2025年7月26日、東京・新宿コズミックセンターで、第3回全国車いすハンドボール大会Knockü(ノッキュー)カップが開催されました。車いすスポーツに初めて触れる人から、2024年の車いすハンドボール世界選手権に出場した日本代表選手まで、障がいの有無に関係なく全員が楽しめる大会となりました。
車いすスポーツに触れる機会を作る

2023年に始まったKnocküカップは、今年で3回目。一般社団法人Knockü(ノッキュー)が立ち上げた、車いすハンドボールの全国大会です。障がいのある人もない人も全員が楽しめて、互いに関わり合うきっかけを作りたいという、岡田美優代表理事の思いから始まりました。
午前中は車いすスポーツに初めて触れる子供たちに向けた体験会が開かれました。体験会の講師は、2024年車いすハンドボール日本代表の大西満監督。車いすの動かし方から丁寧に教えていました。(下に記事が続きます)
ビギナーズカップで親睦を深める


初心者や子供たちが参加するビギナーズカップ(4人制)には6チームが参加しました。個人で申し込んだチーム「ハンドボールファミリー」のなかには、モデルのヤハラリカさんの姿もありました。ビーチハンドボールのアンバサダーを務めるヤハラさんは、初めての車いすハンドボールでもいい動きをしていました。「GKならできる」と、長い腕を伸ばして好セーブ連発。ビギナーズカップ優勝に貢献しました。
ビギナーズカップのMVPには、Knockü千葉おにぎりの石塚秀冴君が選ばれています。積極的にゴールを狙うプレーで、会場を沸かせました。 (下に記事が続きます)
世界を見据えたチャレンジカップ
競技者によるチャレンジカップ(4人制)には、Knockü新宿から3チームと、大阪体育大学の計4チームがエントリーしました。世界選手権になるべく近い形で行うため、女子選手とローポインター(ハンデが重たい選手)を1人ずつ出場させるルールで行われました。各チームのメンバーと特徴を見ていきましょう。(★は、2024年9月の世界選手権=エジプト=に出場した日本代表選手)
Knockü Strangers(ストレンジャーズ)

- 古矢千尋★
- 伊藤優也★
- 小林寛明
- 諸岡晋之助★
- 吾妻龍冬
車いす日本代表のエースで、2024年世界選手権得点ランキング2位の諸岡の得点力が最大の武器。戦術理解に優れた女子のローポインター・古矢は、チームに足りない部分を補ってくれます。日本で一番のDF力を誇る伊藤が、得点力でも貢献できれば、チームのバランスが整います。健常者の吾妻はGK初挑戦とは思えないほど、シュートを阻止します。
Knockü WAVES(ウエーブス)

- 阿部武蔵
- 三枝啓孝
- 堀口誠史
- 森谷幸生★
- 大谷颯
GKとCPの二刀流・森谷が絶対的なチームの柱。積極的にチャレンジする姿勢で、味方を鼓舞します。ローポインターの阿部は、ほとんど動かない右手でもシュートを阻止するGK。大谷はローポインターでありながら、シュートに馬力があります。女子選手がいないため、第1セットは森谷が出場せずに、ローポインター2人で戦いました。
Knockü KINGS(キングス)

- 小貫怜央★
- 大和田洋平★
- 松本賢
- 永田裕幸★
- 山島花音
2016年リオデジャネイロ・パラリンピックで車いすバスケットボール日本代表だった永田は、「パラの手業師」と呼ばれるテクニシャン。左腕・小貫は規格外の爆肩を武器に、2023年の車いすソフトボール世界選手権でMVPに輝きました。ローポインターの大和田はGKだけでなく、CPでもつなぎ役として機能します。健常者の松本は、日本リーグの三景やドイツでプレーし、ビーチハンドボールでは監督も務めた「戦術眼」が強みです。
大阪体育大学

- 石川敏也
- 田中天晴
- 河名奏哲
- 金丸光里
普段は6人制で活動している大阪体育大学のメンバーが、4人制に初挑戦。試験期間中にもかかわらず、大阪から日帰りで参加してくれました。伝統的に役割分担がしっかりしていて、一番能力の高い選手をGKに置き、攻撃参加で数的優位を作るのが得意です。今回は石川がGKを務めながら、OFでもゲームをコントロールします。女子選手の金丸のシュート力も見ものです。
大阪体育大学のアジャスト能力

