駅伝の中継所で最後の力をふりしぼる選手がタスキを外して迫ってくる。
待ち受ける次の走者が叫ぶ。「ラスト!」「ファイトー!」
そんな光景はこれまでの取材で何度も目にしてきたが、これから走り出す選手が、迫ってくる選手に「ありがとー!」と叫ぶのは珍しい。私は初めて観た。
2025年11月23日にあった第45回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝)。「ありがとー!」の声の主は、エースがひしめく3区でトップを守り、チームを初優勝に導いたエディオンの主将、矢田みくに(26)だった。
エディオンは1区(7.0キロ)でエース格の水本佳菜が積極的な走りでトップでタスキをつないだ。そして2区(4.2キロ)。エディオンは、高卒1年目のルーキーでこの大舞台を初めて経験する塚本夕藍を抜擢したが、客観的にこの2区が不安要素と言えた。先手必勝がセオリーの駅伝。トップを守るには塚本の力は少し足りないかと思っていた。
ところがどうだ。塚本は東京世界陸上女子1500M代表の木村友香(積水化学)らに一時は迫られながらも、首位を堅持して必死の形相で中継所へ。そんな頑張りをみせた後輩に発せられたのが、主将矢田の「ありがとー!」だった。エディオンは4区でJP日本郵政グループにかわされたが、5区でパリ五輪女子マラソン補欠の悔しさを晴らすように快走した細田あい(29)で再逆転。全6区間42・195キロを2時間13分50秒で逃げ切った。(下に記事が続きます)
矢田「厳しい局面耐えた」
実業団6年目、東京世界陸上女子10000M代表でもある26歳の矢田から、19歳の塚本への「ありがとー!」にほろりときた。駅伝の本番中、しかもこれから走り出すのに「ありがとー!」と叫ぶ。そのシーンを観ただけでエディオンのフラットな人間関係、チームワークの良さが伝わる。
「ありがとう」は、魔法の言葉だと聞いたことがある。心理学では、Thank you Therapy(サンキュー・セラピー=感謝療法)という研究もある。感謝することで人は、謙虚な気持ちになり、物事を肯定的に捉え、言った方も、言われた方も人生が良い方向へ好転すると言われている。人は1日に平均で7~8回「ありがとう」を言うらしい。それを1日20回以上言う人は幸福度が断然高まるとか。
エディオン女子陸上競技部のホームページで、主将の矢田みくには好きな言葉に「明るさ」「素直さ」「謙虚さ」と書いている。この日の優勝インタビューでも矢田はお立ち台で清々しく言った。「(周回遅れとなり力を出し切れなかった)世界陸上のあとは駅伝に切り替えて、チームみんなで厳しい局面にも耐えてきました。スタッフさんにも、監督にも、選手も含め、ありがとうの気持ちです」。エディオンの初優勝にはそんな「ありがとう」の言葉の力と効能がたっぷり詰まっているように思えた。
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