イタリア女子バレーボール・セリエAの第9節、無敗で首位を独走するコネリアーノ(正式名:Prosecco DOC Imoco Conegliano=プロセッコ・ドック・イモコ・コネリアーノ )と2位のミラノ(正式名:Numia Vero Volley Milano=ヌミア・ヴェーロ・バレー・ミラノ)との試合は2024年11月22日、ミラノ郊外の大型アリーナ、ウニポル・フォルムで開催された。注目のカードは1万人を超す観客だった昨季をさらに上回る12,2626人を動員し、イタリア女子レギュラーシーズンの新記録を達成。しかもそのビックゲームには、今季イタリアで海外初挑戦中の2人のパリ五輪日本代表、セッターの関菜々巳(25)とリベロの福留慧美(27)の姿があった。試合後、アリーナのカフェにて2人にインタビューを行った。今回の記事ではコネリアーノの関に焦点を当てる。
関 菜々巳(せき・ななみ)1999年6月12日、千葉県生まれ。姉の影響で小学校2年生からバレーボールを始める。柏井高に入学当初はアタッカーだったがセッターに転向。2016年アジア選手権(U-19)で日本代表に選出、翌年の日本ジュニアオールスタードリームマッチではキャプテンを務めるなど頭角を現す。大学には進学せず2017年に東レアローズに入団し、7シーズンに渡ってプレーした。2018-19シーズンに最優秀新人賞とベスト6を受賞、2020-21シーズンは全試合出場で全勝優勝に貢献。2021年より日本代表、パリ五輪にも出場した。2024-25シーズンから自身海外初挑戦、世界最強クラブであるコネリアーノへ加入。パリ五輪で銅メダルを獲得したブラジル代表のアウトサイドヒッター(OH)ガビや、金メダルを獲得したイタリア代表のリベロ(L)デ・ジェンナーロ、ミドルブロッカー(MD)のファールなどが在籍。身長171cm。
スクデット6連覇中、2023-24シーズン4冠達成
コネリアーノは水の都ヴェネツィアから北へ約60キロ、プロセッコというブドウの品種を栽培し、同名のスパークリングワインの一大生産地である。その美しい景観は2019年に世界文化遺産にも指定され、プロセッコは同じ『世界三大スパークリングワイン』であるシャンパーニュやカヴァを抜き、世界で一番売れているスパークリングワインだ。そんなプロセッコの名を冠し、スパークリングワインとともにコネリアーノを世界に知らしめる存在が女子バレーボールチームである。
創部は2012年。12年の間に、2016年から通算でスクデット(リーグ優勝)7回、コッパイタリア6回、スーペルコッパ8回、欧州チャンピオンズリーグ2回、世界クラブ選手権2回を制し、2023-24シーズンは4冠を達成した名実ともに世界最強のクラブだ。
メンバーが入れ替わっても勝ち続けるのがコネリアーノのすごいところ。昨季からはアメリカ代表のプラナーやクックが抜けたものの、今季はブラジル代表キャプテンのガビと中国のカリスマ・シュテイを獲得し、他にもパリ五輪で金メダルを獲得したイタリア代表ファールやルビアン、そして最優秀リベロにも輝いたデ・ジェンナーロ、またミラノのエゴヌと並んで世界最強オポジットとも称されるスウェーデン代表のハークが在籍する。
「あのコネリアーノから私に声がかかるなんて」と、福留同様に強豪チームからのオファーに関自身も驚きを隠せなかったと言う。(下に記事が続きます)
人格者ガビ、お世話になりっぱなしのモキ
試合が終わり、先に着替え終わった関と福留を待っている時にチームメートとの関係を聞いていると、ちょうど近くをガビが通った。試合終了からは1時間近く経ち、コート撤収作業も終わりかけているというのに、ガビのサインや写真を求めるファンがいまだに残っていた。さすがにもうロッカールームに向かうのかと思いきや、二階席からラブコールを送るファンのもとに駆け寄って最後の最後まで対応していた。
「ガビはすごい人格者です。選手として立派な人はみんな人としても立派」と、関も唸る人柄だ。
そのすごい人のもう1人が、チーム最年長でリベロであるデ・ジェンナーロだ。関がチャンピオンズリーグのMaritza Plovdiv戦でMVPを受賞した時のこと。英語でのインタビューに詰まって言葉が出てこない関を見て、ジェンナーロがさっと横に並び、代わりにペラペラとしゃべり出したのだ。英語力のない筆者は内容については分からなかったものの、しゃべり終わったら関を連れて颯爽と去っていったデ・ジェンナーロの姿に惚れてしまった。
「あのインタビューもそうですけど、モキ(デ・ジェンナーロの愛称)にはコートでもコート外でもなにからなにまでお世話になりっぱなしです」と関は話していたが、当のデ・ジェンナーロは「受賞で感激している中で英語のインタビューは簡単じゃないから、ちょっと助け船を出しただけ。海外挑戦1年目で大変なのにセナはすごく頑張っていて、本当に素晴らしい。助けるのは当たり前だし、これからも喜んでサポートするわ」と試合後のコメントで答えた。
