オールドメディアに人が群がるのはいまや「号外」ぐらいなのに、もったいない。
米大リーグのワールドシリーズ(WS)第7戦でトロント・ブルージェイズとの激闘を逆転で制したドジャース。その2連覇を速報した一部新聞社の号外が不評だ。
その理由は見出し、そして写真だ。この試合をライブで観戦していた人には説明するまでもないが、不満が噴出しているのは、この日先発して打ち込まれ、負け投手になりかけた「大谷」を大きな文字で主見出しでうたい、しかも大谷単体の写真を扱った新聞社の号外である。その一方、異例の「中0日」の救援登板でシリーズのMVPになった山本由伸の扱いはとても小さく、その紙面では、隅に追いやられてしまっている。
号外を目にした複数の読者たちからのSNSのコメントを抜粋すると、以下のような具合だ。
「号外の見出しはなぜか大谷」
「今日の号外は大谷じゃなく由伸(山本)でしょう」
「この号外の見出し作った人、今日の試合みてないんちゃう?」
「この号外は萎える。大谷1人で勝ったみたいな見出し」
スポーツ報知に集中砲火
「号外で炎上している新聞、初めて見た」というつぶやきも見かけた。
特に、批判の集中砲火を浴びているのはスポーツ報知だ。スポーツ報知の見出しは「大谷 世界一」。しかも、メインの写真は大谷単体のバンザイポーズだ。
ワールドシリーズ第7戦の試合終了から1時間もたたない2025年11月2日の昼下がり、同社は東京・JR新橋駅前やJR有楽町駅前、JR秋葉原駅前、同社の本社があるJR両国駅付近で号外を配布した。
さらにネット上でスポーツ報知は「お知らせ」として、ドジャースの連覇を伝え、「(中略)連覇は球団史上初。大谷翔平投手(31)が投打二刀流で活躍し、山本由伸投手(27)がMVPに輝きました」と説明。「この記念すべき日にスポーツ報知では、号外を発行しました。入手できなかった人のために下記リンクを設定しました。画像を拡大して読むことができます。報知新聞社に予備はありませんので、お問い合わせ頂いてもお譲りできません」と告知した。
ただ、いざリンクを開くと、前述の「大谷一色」号外紙面がドーンと現れる。それを引用する形で、違和感を抱いた読者のコメントが折り重なっているというのがここ1日の状況だ。

スポニチ、産経も「大谷」見出し
「大谷」の見出しは、スポーツ報知だけではない。スポニチも「世界一 連覇 大谷」、産経は「大谷 WS 連覇」と新聞編集用語でいう「ベタ黒カット」の見出しでうたった。
一方、読売は主見出しで「ドジャース連覇」。袖の見出しで「山本3勝 MVP」と冷静にフォローした。試合に即した的確な見出しを付けたからか、ネットのコメントで不満は一切見当たらない。
ニュースの重大性、公共性、鮮度で判断
号外を発行するかどうかの判断基準はなにか。新聞社の編集方針によっても異なるが、一般的にはニュースの重大性、公共性、そして鮮度が尺度となる。ワールドシリーズ第7戦終了は日曜日の昼過ぎだったから、そのニュースは紙の新聞の読者には、翌月曜日の朝刊まで届かない。ドジャース連覇の号外を発行した新聞社には「少しでも早く伝えるべき国民的ニュース」という全社的な判断があった。
ではなぜ、スポーツ報知や、産経は「大谷」で見出しを打ったのか。MVPの山本由伸よりも大谷翔平の方が「有名」だからか。「ドジャース」というカタカナ5文字は長いから「大谷」2文字にそれを代表させたのか。それとも単純に編集者の感覚がズレているのか。おそらくそういう話ではない。
その号外の裏面に理由がある。今回のドジャース連覇号外のように「グッドニュース号外」には「お祝い広告」が付き物だ。スポーツ報知の号外裏面には大谷がアンバサダーを務める人材サービス企業dipの「お祝い広告」が入っていた。「大谷翔平選手 ワールドシリーズ2連覇おめでとうございます」というメッセージ入りで。dipは来春のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)東京プールのメーンスポンサーにも決定している。経営上、新聞社にとっては良好な関係を継続していきたい広告主の一つだろう。(下に記事が続きます)
大谷に「寄せすぎ」は逆効果
号外の表の記事、裏の広告はインパクト、保存性、コレクティブ性からも表裏一体が望ましい。「主役」はできれば共通で、連動しているのが理想ではある。大谷はシリーズ第3戦で2本塁打二塁打2本を含む全9打席出塁という異次元の活躍を見せたように、文句なしに2連覇の立役者ではあるのだが、ワールドシリーズ第7戦に関して言えば、主役は誰が見てもMVPの山本由伸だった。広告主に忖度したとまでは言わないが、記事と広告の親和性を高めるために、スポーツ報知は見出しや写真で「大谷」に「寄せすぎた」。そのため、読者に違和感が広がってしまったというのが、私の見方だ。
きょう11月3日付の新聞各紙の朝刊スポーツ面にも、記事下や記事対抗面で大谷と契約するパートナー企業のお祝い広告があふれることだろう。ただ、記事(ジャーナリズム)と広告の「接着剤」を間違えると、今回のようにせっかくのポジティブなメッセージも、読者に違和感や不満を抱かれ、逆効果となる。
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