フランス出身のJRA所属ジョッキー、クリストフ・ルメール騎手(44)が大けがを乗り越えて2024年5月5日の東京競馬場で騎乗を再開する。ルメール騎手は3月30日にアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイのメイダン競馬場で行われたドバイターフ(芝・1800m)の最後の直線で騎乗馬から前のめりに落馬。鎖骨と肋骨の骨折に加え、肺に穴が開いたと主催者のドバイレーシングが診断結果を発表していた。1カ月あまりのリハビリで驚異的な回復を遂げ、実戦復帰の5月5日は3鞍に騎乗する。第4レース(3歳未勝利戦、シンバーシア)、第8レース(4歳以上2勝クラス、ソワドリヨン)、そしてメインの第11レース(G1・NHKマイルカップ、アスコリピチェーノ)だ。
相次ぐ落馬事故「メンタルが大変でした」
時速70キロ近い速度で走る馬が突然バランスを崩して、ルメール騎手は上半身から地面にたたきつけられるように落ちた。身長163cm、53キロの細身の体をとっさに丸め、体重500キロ近い後続馬に踏まれる最悪の事態は免れた。ルメール騎手は「落馬したときはメンタルが下がってしまいました。最近も競馬で落馬がたくさんあって、メンタルが大変でした」とスポーツ紙などにコメントしている。
ルメール騎手が心を痛めた理由は、4月に日本でも相次いだ痛ましい落馬事故だ。4月6日の阪神競馬場7レースで前の馬と接触して落馬した藤岡康太騎手(35)が、後続2頭に頭と胸を蹴られて負傷し、4日後の4月10日に死亡した。
ドバイの病院でその訃報に接し、大きなショックを受けたという。ルメール騎手がJRAの騎手試験に合格した2015年、京都の寺でセレモニーをした際には、藤岡康太騎手も駆けつけてお祝いしてくれたことが思い出に残っているそうだが、彼の葬式には出られなかった。
その後も落馬事故は続いた。4月20日には福島メインの福島牝馬ステークス(芝1800メートル)で木幡初也騎手(29)、吉田隼人騎手(40)が加速していく第3コーナーで馬から落ちた。木幡騎手は右尺骨骨折で手術した。吉田騎手はくも膜下出血で現在も入院中といい、意識障害がある状態で後遺症が心配されている。
同じ4月20日には京都4Rでは松山弘平騎手(34)が、ゴール入線後に振り落とされて落馬。京都市内の病院で「頭部の負傷」と診断されたが、松山騎手は回復し、5月4日のレースから復帰する。(下に記事が続きます)
落馬、データ上は265回に1回
競馬は馬の実力とそれを引き出すジョッキーの手綱さばき、技術で着順が決まるスポーツだ。できるだけ上位に入って賞金を加算するために、好位のポジションを馬体が接触するスレスレで争ったり、狭いインコースを突いたり、時には道中でライバルをブロックしたりもする。天候によっては滑りやすかったり、馬が脚をとられやすい馬場状態もある。
あるデータでは落馬は平地レースの場合、265回に1回の割合で発生し、障害レースの場合は15レースに1回と頻度が跳ね上がる。ただ、そんな平均値が参考にならないほど、この4月の落馬の件数の多さは異常だった。
競馬場の救護室には医師と看護師が常駐し、万一の場合に救急車も場内に待機して備えている。ルメール騎手と並ぶトップジョッキーの1人、川田将雅騎手は危険な騎乗をした後輩に落馬の危険性を説き、厳しく指導しているとも聞く。(下に記事が続きます)
JRA 対策に動くなら今
それでも落馬はなくなるどころか、増え続け、先月には死者も出た。競馬に落馬がなくなることがないのなら、せめて命に係わる重大事故を避けるもう一歩先の工夫、対策が必要ではないか。
例えば、落ちたときの衝撃で開くエアバッグのようなプロテクターを開発するなどの装具の工夫はできないものか。少なくともJRA(日本中央競馬会)は常に危険と隣り合わせの騎手たちの声に耳を傾け、人馬の安全確保に全力を注ぐべきだ。目を覆うような危険で残酷な場面は、もうこれ以上見たくない。
藤岡康太騎手の死、ルメール騎手の大事故の教訓を生かすためにも、対策に動くなら今だ。
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