サッカー日本代表が2026年北中米ワールドカップ(W杯)出場を決めた。2025年3月20日、埼玉スタジアムでのアジア最終予選第7戦でバーレーンに2-0で快勝し、最終予選3試合を残して8大会連続8度目の出場権を獲得した。開催国の米国、カナダ、メキシコを除く出場権獲得は一番乗りで、ゆえに「世界最速」と報じられた。一つの成果であり喜ばしいことだ。ちまたは祝福ムードに包まれている。しかし、実は手放しで喜んではいけない理由がある。
「世界最速」という言葉の罠
まず「世界最速」というフレーズに踊らされてはいけない。これは自動車の走行スピードやインターネットの通信速度が世界最速なのとは全く意味が異なるからだ。
ワールドカップ予選の日程やフォーマットは大陸によって異なる。ヨーロッパ予選は、3月に始まったばかりで本格化するのは9月からだ。南米予選は9月まで、アフリカ予選は10月まで続く。各大陸や大陸間プレーオフはそのあとだ。
日本代表が「世界最速」でW杯出場を決めたからといって「世界最強」というわけではない。「アジア最強」とは、ほぼ同義だがアジアは世界的に見ればレベルが低く、本戦での活躍が約束されるものでは全くない。(下に記事が続きます)
出場国が32から48に拡大
もう一つ注意して見るべき点は、出場チーム数の拡大だ。
カタールで開催された2022年ワールドカップ本大会の出場チームは32カ国だったが、FIFA(国際サッカー連盟)は2026年大会の出場枠を48カ国に増やしたのだ。1.5倍の大幅拡大となる。
日本代表はワールドカップに出場できて当然という風潮があるなか、本戦への出場が1.5倍も楽になったということなのだ。
同様の現象が過去にも起こっている。1994年アメリカW杯の本大会の出場枠は24だったが、1998年フランスW杯の本大会の出場枠は32に拡大した。
1994年大会のアジア枠は2で、日本は目前にして「ドーハの悲劇」で初出場を逃した。
自力で出場をかなえる最後のチャンスとなった1998年フランス大会のアジア枠は3.5。日本がプレーオフに回りながらも勝利したのが「ジョホールバルの歓喜」だ。日本では、あまり語られないが出場枠の拡大の恩恵を日本は間違いなく受けた。
それにしても当時、アジアの国がワールドカップに出場するのは狭き門だった。それに加えて、日本はプロ化して間もなく、実力的にはアジアの上位レベルにはあっても現在のような頭一つ抜けた力はなく、四苦八苦しながら予選を戦っていた。
しかも2002年日韓ワールドカップの開催が控えており、もしもフランス大会出場を逃せば、予選を突破することなく(開催国枠で)W杯に初出場してしまう初めての国になってしまうという重圧があった。自力での初出場を果たして国民的なお祭り騒ぎになったのは、当然の成り行きだろう。
一方で、現在に話を戻すと、ワールドカップ出場のアジア枠は2022年大会で「1(開催国)+4.5」だったのが、2026年大会で「8.5」に拡大した。日本代表が、危うい足どりで初出場を目指していたころのプレッシャーに比べたら何倍も楽だ。出場枠が増えただけではなく、日本人選手のレベルも底上げされている。欧州組がいなくても、アジア予選を突破できるくらいの能力がある。それだけ日本のレベルは向上した。(下に記事が続きます)
本大会の試合数増加
出場枠が拡大して、本大会で上位を狙うための道程は長くなった。
2022年大会ではグループステージで3試合を戦い、各グループ4チーム中で上位2チームが16強に進出し、そこから決勝トーナメント4試合に勝利すると優勝だった。
それが2026年大会ではグループステージで3試合を戦い、各グループ4チーム中で上位2チームに加えて、3位チームのうち上位8チームも決勝トーナメントに進出する。そして、ノックアウトステージは32強から始まり、優勝するためには5回も一発勝負に勝つ必要があるのだ。
ベスト32という数字だが、これは2022年の本大会出場枠と同じだ。「16強」というと「いよいよだ」という響きがあるが、「ベスト32」や「32強」と言われてもあまり強そうではない。(下に記事が続きます)
グループステージを突破して初めて世界の舞台
出場できればいいという時代はもう終わった。今後は「日本代表のワールドカップ出場は当たり前」と冷静に受け止めて「グループステージを突破して初めて世界の舞台に上がった」というくらい意識を変えなければならない。
そうでなければ、世界のトップを狙うことは夢のまた夢だ。ブラジル代表は半分寝た状態でグループステージを突破して、ノックアウトステージで初めて目が覚め始める。
日本代表の8大会連続のワールドカップ出場は、決して簡単に成し得たものではなく、日本のサッカー界全体とそれを支えるサポーターの力によって勝ち取ったものだ。それは評価すべきだ。
しかし、世界に目を向けると、ワールドカップでブラジル代表に次いで多い4度の優勝実績を誇る強豪イタリアが、2大会連続でヨーロッパ予選の突破に失敗している。
史上最強といわれている日本代表だが、現在の力が未来永劫の地位を保証してくれるわけではない。勝って兜の緒を締めるためにも今、警鐘を鳴らしておきたい。
2026年北中米ワールドカップ カナダ(2都市)・メキシコ(3都市)・アメリカ(11都市)の3カ国が共同開催。2026年6月~7月にかけて104試合が行われる。出場枠が48カ国に拡大される初のW杯。
ドーハの悲劇 1994年ワールドカップ・アメリカ大会のアジア最終予選で、暫定でグループ1位の日本代表はイラクを相手に最終戦に臨んだ。1993年10月28日にカタールの首都ドーハ(アル・アリ競技場)で行われた試合は、日本が2-1でリードし、このままいけば本大会の初出場が決定するはずだった。しかし、アディショナルタイムに同点弾を許して2-2となり「予選グループ3位」が確定。目前でW杯の切符は、するりと手から落ちた。日本の代わりに滑り込みでグループ2位に入り出場権を獲得した韓国では「ドーハの奇跡」と呼ばれている。
ジョホールバルの歓喜 1998年ワールドカップ・フランス大会のアジア最終予選。グループBで2位になった日本はグループA2位イランとアジア第3代表の出場枠をかけてイランと対戦した。1997年11月16日にマレーシアの南端ジョホールバルで開催された試合は、日本が前半に先制するも後半にイランが2点を決めて逆転。日本は必死の猛追で後半31分に得点し2-2で延長戦に突入。決着はPK戦かと思いきや、延長後半13分に岡野雅行が劇的なゴールデンゴールを決め、3-2で日本が勝利。逆転に次ぐ逆転のシーソーゲームをものにして、日本は遠かったワールドカップの初出場を手にした。
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