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【五輪談合】懲役2年、執行猶予4年の有罪判決 消えない無念と疑問

五輪談合
一連の五輪談合事件で初の判決が出た東京地裁(右)=2023年12月12日、原田写す
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有罪判決を言い渡された森泰夫さんの無念を察するに余りある。ここではあえて森被告ではなく、森さんと書くこととする。東京オリンピック・パラリンピックをめぐる談合事件の裁判で、違法な受注業者の調整をした罪に問われた東京五輪・パラリンピック大会組織委員会元次長の森泰夫さんが2023年12月12日、東京地裁から懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を言い渡された。

森さんと東京五輪・パラリンピック大会組織員会の大会運営局で同僚だった私は、この判決を傍聴しようと、東京地裁前にこの日13時過ぎから100人を超える行列に並んだ。しかし、電子抽選にはずれ、法廷に入ることはできなかった。同じ行列に並んだ旧知のスポーツ記者たちが、抽選に漏れることなく次々と入廷していくのをただ見送った。

目次

開廷2分後、スマホ速報で判決を知る

13時40分。仕方なく私は東京メトロ霞が関駅構内のドトールに入った。14時開廷の2分後、通信社の速報は早かった。「予定稿直し」(あらかじめこれまでの論告などの経緯で作った原稿に量刑部分だけ反映させた記事)だろう。スマホに届いたその速報で「懲役2年、執行猶予4年」の判決内容を知った。

複数の報道によると、12日の判決で東京地方裁判所の安永健次裁判長は「元次長は犯行を発案したうえで受注調整を主導し、中核的な役割を担った。圧倒的最大手の事業者(電通)に協力を求め、複数の事業者と面談などを行い、受注が望ましいと考えている競技や会場を教えるなどした。入札の趣旨を軽視した安易で短絡的な犯行だ」と指摘したのだという。その一方で「大会を成功に導きたいという責任感から談合した側面は否定できない」として、執行猶予が相当とした。

起訴内容争わず、言いたいことは「ありません」

森さんはこれまでの公判で「正当化できないことをした」と謝罪し、起訴内容を認めていた経緯がある。2023年9月の第2回公判では裁判官から「言いたいことはないか」と最後に問われても「特に私の方からはありません」と答えていた。森さんからは「粛々と進めていくことになります」という主旨のメールが私にも届いていた。森さんが進めていた委託先の「調整」が、きょうの量刑に相当する「罪」なのかはともかく、起訴内容を争わなかった経緯から「懲役2年、執行猶予4年」は妥当という見方もある。だが、少なくとも身近にいた私には「厳罰」に感じた。

「有罪が確定的なら、執行猶予付き判決を狙うのは当然のこと」。友人の弁護士に電話で聞くと、そんな答えが返ってきた。森さんもそういう判断だったのだろうか。実刑判決と執行猶予付きの判決はどちらも有罪であることに変わりないが、そこには大きな違いがある。

懲役刑の場合は、判決が下されて確定すると、すぐに刑務所などに収容される。一方で執行猶予付きの判決を受けた場合は直ちに刑務所に入る必要はなく、被告人は社会生活に戻ることができる。執行猶予期間中に他の罪を犯さなければ、罪は消えないが刑罰そのものは免除される。森さんは後者を選択したのか。

テスト大会の受注調整は「オフサイドトラップ」

森さんは公判で罪を認めた一方で「大会を失敗させるわけにはいかなかった」「受注調整をしなければ現場は大きな混乱になっていたと思う」と述べていた。

彼が心の底からそう思っていたのは間違いない。

「受注調整」とは、2018年2月~7月、五輪・パラリンピック本番を滞りなく進めるため、IOCに義務付けられた「テスト大会」の計画立案業務に端を発している。その契約総額は約5億円だ。事前に受注企業をそれまでの業者の実績によって決め、受注する社のみ入札に参加させたことが競争を制限し、それが「談合」にあたるとされた。

五輪・パラリンピックは招致した東京都や国が絡む巨大事業。誰も運営したことがない国際的メガイベントを確実に運営できる委託先を期限までに選定しなければならない立場だった森さんは急きょ、透明性も求められた。

組織委員会内で紆余曲折あった末に「公募入札」形式をとることになったため、事前の「受注調整」が思いがけず「談合」に転じてしまった不運もあったのではないか。組織委時代の私の先輩は、この状況を「オフサイドトラップに引っかかったようなもの」といい、森さんを擁護しつつも、「オフサイドは反則だ」とも言った。

本大会の「談合」に争う企業、全面否認も

森さんへの判決は、テスト大会の計画立案業務と同様、それと特命随意契約で受注される仕組みだった本大会の運営業務(契約総額432億円)も合わせて談合の対象とされた。ところが、この事件で同様に起訴されている広告会社、イベント運営会社6社とその幹部ら6人の主張はそれぞれ食い違い、ねじれている。

森さんと「共謀」して談合を主導したとされる電通とその元幹部はこれまでの裁判で、テスト大会の計画立案業務については起訴内容を認めているが、残る本大会の運営業務については「不当に利益を得る目的はなかった」などと争う姿勢を見せている。

博報堂と博報堂DYスポーツマーケティングも少しスタンスが違う。同社の幹部は、いずれも事実関係は認めたうえで「談合の罪が成立するかは慎重に判断してほしい」と裁判所に求めた。東急エージェンシーは随意契約分の認否を留保中。一部のイベント制作会社は起訴内容を全面否認している。一連の事件は、起訴内容を全面的に認めた森さんへの判決が先行する形で進んできたが、今後の司法の判断は先行きが不透明だ。

なぜ本大会の「談合」認めたか

私は9月に書いた「『五輪談合』元次長に懲役2年求刑。傍聴席で感じたやりきれなさ」の記事でも述べているように、本大会を見据えたテスト大会からの特別随意契約の何が問題なのか、全く腑に落ちていない。森さんもこの点に関して、なぜ争う姿勢を示さなかったのか、私には疑問だ。

なぜなら、テスト大会で各競技を担当した委託先が、競技運営、暑さ対策、輸送対策、表彰式、コロナ対策、人員配置、リスク管理など、数々の課題を抽出し、解決策を練り、それを本大会の運営に生かすことはむしろ自然なことだ。本大会のためのテスト大会という位置づけなのだから、そこは効率面でもコスト削減の面においても、同じ委託先に任せることがセオリーなのだ。少なくとも私の知る限り、委託先は「不当」な利益を得ていない。大会を円滑に安全に実施するために、準備作業が深夜や未明に及ぶことも多く、むしろ粉骨砕身尽くしていた。

この日、森さんの判決が出たほぼ同じ時間に、元自衛官の五ノ井里奈さん(24)への強制わいせつ罪に問われた元自衛官3人へ福島地裁の判決が出た。起訴内容は、北海道の陸自演習場で2021年8月、格闘技の技をかけて五ノ井さんをベッドに押し倒し、覆いかぶさって腰を前後に動かすなどし、着衣越しに陰部を接触させるなどのわいせつ行為をしたというものだ。それが、同じ懲役2年執行猶予4年(求刑懲役2年)。無念さがさらに増した。

「成功への重責を一身に背負っていた。入札にどの事業者も参加しない競技が出れば大会の開催に支障をきたす」。そんなこれまでの弁護側の主張や「違法性の確定的認識もなかった」森さんの置かれていた重圧や立場、その当時の思いは本当の意味で裁判官に届いていたのか。この日の判決を受け止めた私にはそう思えなかった。懲役2年、執行猶予4年は、森さん個人にとっても、今後、日本の国家的スポーツイベントを運営していく人材にとっても、重い判決だった。

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