ハンドボールのリーグH女子では8年間、レギュラーではない時期の方が長かった。大ケガをしたタイミングで引退すれば、楽だったかもしれない。だが橋本南(大阪ラヴィッツ)は再びコートに立つことを目標に、現役最後の1年に全力を尽くした。2025-26シーズンの後半には試合に出るようになり、身長160cmの小さな体で最後まで戦う姿勢を見せた。
小さな左利き

2013年夏のインターハイ決勝戦。夏連覇をめざす高松商業(香川)には谷華花(元ソニー、現高水高校(山口)監督)、馬場敦子(ハニービー石川)がいた。優勝候補本命と目されていた高松商業だが、決勝戦では四天王寺高校(大阪)を相手に苦戦している。この年の四天王寺はライトウイングの藤田明日香(ビストリシャ・ナサウド/ルーマニア)がチームの中心だったが、高松商業を苦しめたのは藤田よりも小柄な左利きのライトバックだった。広いスペースの1対1で突破を繰り返し、堅守が武器の高松商業を慌てさせた。最終的には高松商業が勝ち、四天王寺は敗れたものの、小さなライトバックは鮮烈な印象を残している。それが橋本南だった。
ウイング専念だとよさ消える

その後武庫川女子大学を経て、橋本はソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(現ブルーサクヤ鹿児島)に入った。強豪のソニーではライトウイングの控えという扱いだった。日本リーグ(現・リーグH)レベルでバックプレーヤーを務めるには、身長160㎝だとかなり厳しい。強烈なフェイントやよほどのシュート力がない限り、他のポジションに回されてしまう。ただ「あなたは小さいからウイングね」と決めつけてしまうと、その選手のよさが消えてしまう。ソニー時代の橋本は、これと言った特徴のない、控えらしいウイングになっていた。
複数ポジションで味

ソニーに2年在籍したのち、橋本は2020-2021シーズンから大阪ラヴィッツに移籍する。高校時代を過ごした大阪で、橋本は再びバックプレーヤーでもプレーするようになった。選手層の薄いラヴィッツだから出場機会にも恵まれた。橋本はレギュラーではないものの、ライトウイング、ライトバック、時にはセンターと3ポジションを任された。速攻では片手キャッチから素早くボールを展開する。速攻でつなぎ役になる橋本の姿にはスピード感があった。ウイングでフィニッシャーに徹するより、ボールに触れる回数を増やした方が、橋本のよさが生きてくる。いろんな場所でちょっとずつセンスを発揮して、トータルでチームのプラスになるタイプだった。「どっちつかず」の選手ではあるが、そのどっちつかずな感じを逆手に取って、3つのポジションでうまみを出せていた。
おもしろい選手だが

しかし当時の首脳陣の評価は決して高くなかった。「橋本は雑」と言われていた。ボールを持つ分、ミスもめだつ。決定力がそこまでないから、無理にライトバックらしく打とうとして、DFの枝に弾き返されることも多かった。とはいえ、使い方次第では十分使えるだけのツールを、橋本は備えていた。
小学6年生まで続けていた柔道では、九州の強化指定選手にも選ばれている。だから腕っぷしの強さには自信がある。小さくても体が強い橋本は、右2枚目DFで当たり負けしなかった。速攻のつなぎが得意だから、橋本をDFに入れておくと2次速攻の展開がスムーズになる。ただしあくまでも「思った以上に」できるのであって、絶対的にその役割を任せられるほどではなかった。
使い勝手がよさそうで、実はちょっと使いにくい、サイズ不足の左利き。ガッツがあって、性格もいい選手なので、できることなら試合に出てほしい。でも使われ方は監督のハンドボール観やチーム事情に大きく左右される。ラヴィッツの取材ではいつも「おもしろい選手だけどな」と思いながら、ベンチにいることの多い背番号25を目で追いかけていた。チームで一番の選手ではなかったが、なぜか気になる選手だった。
ケガで終わりたくない

自身7年目となる2024-25シーズンに、橋本は29歳で引退するつもりだった。ところが、シーズンの途中で膝の前十字じん帯を切る大ケガを負った。手術とリハビリで、シーズン終盤はベンチに入ることすらできなかった。
そのまま引退する選択肢もあった。だが橋本はそれを拒んだ。「コートに立ってから引退したい」と、もう1年プレーする道を選んだ。勤務先も株式会社セレッソ大阪に変わった。
セレッソ大阪はサッカーだけでなく、ハンドボールやダンス、書道、プログラミングなど、幅広くスクールを運営している。橋本の主な仕事は、スクールの運営を手伝うことだった。SNSの告知なども任された。ラヴィッツの練習は、セレッソ大阪の本拠地YANMAR HANASAKA STADIUM(長居球技場)内の室内練習場で行われる。午前中の練習を終えると、職場までは徒歩3分。昼食をとったら、13時から21時半まで勤務する。前職では勤務時間が融通されていたが、フルタイムで働く日々が始まった。





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