「このパリ五輪が日本を率いる最後の試合になる」。ーー”This (Paris Olympics) is my last competition with Japan.”。
バレーボール男子日本代表のフィリップ・ブラン監督(64)は2024年7月10日、都内で行なわれた記者会見の囲み取材で共同通信のカメラを前に改めて語った。
ブラン監督は2017年に来日。中垣内祐一監督体制のコーチ時代を含めて、日本を率いて8シーズン目になる。パリ五輪後の2024年8月からは日本を離れ、韓国・天安市に本拠を置くクラブチーム・現代(ヒョンデ)キャピタルの監督に就くことが、今年2月に発表されている。
世界ランキング15位前後で低迷していた日本を、日本選手にフィットする指導力で世界ランク2位まで押し上げた。パリ五輪では52年ぶりのメダルが期待できるチーム作りを進めた功労者だ。ただ、ブラン監督の発言には日本への「未練」がありありとにじむ。
「日本は提案の準備ができていなかった」
ブラン監督は「何といえばいいのか…」と言葉を選びながら、訥々と語りだした。(該当の発言は上記映像の21分20秒前後から)。「昨年12月から今年1月ごろ、私が次の契約について気持ちを固めなければならなかった時期に、日本は私に対して次(パリ五輪後)に向けた提案の準備ができていなかった。ですから、私はそれ以外の選択をしなければならなかった」
この本人の発言から、もしも日本バレーボール協会(JVA)がパリ五輪後も「続投」のオファーをその時期に出していたら、ブラン監督は受けるつもりだったことが想像できる。だが、日本協会はそれをしなかった。
パリ五輪予選(OQT)でブラン監督が日本男子バレーを北京大会以来16年ぶりの五輪切符獲得に導いたのが2023年10月。その3カ月前にはネーションズリーグ(VNL)2023で堂々の銅メダル。世界大会では46年ぶりの表彰台に導いている。(下に記事が続きます)
遅きに失した日本
男子日本代表を世界のトップチームの仲間入りをさせたブラン監督の「評価」と「価値」は高騰した。パリ五輪後の日本代表の育成プランが明確で、監督のリストアップ、人選が進み、はっきりと「ブラン監督はパリ五輪まで」と決めていたならわかる。だが、日本の男子バレーをここまで復権させたブラン氏のほかに、適任者がいるだろうか。
ブラン監督本人いわく「日本は私に対して次(パリ五輪後)に向けた提案の準備ができていなかった」ということはずばり、日本が遅きに失したということだ。
ブラン監督がパリ五輪後のキャリアを見据えた今年1月ごろ、日本が続投のオファーを出すかどうか煮え切らなかったため、韓国の現代(ヒョンデ)キャピタルに先を越されたのが実情だろう。
ブラン監督の場合は、母国でのパリ五輪まで、しっかり日本代表を率いるからまだましだ。
ハンドボール男子日本代表の前監督、ダグル・シグルドソン氏は同じく、日本代表をパリ五輪の自力出場に導いたが、日本協会から続投の要請がなかったことが影響して、パリ五輪までの契約を一方的に破棄して電撃辞任。現在はクロアチア代表監督に鞍替えして、パリ五輪に臨む。(下に記事が続きます)
元フランス代表、ソウル五輪に出場
ブラン監督は1960年、フランス南部の学園都市、モンペリエ生まれ。フランス代表のアウトサイドヒッターとして1988年ソウル五輪や世界選手権などで活躍し、1991年に引退した。2001年に母国フランス代表監督に就任し、翌年の世界選手権で3位に導いた。その後2013年から2016年までポーランド代表のアシスタントコーチを務めるなど、バレーボール指導者としてグローバルな経歴を持つ。
日本男子が出場を逃したリオデジャネイロ五輪翌年の2017年に日本代表コーチに就任した。2021年からは日系アメリカ人のゲーリー・サトウ氏を除いて初となる外国人監督の座に就いた。日本代表の監督を受けた理由については「情熱を傾けられるかどうかを基準にしてこの仕事を選んだ」と語っていたブラン氏。「日本はもともとディフェンスは優れているが、ディフェンスでは直接得点できない」が口癖だ。相手を崩す強いサーブやトランジッションアタック(ラリー中の攻撃)の質を追及するバレーを日本代表に浸透させた。
選手との対話を重視し、試合が終わるたびにひとり一人と振り返る。特に「完璧主義者」のセッター関田誠大(ジェイテクト)には「私はいいパフォーマンスだと評価しても、彼は自分ができなかったことを考えるタイプ。プレッシャーを背負い込むのはいい状態じゃないから、もう少し肩の力を抜いていい」と寄り添ってきた。
7月10日の記者会見ではキャプテンの石川祐希(ペルージャ)から「チームで金メダルという目標を立てた」と、ミュンヘン大会以来となる52年ぶりの金メダル宣言も飛び出した。自分たちを育ててくれたブラン監督に最高の「花道」を用意する決意表明でもある。
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