チャレンジカップの順位は以下のとおりでした。
- 1位:キングス
- 2位:ストレンジャーズ
- 3位:大阪体育大学
- 4位:ウエーブス
初参加で初の4人制だった大体大の健闘が光りました。午前中の予選第1試合では、慣れないボールと微妙に違うルールに苦しんでいましたが、2試合目あたりから順応し、360度一回転するスペクタクルシュート(2点シュート)も打てるようになっていました。河名は「6人制は役割分担をするけど、4人制は一体攻撃というか、ゲームメイクもシュートもスクリーンプレーも、すべてが求められます。スペクタクルシュートはやったことがなかったけど、挑戦してみました」と言っていました。大体大と対戦した諸岡も「大体大は4人制にすぐにアジャストできていた。こういうアジャストする能力がとても大事なんですよ」と絶賛していました。
いろいろな競技にアジャストする。国際大会のルールや突発的な出来事にもアジャストする。監督、コーチの戦術にアジャストする。車いすスポーツだけに限らず、世界で戦うのであれば、このアジャストする能力が非常に重要になってきます。車いすハンド日本代表でも「アジャスト」はキーワードのひとつです。
【チャレンジカップ3位決定戦】第3回全国車いすハンドボール大会 Knockuカップ
優勝はKnocküキングス

優勝したキングスは、準決勝、決勝ともに3セット目までもつれる接戦を制しました。GKの大和田、松本が攻撃参加して、常にOFでは4対3の数的優位を作っていました。GKの戻りが遅れた場面でも、永田や小貫がゴールに入って、ピンチをしのぎました。GKでも活躍した永田は「個々人の成長が示せた大会かな」と言っていました。2026年の世界選手権(インド・ラクナウ)を見据えて、Knocküで練習を増やしてきた成果が、試合にも表れました。
【チャレンジカップ決勝】第3回全国車いすハンドボール大会 Knockuカップ – YouTube
新たな得点パターンを作り上げた

GKで好セーブを連発しながら、チーム全体をコントロールした松本はこう言います。「ビーチハンドみたいに、いずれ車いすハンドも攻撃参加が当たり前になるから、メンバーには『4対3で攻めていこう』と伝えました。GKができる大和田さんが盛岡から来てくれたのが大きかったですね。永田さんも『GKをやってみたい』と言って練習していましたし、みんなのよさが出た大会でした。諸岡、森谷の両得点源がいないチームが優勝したことに、大きな意味があると思います」
2024年の世界選手権で8カ国中5位になった日本は、諸岡、森谷の2枚看板に得点が偏っているのが課題でした。2人以外の得点を増やしていければ、金メダルも夢ではありません。左の剛腕・小貫のシュート力だけでなく、永田の細かいテクニック、大和田のつなぎの上手さなども生かしながら接戦を制した経験は、来年の世界選手権につながるでしょう。(下に記事が続きます)
MVPは小貫怜央

大会のMVPには、キングスの小貫が選ばれました。「シュートを外した場面もあったけど、節目は押さえられたかな。車いすハンドボールにもなじんできた感じです」と小貫は言います。2024年の世界選手権では「(小貫)怜央に打たせるフォーメーション」で打たせてもらっていましたが、今回は連続攻撃のなかで「判断しながら打てていた」と、手応えを感じているようです。
ソフトボール仕込みの豪速球ですべてを解決するのではなく、ハンドボールらしい駆け引きを覚えていけば、小貫の左肩は世界の脅威になるはず。小貫は「車いすソフトだと、僕が投げることで失点を防ぐけど、車いすハンドだと投げて得点が入る。この違いがおもしろい」と、2つの競技の違いを語っていました。車いすソフトボールと車いすハンドボールの両方で、小貫が世界MVPに輝く日が来るかもしれません。(下に記事が続きます)
競技レベルの向上

今大会を総括して、Knocküの岡田代表理事は「競技レベルがこれまでにないくらいに上がって、ハイレベルな試合の連続でした。初めて参加してくれた大阪体育大学には感謝したいですね。これからも色んな大学のチームに声をかけて、大会をレベルアップさせていきたいです」と、充実した表情でした。接戦を数多く経験することは、車いすハンドボール日本代表の強化にもつながります。健常者の速いシュートを経験しておけば、世界のトップ級のシュートにも十分対応できます。(下に記事が続きます)
代表メンバー個々の成長

また今大会では、2024年の世界選手権を経験した選手に、さらなる成長が見られました。エースの諸岡は得点力だけでなく、アシストにも磨きをかけていました。前回の世界選手権で出番が少なかった伊藤は、課題だったシュート力が向上し、使い勝手がよくなりました。ローポインターの永田はGKにチャレンジし、小貫は勝負の責任を背負う経験を積みました。古矢だけに頼り切りな女子選手で、新たな選手を発掘できれば、金メダル獲得が現実味を帯びてきます。
第3回のKnockü カップは、2026年の世界選手権につながる、とてもいい大会になりました。

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