陸上長距離の元ランナーで、特に女子マラソンの指導で卓越した功績を残した川越学さんが亡くなった。2025年8月22日、出張先で倒れ、脳卒中で急逝した。まだ63歳の若さだった。取材で幾度も話を聞いたのはもちろんのこと、陸上指導者と記者という立場を超えて、可愛がってもらい、ビールを酌み交わし、公私で世話になった。SNSでつい最近もやりとりしたばかりだった。今も信じられない。
狼のような勝負勘、羊のようなやさしさ
川越さんは2007年世界陸上(大阪)女子マラソンで6位入賞の嶋原清子さん、2009年世界陸上(ベルリン)7位入賞の加納由理さんら数多くの女子トップ選手を育てた。資生堂、クラブチームのセカンドウインドAC、エディオンなどで監督を務め、これまでに川越さんの指導で2時間30分を切った女子マラソン選手は10人にのぼる。2024年4月からは東海大静岡キャンパスで指導していた。
川越さん自身は鹿児島南高時代に国体少年男子B3000メートルで優勝。早大では日本インカレ5000m、10000m2冠。箱根駅伝でも活躍した。生まれながらに狼のような勝負勘を持ちながら、普段はいつも笑っていて、羊のように穏やかでやさしい人だった。
マラソンの指導は経験に裏打ちされた理論と実践がベースにあって、選手に感情的になったり、押し付けたりは決してしない。「気合」や「根性」に走らない。だから女子選手から慕われた。名前の通り「学」ぶことが好きで知識に貪欲な人でもあった。新聞を良く読み、自分が書いた記事も隅々まで読んで、感想をくれた。海外志向が強く、1990年代から毎年高地合宿している米ニューメキシコ州アルバカーキ―にまつわる著書も手がけた。
いまから数年前のこと。鹿児島南大隅町出身の川越さんに「バレーボールの取材で〇〇日の月曜日、鹿児島の薩摩川内市に行くのですが、お知り合いがやっている店やおすすめの店を教えていただけませんか」と尋ねたことがあった。
すると、米国のアルバカーキ―で合宿中の川越さんから「日本料理・柏木がいいと思うよ」とすぐに返事が返ってきた。時差があるのに、申し訳ないと思いつつ、そのリンクを開くと、私が行くと言っていた「月曜定休日」と思い切り書いてあった。そんな愛すべき人だった。
川越さん、どうか安らかにお眠りください。ありがとうございました。
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