身長203㎝、最高到達点は370㎝。この3シーズンでクラブ10冠、個人賞も数知れずーー。バレーボールの世界最強クラブで活躍したオポジットが、2026-2027シーズンは日本にやってくる。
日本代表キャプテン・石川祐希(30)が2024年から2シーズン在籍し、日本でも知られるようになったイタリア男子バレーボール・スーペルレガの強豪ペルージャ。そのクラブのOP(オポジット)ワッシム・ベンタラ(29)が、来季から日本SVリーグのサントリー・サンバーズに加入することが2026年6月16日、公式SNSで発表された。彼はSVリーグのどこに惹かれて「日出ずる国 」にやってくるのか。彼が住み慣れたペルージャを去る2日前に現地に赴き、ホームアリーナ Pala Barton 近くのカフェで話を聞いた。
ポーランドでは宮浦のチームメート

2025-26シーズンのペルージャは、ヴェローナが初栄冠に輝いたコッパ・イタリアは逃したものの、世界クラブ選手権、スーペル・コッパ、2年ぶり3回目のスクデット(リーグ優勝)、そしてチャンピオンズ・リーグ2連覇と圧倒的な強さを見せつけた。その中心選手が、チュニジア出身のOP、ワッシム・ベンタラだ。チュニジア人の父親とポーランド人の母親とのハーフで、スポーツ国籍はチュニジア。国際大会ではほとんど見ることができないが、2024-25シーズンに日本代表キャプテン・石川祐希がペルージャに移籍し、またサントリーとの親善試合で来日もしたため、日本でも名が知られるようになってきた。鋼のような強靭な体に、ネットから胸が出るほどの跳躍力。安定したスパイク決定力に強いインパクトを受けたファンも多いのではないだろうか。
しかし、最初からバレーボールを好んでいたわけではなかった。ヨーロッパのみならずチュニジアでも、男子に人気があるスポーツはやはりサッカー。ワッシム少年も例にもれずサッカーが好きで、2002年の日本・韓国ワールドカップをポーランドで視聴してますます虜(とりこ)になったが、兄2人の影響もあり9歳ころからバレーボールの道へと進んだ。高身長のため最初のポジションはMB(ミドルブロッカー)だったが、好きではなかったのでOH(アウトサイドヒッター)に。14〜15歳の頃からプロになる意識が芽生え、ポーランドやイタリアリーグを夢見ていたと言う。
チュニジア1部リーグのクラブ、そしてアンダーカテゴリーの代表に選ばれたのは、その3年後の17歳の時だ。それからリヨン、ショーモン、ガゼレク・アジャクシオとフランス1部リーグに6シーズン在籍した後、ポーランド1部リーグのニサへ移籍。フランスリーグ在籍時にもっと攻撃に特化したいとOPに転向し、ポーランドでは2022-23に日本代表OPの宮浦健人(27)を抑えてスタメンでプレーし続けた。
ニサでの最終シーズン、クラブは16チーム中7位に終わったものの、個人ではリーグの総得点ランキング3位となったベンタラ。「世界最強オポジット」への階段を上がるべく、翌シーズンからイタリアのペルージャへ移籍した。(下に記事が続きます)
憧れの監督のもとでプレー3年

フランスのショーモン在籍時代、チャンピオンズリーグでトレンティーノやペルージャと対戦し、イタリアクラブのレベルの高さは熟知していた。そして偶然にもこの2クラブが、2023-24シーズンに向けベンタラの獲得に名乗りを上げた。ペルージャに行くことに決めた決定的な理由は、ずっと指導を受けてみたかったアンジェロ・ロレンツェッティ監督がトレンティーノからペルージャに移籍すると知ったからだ。彼がトレンティーノに残留していれば、ペルージャでなくトレンティーノのベンタラが誕生していたかもしれない。
ペルージャでの3シーズンについて、「居心地がよく充実した毎日を送っていると、時は速く過ぎていきますね。この3年はあっという間でした」と振り返る。
「優勝請負人」と称される名将に加え、チームメートもイタリア代表キャプテンのジャンネッリ、ポーランド代表のセメニウクなど、各国代表で国際大会のメダルを獲得しているトッププレイヤーぞろい。イタリアと並び世界最高峰と称されるポーランドリーグを経験しているとはいえ、勝つことが当たり前とされているクラブへ移籍することにプレッシャーを感じなかったのだろうか。
「さすがに1年目の最初は不安や緊張もありましたよ。若いころからずっと見てきたリーグですが新しい環境ですし、しかもあのペルージャですから。でも周りの人の助けもあって、自信を持つことができました。2年目以降にそれが当たり前と感じるようになってからは、プレッシャーを感じませんでしたね」とさらり。最後には「勝たないといけないのなら、それを成し遂げるまでです」と締めくくった。まさに常勝軍団のメンタリティだ。(下に記事が続きます)
物静かなユウキと愉快な仲間たち

