第76回日本ハンドボール選手権男子決勝が2024年12月8日、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)で行われました。豊田合成ブルーファルコン名古屋は最大7点差から追いつき、延長戦の末に27-26でブレイヴキングス刈谷を下し、大会5連覇を成し遂げました。MVPにはGK宮城風太が選ばれています。
今年も2強の決勝戦に
日本選手権決勝は、2年続けて同じカードになりました。豊田合成ブルーファルコン名古屋とブレイヴキングス刈谷との対戦です。リーグHの2強と言っていい両チームは、過去にも数々の名勝負を繰り広げてきました。お互いに手の内を知り尽くした愛知県勢同士の対戦は14時30分に、本田昭太、田渕元雄ペアの笛で幕を開けました。 (下に記事が続きます)
前半8分:刈谷の北詰、カットイン
前半開始から、刈谷はしつこくカットインで攻めてきました。ターゲットは合成の右の2枚目。前半は合成にとって、右側のDFがベンチから遠い側になります。右2枚目に入る石嶺秀は貴重な左利きですが、DFは発展途上。左2枚目で驚異的な守備力を誇るヨアン・バラスケスと勝負するよりは、今季からレギュラーになった石嶺を狙った方が崩しやすいと、刈谷ベンチは考えたのでしょう。レフトバックの吉野樹だけでなく、センターの北詰明未も左側にポジションチェンジして、合成の右2枚目のアウトスペースを強く狙っていきました。準決勝のジークスター東京戦同様、刈谷は左側でのアウト割りで主導権を握ります。
前半21分:刈谷、7点リード
合成は右2枚目DFにエースキラーの藤勢流を入れるなど、対策を練りますが、刈谷の勢いは止まりません。21分にはライトバックの渡部仁が大きく左側に回り込みながら、引っ張り(左利きの渡部から見て右側)にシュートを決めて6-13。この日最大の7点リードを奪いました。合成の田中茂監督は「これまでブレイヴキングスとは厳しい試合を何度もやってきたが、7点差まで開いた記憶がない。さすがになんとかしないと」と思ったそうです。(下に記事が続きます)
前半22分:GK宮城がサイドシュートを止める
合成は前日絶好調だったGK中村匠が、決勝は全く当たりませんでした。フィールドシュート11本すべて決められてしまうという、中村らしくない数字が残っています。そこで合成は2番手GK宮城風太を投入。最初はやられていましたが、22分には刈谷のレフトウイング杉岡尚樹のサイドシュートをバチンと止めました。相手が息の根を止めにきた1本を防ぎ、合成が踏みとどまります。宮城に当たりが出てくるとともに、合成も少しずつペースを取り戻し、前半を11-15で折り返しました。
後半3分:合成の両外国人選手が続けて退場
追い上げたい合成ですが、後半開始早々にディエゴ・マルティン、バラスケスの両外国人選手が立て続けに退場。2人少ない状況になりました。しかし2人が戻るまでの時間を1-1でしのいで、プラスマイナスゼロで持ちこたえました。1人少ない攻撃で水町孝太郎が右側から引っ張り(右利きの水町から見て左側)にシュートを決め、刈谷の渡部仁のノーマークシュートをGK宮城が止めるなど、よく持ちこたえました。 (下に記事が続きます)
後半18分:合成が1点差に詰め寄る
じわじわと点差を詰めていく合成は、後半18分にバラスケスが2対2からしゃくりのシュートを流し上(右利きのバラスケスから見てゴール右上)に打ち込みました。20-21。これで1点差。合成に勢いが出てきそうな一本でした。悪い流れを断ち切りたい刈谷のラース・ウェルダーヘッドコーチは、このシュートの直後にタイムアウトを取りました。
刈谷・藤本と合成・藤。右2枚目を巡る攻防
