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【バレーボール】石川真佑のノヴァーラって?監督は?町の見どころまで徹底ガイド

トップススポンサーColinesの創業者で、技術委員会のメンバーでもあるぺッチェッティ氏も石川を絶賛=2024年10月13日ピネローロ戦後、中山写す
トップススポンサーColinesの創業者・ぺッチェッティ氏と石川(左上)ホームアリーナ、パラ・イーゴル(左下)チームのマスコット(右上)ロレンツォ・ベルナルディ監督=2024年10月、いずれも中山写す
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バレーボール女子日本代表の石川真佑(24)がイタリアリーグ2季目を迎えるのは、北部ピエモンテ州にある中都市に本拠を置くノヴァーラだ。ノヴァーラは日本ではほとんどなじみのない都市であるが、女子バレーボールクラブは創部から40年の歴史を持つ。セリエAに定着してからの約10年は目覚ましい成長を遂げ、現在は4強に名を連ねる。イタリア代表としてアトランタ五輪銀メダル、世界選手権連覇(1990年、1994年)など選手としても、ペルージャやピアチェンツァを率いた男子クラブ監督としても成功を収めたロレンツォ・ベルナルディ監督(56)は、石川と同じく女子の監督としては2季目を迎えたばかりだ。本稿では、監督インタビューや今季のメンバー紹介に加え、観戦旅行に役立つ町の見どころや地元グルメなどを解説する。

目次

創部40周年、スポンサー数は約80

ノヴァーラのホームアリーナ、パラ・イーゴル=中山写す
ノヴァーラのホームアリーナ、パラ・イーゴル=中山写す
ノヴァーラのマスコットはスポンサー・イゴールのゴルゴンゾーラと水田に多く発生するザンザーラ(蚊)=中山写す
スポンサー・イーゴルのゴルゴンゾーラと水田に多く発生するザンザーラ(蚊)がチームのマスコット=中山写す

ノヴァーラは2006年に冬季オリンピックが開催された州都トリノから西へ電車で約70分、イタリア第2の都市・ミラノヘは東に約40分と2つの州都に挟まれた州境の町だ。フィレンツェと比べると小さく観光客もほとんどいないが、町の守護聖人を祀るサン・ガウデンツィオ大聖堂の高くそびえるクーポラや、柱廊が連なる町並みはとても美しい。

女子バレーボールクラブの創部は1984年。社名AGIL VolleyのAGILは、イタリア語のAmicizia(友情)、Gioia(喜び)、 Impegno(熱意)、 Lealtà( 忠誠)の頭文字をとったものだ。2009年~11年までは元日本代表監督の中田久美さんもアシスタントコーチとして所属したことがある。その後にも日本代表選手が入団寸前で白紙に戻ったことはほとんど知られていないが、石川の前に日本とのつながりがなかったわけではない。

セリエAに定着した2013-14シーズンからはスクデットを1回、スーペルコッパを3回、コッパ・イタリアを1回制し、近年はコネリアーノ、ミラノ、スカンディッチとともに4強の一角に定着している。ノヴァーラのトップスポンサーは、特産チーズ・ゴルゴンゾーラの有名メーカーであるイーゴルだ。この他にもトップスポンサーからフレンズスポンサーまで、約80社がチームを支えている。

驚くべきは、ピエモンテ州の女子バレーボールクラブの多さだ。昨季はノヴァーラと競り合ったキエーリ、ピネローロ、クーネオとセリエAの14チーム中4チームが存在し、それぞれトップカテゴリーで運営できるだけのスポンサーを有している。この地域がいかに女子バレーとの結びつきが強いかがわかる。

ノヴァ―ラのホームアリーナは町の中心から3キロほど離れたPala Igo(パラ・イーゴル)。残念ながら公共交通機関はないに等しい。徒歩35分ほどで行くこともできるが、特に夜は治安面も不安なのでタクシーを使うことをお勧めする。

今季のノヴァーラは「新たな刺激を入れるためメンバーを若返らせ、新サイクルのスタートにする」ため、五輪優勝メンバーのダネージとボセッティ、元代表キャプテンであったキリケッラのイタリア人主力3選手を放出した。その空いたポジションを埋めるべく、クラブ代表とゼネラルマネジャー、トップスポンサー2社の代表4人からなる技術委員会と監督とで新メンバーを検討し、石川に白羽の矢を立てた。

ベルナルディ監督「マユはバレーボールをよく知っている」

ロレンツォ・ベルナルディ監督。イタリア男子黄金期のエースであり、監督としても輝かしいキャリアを誇る=中山写す
ロレンツォ・ベルナルディ監督。イタリア男子黄金期のエースであり、監督としても輝かしいキャリアを誇る=中山写す