チームメートから「クラブいちのおしゃべり」と太鼓判を押されるベンタラは、両親の母国語であるアラビア語とポーランド語に加えて英語、そしてフランス語とイタリア語と在籍したクラブの言語を合わせて5か国語を操る「ペンタリンガル」だ。筆者とのインタビューでも、まだ3年とは信じられないくらい流暢なイタリア語を話す。しかし、自然と会話が弾むのは母国語の一つであるポーランド語だと言う。ポーランド人のセメニウクとポーランド語も話すウクライナ人のプロトニツキは、冗談を言い合って盛り上がる、特に仲が良かったチームメートだ。
2シーズンを共に過ごした石川との関係を聞いてみた。
「ユウキはとても物静か。でも僕がふざけて盛り上がると一緒に乗ってくれる時もあって。コートの中でも外でも必要ならいつでも手を挙げて助けてくれる、ファンタスティックな男です。サントリーと契約してからは日本のことも彼に聞きましたし、SVリーグの決勝戦もちょっとユウキと一緒に見ました」。
石川以外に日本の話を聞いたのは、SVリーグでプレーしているチュニジア人選手、名古屋ウルフドッグスのOHエイメン・ブゲラ(25)。ヨーロッパとは環境がかなり異なるが、すべてに対するオーガナイズが素晴らしいと教えてくれた。彼も同チームに残留するため、日本で同郷対決が実現する。(下に記事が続きます)
「関田選手のトス、僕好み」

ペルージャでの活躍に、来季に向けてベンタラ獲得に動いたのはイタリア国内、ポーランド、トルコ、ロシアの複数のクラブ。そして世界クラブ選手権を終えた12月の下旬にサントリーからのオファーが来ると、決断するのに時間はかからなかった。
「フランス、ポーランド、イタリアとプレーしてきて、次に行く国を考えたら日本もいいな、と。サントリーは日本のトップチームですし、他の日本のオファーを待つ必要はありませんでした」
2025年10月に親善試合を行ったサントリーを始め、同年12月に行われた世界クラブ選手権では今季SVリーグを制した大阪ブルテオンとも優勝を争った。フィジカルよりもテクニック、特にディフェンスが素晴らしくてボールが落ちない日本のバレーボール。世界トップ選手がどんどん加入してさらに面白くなったと関心を持っていたが、さらに来シーズンはオンザコートの外国人が3枠に広がり、その進化はさらに加速すると確信している。セッターの関田選手とはポーランドで対戦したことがあり、「彼の速いトスは僕好み」と期待する。
日本には東京オリンピックと昨年の親善試合で2回行っただけ。シーズン中はバレーボール以外のことに気を向けられないのであまり町には出なかったそうだが、大阪という大都市で、日本の文化や人々と触れ合うことを楽しみにしている。
彼以上に楽しみにしているのは、実は奥様なのだそう。サントリーのホー厶・箕面市は筆者の地元に近いため、名物の大滝や3歳になるお子さんも楽しめそうな昆虫館を案内すると、「妻がもうすでに、こういう情報を集めまくってるんですよ」と笑った。
「僕は体育館が近ければ、それだけで満足。目標は優勝です」と目を輝かせるベンタラは、プロフェッショナルであるだけでなく、本当にバレーボールが好きなのだろう。ペルージャではHABIBI(アラビア語で「私の親愛なる人」の意味)と親しまれたように、日本でもきっとそのプレーと笑顔で多くのファンを魅了するに違いない。
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