世界水泳選手権第8日(2023年7月21日、福岡県立総合プール)で男子高飛び込みの玉井陸斗選手(JSS宝塚)がパリ五輪代表に内定しました。この時点でパリ五輪の内定者はサーフィン、柔道、水泳の3競技から9人となり、16歳の玉井選手は、10代のパリ五輪内定者第1号となりました。
東京五輪7位、2022年世界選手権は銀
玉井陸斗選手は2021年東京五輪に14歳で出場、日本勢21年ぶりの決勝進出を果たして7位入賞。2022年の世界水泳(ブダペスト)では、この種目で日本勢初のメダルとなる銀メダルを獲得している超逸材です。
今回の世界水泳でも玉井選手は当然メダル候補でしたが、決勝進出を決めてパリ五輪内定を獲得しても「悔し涙」が止まらない状況でした。試合3日前にもともと不安を抱えていた腰痛が再発し、その痛みをこらえながらのベストとはほど遠い演技となってしまったからです。
試合前は金メダル宣言をしていただけに、腰を気にしながらの演技で準決勝7位での決勝進出は納得がいかなかったのでしょう。2023年7月22日付の新聞各紙やネットニュースには玉井選手が「(五輪内定に)ホッとしたのと、腰が痛すぎる」というコメントとともに、涙を流す写真が掲載されています。22日の決勝は1本目を終えた時点で途中棄権しました。「決勝で演技を実施して資格条件を満たした」としてパリ五輪の内定は確定済みです。
入水速度は時速65㌔=身体への負担1トン
高さ10メートルに固定された踏切板から跳躍する水泳・高飛び込みの入水速度は時速65キロに達します。踏切りから入水までの時間はわずか2秒弱。着水時の人体への負荷は約1トンと言われるだけに、飛び込み選手は腰や肩に負担がかかり、爆弾を抱えながら競技を続けている選手が多いのです。
満身創痍の玉井選手の準決勝は3本目、4本目で連続ミス。5本目を終えて11位に順位を下げ、12位までの決勝進出(パリ五輪内定)を逃す可能性もちらつきました。しかし最終6本目は大技の「後ろ宙返り2回半2回半ひねりえび型」をノースプラッシュで決め、7位浮上でパリ行きを決めました。
毎日新聞水泳担当記者「高さ10m、常人なら体震える」
私の友人で現場で玉井選手を取材した毎日新聞運動部水泳担当の鈴木悟記者と、彼の演技についてFacebookでやり取りしました。この日の毎日新聞朝刊スポーツ面トップを飾った鈴木記者いわく、「高さ10mって間近で見るとかなり高いです。常人なら体震えます」。そうだ、私も2008年北京五輪で飛び込みを取材したのを思い出しました。
玉井選手については、「あの緊迫した場面であの演技ができるのは相当プレッシャーに強い選手」「日頃の鍛錬の賜物が一番大事な場面で発揮されました」と鈴木記者。私も、追い込まれて飛んだ6本目で高得点をたたき出した玉井選手に同じ感想を持ちました。決勝を途中棄権したのは無難な判断でしょう。玉井選手には来夏のパリ五輪にピークを持っていけるよう、切り替えて前に進んで欲しいと願います。
玉井陸斗(たまい・りくと)2006年9月11日、兵庫県宝塚市生まれ。3歳で競泳を始め、小学1年で飛び込みに転向した。12歳だった2019年に日本室内選手権の高飛び込みで史上最年少優勝を果たす。東京五輪7位、22年世界選手権銀メダル。160センチ、55キロ。昨春に兵庫・須磨学園に進学し、高校から練習拠点のJSS宝塚まで約1時間半かけて通う。
水泳・高飛び込みとは 水面から高さ10mの固定された飛び込み台から跳躍する。空中ではダイナミックな演技が高評価となるが、入水時のスプラッシュは小さい方が高評価につながる。採点は10点満点からの減点法で、踏切方法、回転方向、回転時のひねり、身体の形、入水時のしぶきが採点基準となる。男子は6回、女子は5回の演技の合計点で競う。英語では“Platform Diving”。
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