れない。そこを引き出すために、僕は待ちます。だから時間がかかるんです。どういう訳か、僕には待つ才能があるみたいで」
若い頃は「大きいだけで代表に選ばれている」とも言われた笠原ですが、他競技のトレーニングを学ぶなどして、後天的に体の使い方や技術を習得し、37歳になった今も現役で活躍しています。言葉を重ねてコミュニケーションを取るだけでなく、「選手がつかむのを待つ」忍耐強さもあるようです。デフのピヴォット・翁孝嘉は野球から転向した初心者ですが、短期間でピヴォットらしい動きをするようになりました。笠原の理論を素直に吸収して、本番ではさらに気の利いた動きが期待できそうです。(下に記事が続きます)
芳山直樹の人柄、GK陣和ます

GK陣と楽しそうにコミュニケーションを取っていたのが、芳山直樹でした。地味だけどよく止めるアースの守護神は「人としてのコミュニケーションですよ」と照れながらも、自分の技を惜しみなく伝授していました。
「クイックスタートの球出しは、練習すれば誰でもできること。今日の練習の成果が、本番で発揮できるのを楽しみにしています。デフのGKはみんな構えが大きくて、前向きなキーピングができていました。ボールを怖がらない姿勢は、僕も真似すべきですね。特に定野巧さんは、ハンドボールを始めて2年も経っていないと聞いて驚きました。我流の癖がない分、教わったことを吸収しやすいのでしょう。スマートで洗練されたキーピングをしていました」
刺激を受けた芳山は「次は僕らがリーグ戦で前向きな姿勢を示したい」と、今季初勝利へ向けて気持ちを新たにしていました。
デフの守護神・定野巧、闘志

リーグHのGKからも絶賛された、デフ日本代表の守護神・定野巧は、今回の合同練習を誰よりも楽しんでいました。アースの得点源・中村のシュートを再三阻止するなど、勇気あるキーピングが光りました。
「芳山さんには、大きい相手のシュートをどう捕るのかを教えてもらいました。僕はラグビーのFWをしていたので、体にボールが当たっても全然痛くない。目をゴーグルでカバーしておけば、怖さは感じません。今日、アースの選手のシュートを捕れたのは、谷口コーチや(臨時コーチの)北野香代さん(元シャトレーゼほか)、芳山さんから教えていただいた積み重ねがあったからです。基本の大切さを改めて実感しました。強い相手には、闘志を持って立ち向かうことが大事です。デフリンピックでも闘志を前面に押し出して、シュートを入れられてもすぐに切り替えていきます」
面が大きく、シュートから逃げないのが、GK歴2年足らずの定野の強みです。「ゴーグルをつけたら変身完了。闘志がみなぎります」と言って笑わせるなど、ムードメーカーの資質もある選手。好セーブ連発で、駒沢屋内球技場を盛り上げてくれると信じています。
初戦は11/16トルコ戦

夏季デフリンピック競技大会東京2025、ハンドボールは11月16日に始まります。グループAに入った日本代表は、16日にトルコ(10時~)、17日にブラジル(10時~)、19日にドイツ(19時~)と対戦し、予選ラウンド3試合の結果により、21日の準々決勝の相手が決まります。入場は全競技無料。駒沢屋内球技場で、デフリンピック日本代表を応援しましょう。
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