現在ノヴァ―ラの監督を務めるロレンツォ・ベルナルディは、25年の現役生活でイタリアリーグのスクデット9回、世界選手権2連覇(1990年、1994年)や欧州選手権の3度の優勝を経て、FIVB(国際バレーボール協会)から20世紀の最優秀選手賞も受賞した名プレーヤーだった。監督としても2017-18シーズンにペルージャでスクデット・コッパ・スーペルコッパの3冠を達成したが、2023-24年シーズンより女子クラブへ転向。リーグ戦でノヴァーラを4位に、アシスタントコーチとして今夏のパリ五輪でイタリア代表を金メダルへと導いた。

ベルナルディ監督は、「背は低くパワーで押すタイプではないが、それを自覚した上で自分の才能を最大限に生かすことを知っている」と、フィレンツェでプレーしている時から石川に注目していた。石川の話が始まった時に開口一番に発した言葉は、「本当にバレーボールをよく知っている」だった。

これは、フィレンツェ時代にパリージ監督が石川を励ます時に何度も何度も繰り返した言葉でもある。プロ選手なら誰もがバレーボールを知っていると思いがちだが、プレーができるだけではバレーボールを知っていることにはならない。バレーボールという競技のすべてを理解し、それを実際に体現できる選手だけが与えられる最大の褒め言葉なのだろう。それが石川の一番の強みでもある。

テクニカルな石川、攻撃力の高いトロク(ロシア)、両方を兼ね備えるアルスマイヤー(ドイツ)など、バランスの取れたチームに仕上がったノヴァーラ。しかし昨季の大砲であったオポジットのアキモヴァ(ロシア)は肩の手術からの復帰が2月にずれ込み、同じくスタメンだったミドルブロッカーのボニファーチョやリベロのフェルシーノの復帰も遅れ、チームとしては苦しい開幕だった。

石川「監督、よくアドバイスくれる」

2024年10月13日のホーム開幕試合・ピネローロ戦でのタイムアウトの様子=写真提供:Igor Gorgonzola Novara
2024年10月13日のホーム開幕試合・ピネローロ戦でのタイムアウトの様子=写真提供:Igor Gorgonzola Novara

「僕は遠い先のことに目標を置くタイプの監督ではない。1日1日の練習の積み重ねが大事」と、監督は決して大風呂敷は広げない。昨季までスクデット6連覇のコネリアーノを始め、14チームが群雄割拠であるイタリア女子リーグを制するのはたやすいことではないことを、誰よりも理解しているのだろう。

「男子に比べ、発展する余地がまだ多い」ことに加え、自分自身への挑戦として女子クラブ監督に転向したというベルナルディ監督。男子と女子とではメンタリティや接し方が異なるが、「外国人選手がイタリアで生活しプレーする数々の困難は理解している。マユ(石川)が内気なのは知っているが、必要なことすべてに対応する体制を整えているので、必ず乗り越えてくれると思う」と理解と気配りを見せる。

実際に石川も「監督は一つひとつのプレーに対してよくアドバイスをくれるので、私ももっとコミュニケーションを取れるようになりたい」とインタビューで語った。昨季以上に監督との距離も近くなりそうだ。

アリーナ4000席、4割がシーズンパス

笑顔でインタビューに答えてくれた地元ファン、アレッサンドロ(左)とモニカ=2014年10月12日練習見学にて中山写す
地元ファン、アレッサンドロ(左)とモニカ=2024年10月12日、中山写す
石川を待つファンが後を絶たない=2024年10月13日ピネローロ戦後、中山写す
試合後に石川を待つファン=2024年10月13日、中山写す

ベルナルディ監督とのインタビューが終わり、石川との再会のあいさつも交わしてビデオミーティングを挟んだ後、試合前日のボール練習が始まった。ノヴァーラでは練習一般公開を頻繁に行っており、アリーナの観客席には、日本から応援に来たと思われる2人と、10人ほどの地元ファンらしき人がいる。その中でも熱心にコートを見つけていたカップルに声をかけてみた。

よく練習見学に来るんですか?の問いに、「はい、彼女がハマっちゃって」と答える男性。それを聞いて「昨季に何試合か観戦に来たんですけど、面白くて今季はシーズンパスを買いました。いままさに座ってるのが私たちの席なんです」と嬉しそうに答える女性。アレッサンドロとモニカはノヴァーラ出身ではないが、今やノヴァーラの女子バレーに夢中だ。彼ら2人に加え、今季のシーズンパスを購入した人は1517人。アリーナの総座席数4000のうち、すでに約40%がシーズンパスで売り切れていることになる。とんでもない数字だ。