「好きにしていい」自由で気が楽
イタリア生活について聞いてみると、「毎日がめちゃくちゃ楽しいです、ほんっとに楽しいです」と開口一番に答えた後、
「私のことを誰も知らないから……日本だといつも『真面目だよね』と言われて、自分でも無意識に『真面目でいないといけない』みたいになっちゃって、窮屈だったんです」と告白した。
だからここでは好きにしていい、イタリアはみな自由で気が楽だと言う。チームメンバーのグループチャットでは、「私は今日ここに行くけど、行きたい人いない?」、「だれか夜ご飯行こう」とお誘いのメッセージが流れてくるので、行く行く!とほとんどの誘いにのる。日本だったら個人間で決めてから「だれ誘う?」みたいになるが、ここではみんなを誘うオープンさが大好きだそうだ。
スポンサーが160もあるため、オフの日にもイベントが入れられたり、スポンサーと食事が入ったりすることも多い。そこでもらった招待券でまたチームの有志で遊びに行ったりと、関のインスタグラムを見ていても本当に毎日楽しそうにしているのがよく分かる。
驚いたのは、イベントによってはジャージーじゃなく私服のセクシーなドレスで参加すること。2019年から作成しているカレンダー撮影も体験したが、その衣装やメイクもゴージャスで日本との違いを痛感したそうだ。
名将・サンタレッリ監督と選手、一体感
チームを率いるのは、ダニエーレ・サンタレッリ監督。セルビアやトルコなど、就任した代表チームを世界で勝たせてきた名将について、関は「すごい感情を出すので自分は委縮してしまうのではないか」と心配していたそうだ。
しかし、関の獲得を熱望したのは他ならぬサンタレッリ監督だ。関の海外移籍希望をクラブの担当者から聞き、「30分もかからないうちに『獲得してくれ』とお願いしました。プロの模範のような素晴らしい選手で、高いレベルを保ちながらチームを回すためにとても重要な選手です」と試合後のインタビューで話した。
日本では、やはり監督は上、選手はそれについていく、という感覚がある。しかしイタリアでは、監督としての立場はありつつも、選手とは距離がとても近く、共に戦っているという感じだと関は語る。ある時、サンタレッリ監督が関の頬を両手で包み込んで話をしていた。そんな筆者の印象にも強く残っているシーンについて聞くと「日本ではあり得ないですよね」と笑い、「向こうがわ~って手を広げて来ても、拒否してるわけではないんだけど反射的にタッチするために胸の前で両手を出してしまうんです」と、スキンシップにはまだ戸惑うことも多いそうだ。(下に記事が続きます)
「今そこに上げるの?」世界一セッターから刺激
バレーボールだけでなく、人間として視野も広げたいと海外を意識しだした2022-23シーズンに、思いがけずトルコからオファーがきた。まだ何も準備できていないままで行ってもダメだ、と断ったが、翌シーズンには所属していた東レに海外移籍希望を伝えた。
コネリアーノからオファーが来た時はうれしかったと同時に、世界一セッターと名高いヴォウォシュ (ポーランド代表、コネリアーノのキャプテン)もいるため、出場機会がないのではないかと心配もした。しかしエージェントからチャンピオンズなど試合数が多いので出場機会はあるだろう、毎日の練習で得ることも多いだろう、いう意見を聞き、コネリアーノ移籍を決断した。
実際、世界の一流選手ばかりのチームは練習からレベルが高い。「今そこに上げるの? そんな上げ方をするの? って、アーシャ(ヴォウォシュの愛称)からは毎日刺激を受けています。セットを目がける場所も違うし、クイックの高さも違う。すごいハイセットを好む選手がいて、そこまでボールを飛ばすのが大変」と、必死の毎日の繰り返しだ。
しかし多くの試合ではサーバーとして入ったり、二枚替えで入ったり、時にはスタメンで出たり。前述のチャンピオンズリーグ、そしてレギュラーシーズンでもクーネオ戦でMVPを獲得し、世界クラブ選手権でもエースを4本決めるなど、着実に力をつけてきている。今はただ多くの出場機会を得て、出たら結果を残すことに全力を注ぐ。
「自分が成長できているか、日本に帰った時にそれを感じられるかどうかが怖い」と不安そうにしながらも、「こっちでは選手同士の上下関係がなく、とてもフランク。それに慣れちゃったので、そういう意味でももう日本に帰れないかもしれない」と笑う。
海外では何よりも「外国人選手の強いメンタルを見たかった」と言う関だが、イタリアでの3か月で、強いメンタルを早くも身につけつつある。「真面目な私でなくていい」と吹っ切れたように、コネリアーノになじみ、地場のスパークリングワイン「プロセッコ」のようにきらめき、弾け、愛されている。
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