車椅子スポーツの盛んな日本で、ひそかに盛り上がりを見せているのが車椅子ハンドボールです。国際ルールが統一されて、2022年には第1回の世界選手権が開催されるなど、世界的にも注目を集めています。大阪府堺市で2023年11月4-5日、開かれた第21回全日本車椅子ハンドボール競技大会を取材しました。障害の有無に関係なく楽しめる競技の魅力を紹介します。
【6人制】柔らかいボール使用、コート小さめ
日本の車椅子ハンドボールには、大きく分けて3つの部門があります。1つは、国内で長年親しまれてきた6人制です。健常者の7人制よりも少し小さい35m×20mのコートで、柔らかいボールを使ってプレーします。車椅子から立ち上がることはできないので、ハンドボールのゴールの上30㎝を板で覆って、ゴールの高さを1.7mにしています。また柔らかいボールを使うため、ボールを強く握ると、シュートが浮いたり曲がったり変化します。変化球シュートも、車椅子ハンドボールの面白さのひとつです。
GKの攻撃参加が当たり前
選手起用では、6人のなかに必ず1人は女子選手もしくは障害のある選手が入らないといけません。GKの攻撃参加が多く見られるのも特徴のひとつ。GKに打てて、守れて、車椅子の操作(チェアスキル)の上手な選手を入れると、常に数的優位(6対5)で攻撃ができます。
【京都ルール】筋力のない人にも配慮
もっと小さなコートでプレーするルールもあります。京都で考案されたため、通称「京都ルール」と呼ばれています。障害の重い人や筋力のない人でも楽しめるよう、コートの広さは24m×12mで、ゴールも小さめ。ゴールエリアも八角形を半分に割ったような形で、ゴールまでの距離も通常の半分の3m。さらにゴールポストがエンドラインより30㎝うしろにあるため、角度のないサイドシュートも打ちやすくなっています。
【4人制】国際ルールとして統一
国際ルールとして新たに統一されたのが4人制です。6人制と同じコートを4人でカバーするので、高度なチェアスキルが求められます。GK用のユニフォームはなく、誰がゴール前に立っても構いません。GKが常に攻撃参加して、4対3で攻めるあたりはビーチハンドボールにも似ています。ただしボールは2号球(7人制の女子のボール)を使うため、キャッチする力や投げる力がこれまで以上に求められます。
4人制には独創的なシュート(スペクタクルゴール)に2点が与えられます。車椅子をひと漕ぎで360度一回転してからシュートを決めると2点になります。GKがゴールエリア内から直接ゴールを決めた場合も2点になります。4人制は2セット先取で行われるため、第1セットがボロ負けでも、第2セットを奪い返せば、第3セットのタイブレークに持ち込めます。
4人制は障害者のみで行われ、ハンディキャップのポイントを1~4に分類しています。車椅子バスケットボールと同様、障害の重い選手はポイントが少なくなっています。コート上の4人は、合計ポイントが12以内になるように編成しないといけません。また必ず1人は女子選手がコートに立つように決められています。実際にはなかなか女子選手がいないため、公式戦でも全員男子で試合をしているのが現状です。女子選手の発掘は、日本にとって急務です。
魅力1:車高の高さはハンデの違い
ルールのことばかり書いてもピンとこないでしょうから、ここからは車椅子の見どころも紹介していきます。ローポインター(障害の重い選手)は体幹の支えが必要なため、車高の低い車椅子を選んで、深く座ります。ハイポインター(障害の軽い選手)は車高を高めにして、背もたれを低くするなど、より動きやすい車椅子を使用する傾向にあります。国際大会では障害のクラス分けを色で分類しますが、車椅子を見るだけでも選手ごとの特徴が見えてくるのです。
魅力2:ホイール押さず体ひねって前へ
ハンドボールは3歩までしか歩けないように、車椅子ハンドボールではホイールを3回までしかプッシュできません。ところが車椅子はホイールを押さなくても、体幹のひねりを利用するだけでも前に進めたりします。上半身を左右にツイストさせるようにひねるだけで、自陣から相手ゴール前まで行く選手もいました。ただ最近は国際ルールに合わせて3秒ルール(ボールを保持できるのは3秒まで)を厳しく取るようになったため、コートの端から端までツイストだけで行くプレーは見かけなくなりました。実際のプレーで使えるかどうかはともかく、車椅子をツイストだけで動かせると気持ちいいですよ。ぜひ一度チャレンジしてください。
魅力3:片輪を浮かせて「ジャンプシュート」
高度な技術では、車椅子の片輪を持ち上げて高さを出すプレーもあります。「ティルティング」と呼ばれる技で、車椅子バスケットボールではジャンプシュートの代わりに用いられます。車椅子ハンドボールだと倒れ込みシュートに近い動きになります。車椅子同士の平面的なプレーに突如現れる立体的なプレー。倒れ込んだあとにすぐ立ち上がる選手の姿もまた絵になります。
車椅子バスケ経験者が参画、ハンドに革命
従来の日本の車椅子ハンドボールは、自陣と敵陣に行ってからの攻防がほとんどでした。ところが車椅子を人間の足以上に使いこなせる車椅子バスケットボールの選手が入ってきたことで、コートの中央付近でプレスをかけるDFが出てきました。これは革命的な出来事です。11月の日本車椅子ハンドボール競技大会を制した「Knockü SC」(以下ノッキュー)は、諸岡晋之助、森谷幸生、伊藤優也ら車椅子バスケ経験者を揃えて、相手にボールを運ばせないDFで勝利しました。
高い位置でのプレスはバスケットボールっぽい守り方ですが、マンツーマンでつくのではなく、マークの受け渡しをするゾーンDFです。諸岡が「ゾーンDFをするなら、全員に水準以上のチェアスキルが求められます」と言うように、ローポインター(障害の重い選手)の阿部武蔵、村上慶太もタイトなDFで相手のエース級を封じます。このDFが世界選手権でもできたら、メダル獲得だけに限らず、世界に一大センセーションを巻き起こせるでしょう。7人制のハンドボールで言ったら、往年の韓国以上のフットワークで守り倒すイメージです。足よりも速く走れて、小回りが利く車椅子ならではの戦術に注目です。
ルールのまとめ
- 6人制は柔らかいボールを使って、前後半20分ハーフで行われる。
- 4人制は2号球を使って、2セット先取したチームの勝ち。1セット10分で行われる。
- 障害の重い人や筋力のない人でも楽しめるように、小さなコート、小さなゴールで行われる「京都ルール」もある。
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