今季は誰に一番注目している?と聞くと、すぐに「マユ(石川)よ!」と即答するモニカ。素晴らしい選手ばかりだが「マユはただ上手いだけじゃない。彼女のプレーには目を奪われ、目が離せなくなってしまうの。特にサーブへの入り方は独特で大好きだわ」とその理由を語ってくれた。

翌日のホーム開幕試合であるピネローロ戦が終わった後も、メインスポンサー Colinesの創業者で技術委員会のメンバーでもあるぺッチェッティ氏が石川のそばに駆け寄り、筆者に向かって「今季一番の収穫は彼女が加入したことだよ!」と石川を称えた。それからは他のスポンサー、試合サポートスタッフの女子学生たち、一般ファンに囲まれ、なかなかロッカールームに戻ることができない石川。しかし笑顔を絶やさず、最後の1人までファンに応じていた。

美しい町でゴルゴンゾーラチーズを

ノヴァーラの美しい町並み。観光客はほとんどいないのでイタリアの日常生活の様子も感じられる=中山写す
ノヴァーラの美しい町並み=中山写す
ノヴァーラのシンボル、サン・ガウデンツィオ大聖堂のクーポラへはツアーで上ることができる=中山写す
ノヴァーラのシンボル、サン・ガウデンツィオ大聖堂=中山写す

ミラノやトリノからアクセスが良いとはいえ、ノヴァーラまで来たのならすぐに移動せずに観光も楽しんでいただきたい。前述のようにノヴァーラは練習の一般公開も頻繁に行っており、前週には公式SNSで見学可能な日時が告知されるが、試合観戦に訪れる人であれば前日の練習見学が最適だろう。練習は午後が多いため、その前の午前、または試合翌日の午前に観光するのをお勧めする。観光客はほとんどいないのでイタリアの日常生活の様子が感じられる。

ノヴァーラ観光の目玉は、なんといってもサン・ガウデンツィオ大聖堂だ。1500年代後半に建設されたノヴァーラの守護聖人を祀る大聖堂だが、有名なのはこの縦に高く伸びるクーポラ(丸屋根)。トリノのシンボルでもあるモーレ・アントネッリアーナを設計した建築家、アレッサンドロ・アントネッリの設計で、1841年~78年までの37年をかけて完成した。

クーポラへはツアーで上ることができる=中山写す
クーポラへはツアーで上ることができる=中山写す
クーポラから街並みを一望
クーポラから街並みを一望=中山写す

筆者が2007年にノヴァーラを訪れた時は大聖堂しか入らなかったのだが、今回はこのクーポラの頂上まで上ることができるガイド付きツアーに参加してみた。その歴史を知るだけでなく、クーポラ内部の構造を間近に見たり、100mの高さから町を取り囲むアルプスや遠くミラノのビル群までの素晴らしいパノラマを堪能した(申し込みは Kalata! 2種類のツアー。冬期は12月8日まで、シーズンにより開催日時が異なる。英語対応可)。

前菜の盛り合わせ。地元の名産品ゴルゴンゾーラや郷土サラミであるドゥ-ヤ、フィディギーナは必須=中山写す
前菜の盛り合わせ。地元の名産品ゴルゴンゾーラや郷土サラミであるドゥ-ヤ、フィディギーナは必須=中山写す
カンポレッリでは袋詰めから缶詰、箱詰めまで、滞在中のおやつやお土産にぴったりのものが必ず見つかる=中山写す
カンポレッリでは袋詰めから缶詰、箱詰めまで、滞在中のおやつやお土産にぴったりのものが必ず見つかる=中山写す

イタリア旅行の楽しみの一つは、やはりバリエーション豊かな郷土料理だ。ノヴァーラの特産品であるゴルゴンゾーラと米を使った料理はやはり食べてみたい。野菜、豆と米を煮込んだ Paniscia(パニーシャ)や、Risotto alla gorgonzola(ゴルゴンゾーラのリゾット)、またサラミではラードで熟成されたDuje(ドゥーヤ)や豚のレバーのモルタデッラ Fidighina (フィディギーナ)などがある。お土産は1852年創業の老舗菓子店 Pasticceria Camporelli (パスティッチェリーア・カンポレッリ)へ。名物のビスケットやマロングラッセ入りのスポンジケーキ、美しい缶入りの詰め合わせなど、多彩な品ぞろえから選ぶのも楽しい。

ノヴァーラの旧市街は駅からすぐ。半日あれば徒歩で十分に周ることができるので、ぜひ町の散策も楽しんでほしい。

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