タイムアウト明けの刈谷は、レフトウイング藤本純季を合成の右1枚目と2枚目の間に置きました。前日のジークスター東京戦では、本職ではないピヴォットで大活躍した藤本を入れて、ライン際の仕事をさせようという狙いです。刈谷は前半に気持ちよく決まっていた左側のアウト割りが、後半は手詰まりになっていました。合成のディフェンス要員・藤勢流が高さを出して守るようになったからです。藤を気持ちよく前に行かせないよう、裏のスペースにハンドボールIQの高い藤本を入れる――合成の右2枚目を巡る攻防は、1試合通して見応えがありました。
後半28分:合成、ついに同点
なかなか追いつけなかった合成が、後半28分47秒にピヴォットのマルティンのシュートでついに23-23の同点としました。非常にクレバーなマルティンは、相手の弱いところを的確に狙って、得点に結びつけます。この場面でもDFの段差を見逃しませんでした。結局23-23で後半が終了。60分間のほとんどが苦しい展開だったのに、最後に追いつくあたりは王者・豊田合成ブルーファルコン名古屋の底力です。
第1延長前半4分:古屋、右側からねじ込む
第1延長前半残り1分を切った場面で、合成のキャプテン・古屋悠生が右側からミドルシュートを決めました。いつも余計なシュートを打たない古屋にしては、珍しくガツガツ行ったように見えたシーンでしたが、古屋自身は冷静でした。「ポスト(ピヴォット)の2対2でDFが寄っているのが見えたので、僕は1枚目と2枚目の間を狙いました。相手が横から来ているのもわかっていたから、最悪でもフリースローは取れるだろうと思って、思い切ってアウトスペースを攻めました。あの場面は冷静でしたよ。僕は冷静じゃないと『いい選手』じゃないので」。キレキレの1対1を最後のオプションで隠し持ち、ここぞという場面でだけ効果的に使うのが、古屋の凄みです。
第1延長後半0分:GK宮城、この日一番のセーブ
延長の後半に入ってすぐに、刈谷の得点源・杉岡がワンマン速攻に飛び出します。ノーマークの大チャンスでしたが、ここで合成のGK宮城が、股下のシュートを防ぎました。阻止率53.1%でMVPに選ばれた宮城が「今日一番記憶に残っているセーブ」と言っていたのがこのシーン。「杉岡さんの速攻を止めたのは研究どおり。今日は来たシュートを止めることだけを意識して、落ち着こうと心がけていました」。日本代表の中村の陰に隠れていた第2GKが、決勝戦で大仕事をやってのけました。
第1延長後半4分:刈谷・吉野の7mTは無情
水町のシュートで27-26と合成が1点リードしましたが、残り3秒で今度は刈谷が7mスローを獲得します。打つのは両チーム最多の8得点を挙げている吉野。ここで合成の田中監督は、当たっている宮城に替えて、GKに中村を送り込みました。「ラストの場面は勘ですね。(中村)匠と目が合って、顔を見た瞬間に『行ける』と思って替えました」。GK中村の圧があったからか、吉野の引っ張り下のシュートはゴールポストに当たって、無情にも枠の外へ飛んでいきました。試合終了。豊田合成ブルーファルコン名古屋が、日本選手権5年連続6度目の優勝をつかみ取りました。
苦戦しながら負けない
試合後の会見で田中監督は「ウチは決勝戦に出たら、負けていないんですよ。国体(現在の国スポ)で一度負けているけど、それは『愛知県』で出ていたから『合成』ではありません」と、笑いを誘いました。決勝戦の合成は、いつも苦戦しながらも「負けない」イメージがあります。2024年の決勝もずっと追いかける展開でありながら、試合の中で修正しつつ、新たな選手がどんどん出てきて活躍しました。延長に入ってからは低い3:3DFを仕掛けるなど、戦術の引き出しでも刈谷を上回った印象です。田中監督は「今季は戸井凱音が3枚目DFでいいつなぎ役になってくれている。ここに山口勇樹、服部將成がケガから戻れば、サイズで守るDFでも勝負できる」とも言っています。
誰が出てきてもクオリティが落ちず、なおかつ戦術の引き出しがどこよりも豊富。リーグHの序盤に苦しみながらも、短期決戦では「合成らしさ」を見せつけての日本一でした。
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