イタリア男子バレーボールのセリエAスーペルレガは後半6戦目を終え、上位5チームが勝ち点12差にひしめく白熱した戦いを繰り広げていている。その中で、クラブ創設わずか4年で「台風の目」として注目されているのがヴェローナ(正式名称:ラーナ・ヴェローナ)だ。現在レギュラーシーズンでは5位につけ、昨年12月29日に行われたコッパ・イタリアの準々決勝では同3位で2022-23シーズンにコッパを制した強豪ピアチェンツァを倒し、クラブ史上初のファイナル4入りを決めた。準決勝の相手は同1位で日本代表キャプテン石川祐希が所属するペルージャだ。
連載[上]となる本稿では注目のコッパ.・イタリア準決勝を前に、ヴェローナのクラブ創設から今に至るまでを紹介するとともに、チームをけん引する2人のアウトサイドヒッター、ノウモリ・ケイタとキャプテンのロク・モジッチへの独占インタビューをお届けする。(下に記事が続きます)
ゼロから3年で急成長、総合エンターテイメントを目指す
ヴェネツィアを州都とするヴェネト州の中都市・ヴェローナ。今も野外オペラやコンサートが行われる古代ローマ時代の円形劇場アレーナと、シェイクスピアの小説「ロミオとジュリエット」の舞台であることでも有名な世界遺産の街だ。そんなヴェローナが今、男子バレーボール界で注目を浴びている。
もともとヴェローナには2008年からスーペルレガに定着していたブルーバレー・ヴェローナがあった。2015-16シーズンには欧州CEVチャレンジカップで優勝するなどしたが、経済的問題を含む様々な要因で立ち行かなくなり、2021年に事業停止を決断。同クラブのスタッフ、ジャン・アンドレア・マルケージとファビオ・ヴェントゥーリのゼロから再スタートする強い意志と、今もクラブを支えるスイスの投資会社の出資により、同年5月27日に新生ヴェローナが誕生した。
ブルーバレーの権利を獲得して晴れてスーペルレガの一員になったが、「正式にスーペルレガに登録できたのは2021年の7月12日。選手はほぼ決まってはいたものの、それまでは誰とも正式な契約を交わせず、リスクをはらんだ船出でした」と、現在はゼネラル・マネジャーとなったマルケージは語る。
当時はまだコロナ禍という新事業を始めるには困難な時期であった。それでも、クラブはプロジェクトを強く推進していく。
前身クラブからブルガリアの闘将ストイチェフが監督を継続し、カリスマの名セッター・ブラジルのラファエルやスロヴェニアの逸材OHモジッチなどを獲得。レギュラーシーズン初年度はA2落ちが危ぶまれながらも9位で残留を決めた。
2年目以降はプレーオフに進出し、準々決勝でルーベやペルージャなどの強豪に敗れはしたものの、年々存在感を増している。そして4シーズン目の今季はクラブ史上初のコッパ・イタリア準決勝進出と、またひとつ大きな階段を上がったばかりだ。
スポンサー数は、4シーズンで30から100以上に増えた。何よりも今季からメインスポンサーであるRANAは、イタリアを代表する生パスタ・パスタソースメーカーだ。ヴェローナから試合に招待されて、一気にバレーボールのファンになったそうだ。かねてから面白いと評判のRANAのテレビCMに、クラブの選手やスタッフも特別出演するほど関係性は深い。
「地域全体を巻き込んだ、スポーツを超えた広い活動を行っています。試合はただのバレーボール観戦ではなく、音楽や照明も考慮した総合エンターテイメントを目指しているので、ホームの試合にぜひ足を運んでください!」と、マルケージの表情は充足感で満ちあふれていた。
最高到達点380㎝!スーペルレガで舞う「マリの鷲」
ヴェローナのクラブと同様に、世界最高峰と呼ばれるこのイタリアのバレーボールリーグで大旋風を巻き起こしているのが、マリ出身のOHノウモリ・ケイタ(23)だ。スーペルレガ後半の6試合を終えた時点で得点ランキング1位。375得点は、2位のアレッサンドロ・ミキエレット(トレンティーノ)に65点差をつけている。ケイタが2021-22シーズンに韓国リーグのプレーオフ決勝で57得点を叩き出したことは有名だが、それ以前の彼を知る人は少ないのではないだろうか。
ケイタは西アフリカ・マリ共和国の首都バマコ生まれ。幼い時から様々なスポーツに親しんだが、叔父の影響でバレーボールを選択し、なんと12歳でマリのシニアリーグでデビューを果たした。
バレーボールへの情熱は高まるばかり。将来はハイレベルな場所でプレーしたいと願っていた時、稀有な才能の噂を聞いたカタールのクラブからスカウトされ、14歳で家族や学業からも離れて単身海外修行へ。当時、身長はすでに2mを超えていたという。
韓国で2年プレー、一気に開花
カタールには当時、在籍クラブのシーズン終了後にフランス代表のヌガぺトやキューバ代表のシモン、ポーランド代表のレオンなどの有名選手が助っ人としてプレーしにきており、ノウモリ少年は世界トップ選手の彼らから多くのことを学び、いつしか彼らが在籍する欧州クラブ、特にイタリアでプレーすることを夢見るようになった。
その2年後にセルビアの2チームで1シーズンずつプレーした後、コロナ禍で試しに韓国リーグのドラフトにビデオを送ると、予期せぬ合格通知が舞い込んだ。ちなみにその前に、イタリアのルーベやミラノなどのオーデションも受けたのだが、年齢などの理由でイタリアリーグデビューは実現せず。しかし韓国での2年間の活躍は世界中に知れ渡り、数々のオファーが舞い込む。
