ハンドボールのリーグH・アルバモス大阪の銘苅淳(めかる・あつし)監督による小学生向けの講習会が2024年12月14日、横浜市青葉区の桐蔭横浜大学体育館で開かれました。神奈川県ハンドボール協会が主催するこの講習会は、銘苅監督が現役時代から10年以上、続いています。「圧倒的熱量」を掲げる銘苅監督らしさが随所に出た3時間に及ぶ講習会の模様をレポートします。
たくさん失敗したらうまくなる
今回の講習会は、桐蔭横浜大学の岡本大監督と女子ハンドボール部員のサポートで、神奈川県内の小学校高学年の約70名を対象に行われました。参加者のなかには「3歳の時にこの講習会を見ていました」という児童もいました。
「いつも同じことをやるのはつまらないから」と、銘苅監督は毎年練習メニューを変えてきます。2024年はじゃんけんからスタートです。2人一組でじゃんけんをして、勝った人はダッシュで次へ進めます。次の場所でまたじゃんけんをして、勝った人はゴールに進めます。負けた人はスタート地点に戻って、またじゃんけんを繰り返します。制限時間内にゴールへたどり着くために、どうすればいいのか?1回目が終わったあとに、銘苅監督は小学生に問いかけます。小学生の答えを聞いたあと、銘苅監督がこのウォーミングアップの考え方を伝えました。
「全力で走って戻る。じゃんけんの相手をすぐに見つける。たくさんじゃんけんをすることが大事です。たくさんじゃんけんをして、たくさん負けて、ゴールに行けばいいんです。ハンドボールはたくさん失敗した人がうまくなるから、どんどん挑戦してください。わかった?」
GKを動かす駆け引きをしよう
じゃんけんの勝率は誰でも同じ。だったらじゃんけんの機会を増やして、ゴールへ行ける確率を高めればいい。かつてハンドボール女子日本代表を率いたウルリック・キルケリー監督も「Mistake is a part of handball.(失敗はハンドボールの一部だ)」と言っていました。ハンドボールはミス、失敗が起こりやすいスポーツ。失敗を恐れて消極的になるのではなく、失敗するなかで修正して、できることを増やしていけば、もっと楽しくなれるはず。銘苅監督の言葉を聞いて、小学生のじゃんけんに熱がこもってきました。
シュート練習でも、銘苅監督は工夫をこらしていました。通常のゴールだけでなく、マットで片側を消したゴール、縦長のマット、横長のマットの計4つをゴールにしていました。さらに銘苅監督は、シュートを打つ際の注意点を伝えました。「手元や身体、目線を動かして、GKを動かす駆け引きをして打ちましょう」。キャッチボールで手元を柔らかく使うメニューが、GKとの駆け引きにつながっていました。
「1、2歩で打つ」「逆足で打つ」
縦2メートル×横3メートルのゴールは、小学生には大きすぎます。空いているところに速い球を投げ込めば、簡単に入ってしまいます。「最近の子は剛速球ですべてを解決しがちだから、駆け引きの感覚を早い段階で覚えておいてほしいんですよね」と、銘苅監督は言います。確かにリーグHでも、球の速い選手、シュートのバリエーションが豊富な選手が増えました。その一方で、GKの腰横をピンポイントで打ち抜くような、コントロールと駆け引きに長けた選手が減っています。
銘苅監督は駆け引きの基本を、小学生に伝えます。「同じ方向、同じ高さ、同じタイミングで打たない。これをするとGKが捕りやすいシュートになるので、方向や高さ、タイミングを変えて、シュートを打ちましょう」。これは酒巻清治監督(現イズミメイプルレッズ広島監督)が男子日本代表監督だった時代に徹底していた「シュートの3原則」です。かなりレベルの高い内容を、小学生向けの講習会に織り込んでいました。
打てば入る環境でシュートを打っていると、大人になってからその癖が抜けなくて、安直なシュートばかりになってしまいます。駆け引きの引き出しを増やすためにも、シュートの3原則は子供の頃から意識しておいた方がいいでしょう。他にも「1、2歩で打つ」や「逆足で打つ」など、タイミングを変える打ち方を、銘苅監督は推奨していました。
対戦相手は仲間だからね
練習のあとは、大人対子供のミニゲームを楽しみました。ラストは子供全員がコートに立つスペシャルルールで行われ、子供たちが見事勝利を収めました。3時間に及ぶ長丁場でも、子供たちの集中力が持続したのは、銘苅監督の練習の組み立てがよかったからでしょう。
銘苅監督は子供たちに言います。「明日試合があるって聞いたけど、対戦相手は仲間だからね。敵ではなくて仲間だから、相手に汚いことはしない。フェアプレーで勝負してほしい。今日の講習会も、少しでも仲間を増やしてほしいから、できるだけ違うチームの人とペアを組んで、名前を呼び合うようにしました。明日試合会場で会ったら、「昨日一緒にやったよな」と声をかけられるといいな。ハンドボールでいい仲間を増やしていきましょう」。
思い一つに感情爆発
銘苅監督はこんなことも言っていました。「1人ひとりが思いを込めて、全員の気持ちが一致して感情を爆発させるのが、ハンドボールのだいご味だからね」。確かにアルバモス大阪のベンチには感情の発露と一体感があります。腹の底から声が出るような盛り上がりがあります。真剣にハンドボールに向き合っているからこその雄叫びです。ノリだけでハンドボールをやっていないから、見る人の心にも響きます。こういう自然な盛り上がり方を、小学生のうちから体感しておくことが、規律あるチーム作りに役立つと思います。
銘苅監督のエッセンスが詰まった講習会は、全国各地で好評です。子供だけでなく、大人にも役立つ内容になっています。銘苅監督の教える基本が徹底されると、チームが劇的に変わります。2024年のインカレでは、銘苅監督がコーチを務める関西学院大学が全国3位になりました。リーグH参入1年目のアルバモス大阪も、リーグ初勝利を含む3勝と健闘しています。銘苅監督は「みんな、アルバモス大阪の応援もよろしくね」と、子供たちへのアピールを忘れませんでした。ハンドボールを教わって、自分の体で表現して、いいプレーを見て参考にする。アルバモス大阪のプレーは、子供たちのよき手本となるでしょう。
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