サッカー日本代表MF堂安律(27歳)は、他国リーグへの移籍も検討する中で、なぜドイツ国内でのステップアップを決断したのだろうか。日本人歴代4番目に高額の移籍金が発生したアイントラハト・フランクフルトへの大型移籍の背景に迫る。
2025年夏 ブンデスリーガ屈指の移籍
ドイツ・ブンデスリーガのアイントラハト・フランクフルトは2025年8月7日、SCフライブルクからMF堂安律を獲得したことを発表した。契約期間は2030年6月までの5年間。
推定の移籍金は2,100万ユーロに100万ユーロのボーナスが加わり最大で2,200万ユーロ(約38億円)に上る。
フランクフルトで10年間に渡りプレーし、同クラブ育成部門のコーチに就任した長谷部誠や、堂安と同じくガンバ大阪出身の稲本潤一が背負った20番を受け継ぐことも併せて明かされた。
悲願の欧州CL初出場が可能に
フランクフルトは、堂安とフライブルクにとって実は前季の因縁の相手だ。2025年5月17日の最終節で対戦し、その試合の結果次第では4位につけていたフライブルクが3位のフランクフルトを逆転して、念願の欧州チャンピオンズリーグ初出場を果たす可能性もあった。堂安は気を吐いてシーズン10得点目となる先制点を決めたが試合には敗れ、結局5位でシーズンを終えた。
ワールドカップとともに夢だったヨーロッパの晴れ舞台まであと一歩というところで幻と消えた。
オランダでは欧州CL出場を狙える強豪PSVアイントホーフェンでもプレーしたが、これまで堂安は欧州CLとは無縁だった。
そんなさなかに舞い込んだのがフランクフルトとの契約だった。一度は手からするりと切符が落ちてあきらめかけた欧州CL出場が一転、可能となったのだ。
フランクフルトの前回の欧州CL出場は2022-2023シーズンだった。2021-2022シーズンのヨーロッパ・リーグで優勝し出場権を獲得した。トッテナム・ホットスパー、スポルティング・リスボン、オリンピック・マルセイユと同じグループDに入り、グループ2位で決勝トーナメントに進出。しかしSSCナポリ(イタリア)にホームとアウェイで完封負けを喫して、2試合合計0-5で敗れてベスト16止まりだった。
1959-1960シーズンのヨーロピアン・カップでは決勝に進出したが、レアル・マドリードに3-7で敗れ準優勝に終わった。
堂安が自身初出場となる欧州CLでどれだけ活躍できるか見ものだ。
W杯の快進撃を再び
結果として自身初のシーズン二桁得点を決め、他国からも大きなオファーが届いてもおかしくない状況だったが、もう一つの夢であるワールドカップで活躍するためにもドイツ国内でのステップアップを決断した堂安。
フランクフルトのフランスU21FWウーゴ・エキティケがリヴァプールFCに移籍したことにより、攻撃のポジションが一つ空いたことも大きかった。ワールドカップ目前に環境を変えて出場機会を減らすことは避けたいからだ。
2022年カタール・ワールドカップでは、グループステージのドイツ戦で0-1ビハインドの71分に途中出場すると75分に同点弾を決めて日本代表は2-1で逆転勝利。この大金星なくして日本の決勝トーナメント進出は、なし得なかっただろう。堂安はその快進撃の立役者となった。ワールドカップは、日本代表として立つ最高の舞台であるだけでなく、堂安にとっては特別な思い入れのある大会なのだ。
堂安は、日本代表がワールドカップを戦う上で、森保一監督が頭に思い描く様々なゲームプランを体現できる幅広い能力を備えた、なんとも頼もしいプレーヤーだ。
デビューしたての頃は、巧みなテクニックで攻撃を構築する華麗なプレーメーカーという印象があった堂安。しかし、フライブルクではウイングバックでピッチを激しく上下運動し泥臭く守備にいそしむという役目も努めた。トップ下、インサイドハーフ、ボランチ、ウイングに加えてウイングバック。生来の攻撃センスだけではなく守備もできるようになり、まさに中盤のオールラウンダーに成長した。
軽やかなテクニシャンのため一見してクールな天才肌のようだが、努力家で自分の能力の限界を押し広げてきた。ウイングバックまで下がったのだから、いざとなったらフルバック(サイドバック)でもプレーできるだろう。(下に記事が続きます)
元日本代表キャプテン長谷部誠コーチの存在
監督やクラブのフロントから必要とされていることを伝えられ、獲得に向けた熱意を感じたことも堂安がフランクフルト移籍に傾いた要因だ。巨額の移籍金もそれを裏付けている。
さらには、元日本代表キャプテンの長谷部誠が育成部門ながらフランクフルトのコーチングスタッフとして在籍していることも背中を押した。長谷部は、日本代表のコーチも兼任している。
堂安は攻撃的で長谷部は守備的とスタイルこそ異なるが、ともに中盤が主戦場だ。これは、専属の分析担当兼アドバイザーがクラブ内にいるようなもので、フランクフルトのことも日本代表のことも相談できる最高の環境が整った。
アイントラハト・フランクフルト 1899年創設。本拠地はドイツの金融や交通の中心地フランクフルト・アム・マインにあるヴァルトシュタディオン(58,000人収容)。過去には高原直泰、稲本潤一、乾貴士、鎌田大地、長谷部誠もプレー。
堂安 律(どうあん・りつ) ガンバ大阪ユースからトップチームに昇格すると16歳344日というクラブ史上2番目の若さでデビューした。18歳になるとオランダリーグ「エールディヴィジ」に渡りFCフローニンゲンとPSVアイントホーフェンで合計4シーズンに渡りプレー。その実績が認められて、UEFAランキング4位ドイツ・ブンデスリーガに移籍し、2025-2026シーズンはSCフライブルクでリーグ戦34試合に出場し10得点8アシスト。2025年夏に欧州CL出場権を獲得しているアイントラハト・フランクフルトに移籍。兄の堂安憂は、セレッソ大阪のアカデミー出身で、AC長野パルセイロなどでプレーした。
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