そして2022年、選手の平均年齢が一番低く、またクラブのプロジェクトに感銘を受けたヴェローナへの移籍を決め、ついに夢だったスーペルレガのコートに立つこととなった。
「ぼくのモチベーションや目標は当初と何も変わってません。勝ちたい、チームで勝ちたい。ただそれだけ。目標の選手はレオンだったけど、今は違う。なぜなら、もうすぐ手の届くところまで到達したから、今は自分自身に目を向けている。レセプションとブロックはまだまだだけどね」と少しの自信をのぞかせ、改善点を同時に挙げた。
得点を決めた時に会場を大いに沸かせる鷲やペンギンのダンスは、対戦相手やそのファンを挑発していると揶揄されることもある。
「よく誤解されているけれど、あれは相手に対するものじゃなくて僕自身、そしてチームと喜びを分かち合うもの」と説明する。ちなみにペンギンは練習のバゲローネ(ペアを組んで2つのボールを使うミニゲーム)の敗戦選手をからかう時にやり出したもの。いっぽう鷲は、韓国時代にケイタのスバ抜けた跳躍力からファンが彼の愛称として使い、また観戦中に手をはばたかせたているのを真似たことがきっかけ。母国マリでもよく見る動物であることから、試合でも取り入れるようになったそうだ。
ソファーの背もたれにどっしりと身を沈め、インタビューではまだ思春期の少年のようにちょっとシャイで、あどけなさも感じさせるケイタ。しかしひとたび試合のコートに立つと、超人的なバネとパワーでブロックの上から強烈なスパイクを叩きつける。そんなギャップに、筆者はまたぐっと魅了された。
得点王の鮮烈デビュー、スーペルレガ最年少キャプテン
ヴェローナのもう一人の主力選手の一人、ロク・モジッチ(23)は、スロヴェニアの若きエースだ。元バレーボール選手で現在も指導者の父を持つ。2019年にトップカテゴリーデビューし、翌年にはナショナルチームA代表と、輝かしいキャリアを突き進んできた。
2021年のヴェローナのクラブ創設からのメンバーであるだけではなく、スーペルㇾガ1年目の20歳の時、オランダ代表のニミル(当時モデナ)、ポーランド代表のレオン(当時ペルージャ)を抑えて得点王を獲得した。その鮮烈デビューはまだ記憶に新しいだろう。激しい闘志と同時に、はちきれんばかりの笑顔でコートを駆け回るその姿は、筆者だけでなく多くのファンの心を虜にしている。
そんな彼も4シーズン目を迎え、母国語のようにイタリア語を流暢に話す。昨季からは引退したラファエルからキャプテンを継承した。若干21歳の外国人が世界最高峰のイタリアリーグでキャプテンを務めるとは、筆者の記憶が正しければ前例のないことだ。
「偉大なラファからキャプテンを引き継いだこと、そしてラド(ストイチェフ監督)がぼくを任命してくれたことを誇りに思うと同時に、大きな責任も感じています。特に昨シーズンは当初からけが人が多く難しいスタートだったのでプレッシャーもありましたが、その経験でさらに強くなれたと思っています」と、柔和な表情がキュッと引き締まり、こう続けた。
「ぼくの性格はもともとガンガン行くタイプですし、アウトサイドヒッターとしても、またリーダーとしてもチームを引っ張っていきたいです。日々成長できるように精進していますし、チームの結果が良くても、悪くても、特に悪い時はまず、ぼくがすべきだったことは何だったのかを考えています」と、謙虚さを忘れない。
「完成度の高い選手になりたい」
今季は前半の終盤にモンツァ戦に痛い敗戦を喫したものの4位で折り返し、目標のひとつだったコッパ・イタリアのファイナル4進出も達成した。後半の出だしは決して悪くなかったが、このインタビューの直近2試合は連敗。主力であったOHジャボロノクの負傷離脱が大きな痛手になっていることは確かだ。
若かりし頃のアイドルはレオン。しかし今はバレーボールも変化し、フィジカルやパワーだけでなくスピードや頭を使ったプレーが要求される。それについては日本代表、特に3年間スーペルレガでともにプレーした高橋藍(サントリーサンバーズ大阪)を例に挙げた。
「一年目はリベロ起用だったけれど、まずディフェンスがめちゃくちゃうまい。2年目からはテクニカルな攻撃にも翻弄されました。僕たち(スロヴェニア代表)は昨年の日本との試合に全部負けたほど、相性がとても悪いんです」とちょっと悔しそうにしながらも、「でもポーランドとは相性いいんですよ。各国チームカラーが違って、相性の良し悪しはありますよね」と付け加えた。
ヴェローナの課題は、レセプションとサーブ。どちらもミスさえしなければ、コッパ・イタリアのファイナル4はもとより、プレーオフでも上位進出は夢ではない。課題については「まずぼく自身がそれを示すこと。完成度の高い選手になりたい」と、どこまでも向上心が尽きない。若きリーダーの鏡そのもののモジッチであった。([下]に続く)
ペンスポニュースレター(無料)に登録ください
スポーツ特化型メディア“Pen&Sports”[ペンスポ]ではニュースレター(メルマガ)を発行しています。「へぇ」が詰まった独自ニュースとスポーツの風を届けます。下記のフォームにメールアドレスを記入して、ぜひ登録ください。
\ 感想をお寄せください /