ハンドボール女子日本代表は2024年4月11日〜14日、パリ五輪世界最終予選(ハンガリー・デブレツェン)でスウェーデン、カメルーン、そして地元ハンガリーと対戦する。この4か国はいずれも直近の2023年女子世界選手権に出場しており、日本17位、スウェーデン4位、カメルーン24位、ハンガリー10位という結果だった。
総当たりで上位2チームがパリ五輪出場権を獲得する最終予選。パリ五輪行きを決めるためにも、日本が確実に勝っておきたい相手が、世界選手権の順位でも上回ったカメルーンだ。そのカメルーンとはどんなチームか、リサーチを進めていた矢先、英語で書かれた「消えるカメルーン選手」との記事に行き当たった。その記事を抜粋して紹介する。
「消えるカメルーン選手」の記事
記事はスウェーデン在住のスポーツライター・クリス・オライリー氏がいまから4か月前の2023年12月7日に書いたものだ。タイトルは”The troubling trend of Cameroon’s vanishing players”「消えるカメルーン選手の憂慮すべき傾向」とある。「消える」とはどんな意味なのか。タイトルだけでは当初ピンとこなかったが、読み進めるうちに、開発途上国特有の、特に女性スポーツにひそむ「闇」(ダークサイド)が浮かび上がってきた。
史上初のメーンラウンド進出、14人で
その記事は「カメルーンが2023年女子世界選手権でパラグアイに26-23(12-12, 14-11)で勝利し、同国は初めて本戦(メーンラウンド)に進出。歴史を塗り替えた」というくだりから始まる。しかし、「彼女たちは(ベンチ入りが許される最大16人ではなく)この快挙を14人の選手で達成した。これは世界選手権レベルの大会では極めて異例のことである」と続けた。ショッキングなのは「メンバーが14人しかいなかったのは、もともと少なかったわけではなく、2人の選手が世界選手権開幕直前に『失踪』したことによるものである」と書かれていることだ。
この記事の筆者オライリー氏は、取材したカメルーンのスポーツジャーナリストの話として、2023年世界選手権開幕前、同年11月26日にフランス・カーンでセネガルとのテストマッチをした時にはベネディクト・マンガ・アンバサとマリアンヌ・バタマグの2選手がカメルーン代表メンバーに含まれていたと伝えた。(下に記事が続きます)
11月末、テストマッチにはいた2選手が失踪
ところが、その4日後、11月30日にスウェーデン・ヘルシンボリでの世界選手権初戦となったモンテネグロ戦には、2人は代表メンバーにもういなかった。カメルーンのスポーツジャーナリストが説明する。「少なくとも、彼女たちは誘拐されたのではなく、自ら立ち去ったということになります。 これは私たちカメルーンにとって初めてのことではありません」
2021年世界選手権でも5人
実は2021年の世界選手権(スペイン)でも、カメルーン代表のジャスミン・ヨッチョム、クラリス・マジュファン、ミシェル・エコベナ、アメリー・ムヴォウアの4人が大会中に失踪したと報じられている。4選手は予選ラウンド後に姿を消し、5人目のジゼル・ンコロも直後に姿を消し、カメルーンはプレジデンツカップ(順位決定戦)最後の3試合を11人の選手のみで戦っている。
「カメルーンの状況(政治、経済)は最高とはとても言いがたく、これは彼女たちにとってより評価される場所に行く機会かもしれないと感じたため、私たちはほとんど記事にしませんでした」とカメルーンのスポーツジャーナリストは言う。
「カメルーンで若者が仕事を見つけるのは簡単ではなく、給料は月に約70ドル(約10500円)ほどが一般的です。それで何ができるでしょうか? 稼ぎを求めて海路で国を離れる若者もおり、その途中で多くが亡くなり、家に引き戻されたり、どこかの難民キャンプに送られたりしているのを耳にします」
サッカーは厚遇、ハンドボールは…
「サッカー選手の場合はそのようなことが起こっていません。サッカーワールドカップのような大会で選手が戻ってきて、車を買って家を建てることができるのであれば、少なくとも彼らが国外に出ることはないでしょう。 しかし、ハンドボールの場合は別で、彼女たちに与えられている待遇や奨学金の種類を見ると、心強いものではありません」とカメルーンのスポーツジャーナリストは説明する。
「選手たちに逃げることを勧めているわけではありませんが、彼女たちは外でより良い生き方を見つけています。 女性の視点から見ると、給与には(男性と比べて)依然として格差があることがわかります。 もし女性がこのような大会(世界選手権)に参加したとしても、国に戻って何が与えられるのでしょうか? 実際には何もありません」
「チームメイトに『消える』ことを伝えることさえ難しい。失踪することはだいぶ前から密かに計画を立てていて、チームメイトには告げないでしょう。 そして、チームメイトがそのことを聞いたら、自分たちにできることは何もないので、ただサポートするだけでしょうし、彼らの思い通りになれば、きっと彼らも去っていくと思います。 しかし、チーム全体が消滅することになったら、国のイメージは悪くなりますよね」と、カメルーンのスポーツジャーナリストは記事中で語る。(下に記事が続きます)
2023年男子世界ユースではブルンジの10人が
似たような事例はハンドボール界で、長年にわたってより大規模に発生しているという。 最近では、2023年夏にクロアチアで開催された男子ユース世界選手権で、アフリカ中東部ブルンジの少なくとも10人の選手が、大会参加中に失踪した。 9月には同じ選手たちがベルギーに亡命を申請したという。
カメルーンのスポーツジャーナリストは「彼女たちがカメルーンに確実に戻ってくるための対策として、どこかに着いたら選手のパスポートをチームが管理するのが適切だ」と話す。「それで選手たちの自由は一時的になくなるが、カメルーンの選手たちが喜んで帰国できるよう、より現実的な対策が講じられることを望んでいる。彼女たちに社会保障や毎月の奨学金を与えれば、彼らが毎回逃げ出す可能性は低くなる」としている。
さらに「政府は彼女たちのようなアスリートたちに、トロフィーを持ち帰ることを望んでいるが、政府はそのために何もしていない」。カメルーン女子代表をとりまく記事はそう結ばれている。
カメルーン 正式名称はカメルーン共和国。首都はヤウンデ。アフリカ西部ギニア湾に面する。国土は日本の約1.3倍で、人口は2791万人(2022年、世銀)。一人当たりのGDPは1563ドル(2022年、世銀)で経済規模は日本の佐賀県とほぼ同等。ドイツの植民地をへて第1次大戦後、英仏の委任統治領となり、1960年に独立。公用語はフランス語、英語。さかんなスポーツはサッカーで、2000年シドニー五輪では男子が金メダルを獲得した。主なサッカー選手はレアルマドリードやバルセロナで活躍したFWサミュエル・エトーや、ガンバ大阪、東京ヴェルディでもプレーしたFWパトリック・エムボマらが知られる。2002年のサッカー日韓ワールドカップでは、大分・中津江村がカメルーン代表のキャンプ地となり、村民との交流が話題を呼んだ。
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