【ハンドボール】レッドトルネード佐賀、プレーオフ初勝利。生え抜き酒井翔一朗が語る

藤坂尚輝(大同フェニックス東海)の1対1を守る酒井翔一朗(レッドトルネード佐賀)=2026年6月12日、東京・代々木第一体育館で久保写す(以下すべて)
藤坂尚輝(大同フェニックス東海)の1対1を守る酒井翔一朗(レッドトルネード佐賀)=2026年6月12日、東京・代々木第一体育館で(久保写す、以下すべて)
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ハンドボール男子・リーグHのレッドトルネード佐賀は2026年6月12日、プレーオフで初勝利を挙げた。3大会連続5回目の出場で、ようやくつかんだ初勝利。プレーオフの舞台で壁を乗り越えるために、何を考え、どのように取り組んできたのかを、生え抜きのベテラン・酒井翔一朗33歳が大いに語った。 

目次

2025年プレーオフ「問題はDF」

2025年のプレーオフでは、大同の藤坂を止められなかった=2025年6月
2025年のプレーオフでは、大同の藤坂を止められなかった=2025年6月

まずは1年前の2025年のプレーオフの話から。レギュラーシーズン4位のレッドトルネード佐賀(レットル)は、同5位の大同フェニックス東海とクオーターファイナルで対戦した。この日のレットルはOFこそ好調だったものの、思うように守れない。最後は3枚目DFの岩見海里が孤立させられ、大同の藤坂尚輝に1対1で抜かれてしまった。32-34で敗れた後、ベテランの酒井翔一朗は悔しさを隠しきれない様子だった。

「OFは悪くない。問題はDFですよ。真ん中の1対1で抜かれるのを前提に、周りが寄らないと。DFを自分たちの感覚でやり過ぎているというか、大同は藤坂で来るのがわかっているのだから、もっと相手に合わせて止めないと。結局ここまでくるとDFですよ。ごまかしで4位や5位になれても、そこから先は勝ち上がれない」

得意のパスカットで状況を打開しようとしても、逆に1対1の弱さでやられてしまう。堅守速攻で相手を飲み込んできたレットルの勢いが、プレーオフの舞台になると消されてしまう。この課題にどう向き合っていったのか。答えは1年後のプレーオフで明らかになった。(下に記事が続きます)

徳田新之介加入、守り勝ち

驚異的なフットワークで動き回る徳田新之介が、レッドトルネード佐賀にプレーオフ初勝利をもたらした
驚異的なフットワークで動き回る徳田新之介が、レッドトルネード佐賀にプレーオフ初勝利をもたらした

翌2026年6月、プレーオフのクオーターファイナルで、レギュラーシーズン4位のレッドトルネード佐賀は、またしても同5位の大同フェニックス東海と対戦した。昨年のリベンジマッチに燃えるレットルは29-27で大同を下し、プレーオフ初勝利を手にしている。1年前の会見とは違い、酒井の表情は晴れやかだった。

「やっぱり徳田新之介の加入が大きかった。僕と新之介の相性がいいというか、ハンドボール観が合うというか。僕が疲れてきたら、新之介がどんどん動いてくれるし、プレーがわかりやすい。うしろからフォローに行きやすい抜かれ方をしてくれるから、新之介が仮に抜かれたとしても、まったく問題がない。お互いに信頼感があるから、プレーに迷いがない。一緒にDFしていて、本当に楽しい。新之介自身が楽しんでハンドボールをやっているし、12分間走も笑顔で走るヤツだから。日本代表で昔、一緒にやっていた懐かしさもありますよね」

2025-26シーズンから徳田新之介が新たに加わり、右2枚目DFの強度が劇的に改善された。これまでは左腕エース・三重樹弥にライトバックと右2枚目を託すしかなかったが、徳田を入れることで堅守速攻での得点が大幅に増えている。2026年3月の豊田合成ブルーファルコン名古屋に勝った試合がその典型で、三重が故障でベンチアウトだった試合を、徳田を中心としたDF力で物にしている。(下に記事が続きます)

機動力、ボール奪う

味方のフォローがあるから、思い切ってDFで仕掛けられる
味方のフォローがあるから、思い切ってDFで仕掛けられる

徳田個人の力だけでなく、チーム全体のDF力も向上したと、酒井は感じている様子だった。

「毎日毎日選手同士で話し合って、『こういう時はこうしよう』と言ってきた積み重ねが、やっぱり試合にも出るのかな。『修正を早くする』というテーマが、僕らのなかでありました。1本やられるのは仕方ない。ハンドボールは0点で抑えるのは無理な競技だから。大同は1対1からのシュートが多いから、そこをどうやって守るか。今回特に意識したのは、2枚目DFの牽制です。「スタンディングシュートを打たれる時は、2枚目の牽制だったり、3枚目の寄りがないからだよね」という認識は、チーム内で共有できていました。この共通認識が大きかったですよね。去年のプレーオフでは(3枚目の1対1を抜かれた)岩見が悪いみたいになっていたけど、そうじゃない」

大同の強い1対1を個で守るだけでなく、チーム全体でどうフォローしていくか。プレーオフに向けて練習を重ねるうちに、酒井はおもしろいことに気づいた。

「あとで気づいたのですが、そう言えば練習中に『藤坂』というキーワードが出て来なかった。藤坂、可児大輝、河原脩斗の『バックプレーヤー3人』という言葉しか出てこなかったですね。なんとか3人を止めようという意識で練習していました。去年引退した八巻雄一がアナライザーになって、全試合のデータを取ってくれました。『この選手のここでのシュート率は何割』とデータを出してくれたから、『よし、そこを止めよう』と割り切ってプレーできました。OBも団結して、今日の試合も引退した田中大斗や荒川蔵人も応援に来てくれました。そういうOBの支えというか、みんなが力を貸してくれたから、自分たちのことを信じてやり切れました。5月のレギュラーシーズン最後で大同には勝っています(33-24)が、今日の試合で大同のバックプレーヤー3人がギアを上げてくるのはわかっていましたから。相手を弾いて、弾いて、最後はボールを奪う。僕らは機動力で勝負するしかないので」(下に記事が続きます)

治田大成、勝負分けたパスカット

速攻と7mスローの印象が強い治田大成(レッドトルネード佐賀)が、プレーオフではDFで大仕事をした
速攻と7mスローの印象が強い治田大成(レッドトルネード佐賀)が、プレーオフではDFで大仕事をした

ボールを奪うDFの極めつけが、後半26分に飛び出した治田大成のパスカットだった。退場者が出て5対6で守らないといけない時間帯にボールを奪い、山口直輝の速攻につなげた。この1本で29-26としたレッドトルネード佐賀は、残り3分を1失点で守り切り、29-27で大同を下している。酒井も治田のプレーを絶賛していた。

「治田のパスカットは予定通りと言うか、やろうと言っていたことを表現してくれました。データだと、大同はサイドシュートやポストシュートの確率がよくない。サイドへの飛ばしパスを出す確率も高くない。だから我慢して、我慢して、そのあとに仕掛けたら、絶対にパスカットできると言っていました。もしサイドまで展開されたら、そこはもうGKを信じるしかない。とにかくバックプレーヤーの3人をDFで止めよう。そんな話をしていました」

「サイドまで展開された場面でも、GKの小峰大知は絶対に面を崩さない。アイツは絶対によけないから。だから顔面に当てられる(笑)。そして勝負どころで木村昌丈さんが出てくる安心感。昌丈さんはベンチからでも声かけが素晴らしいから、チームの士気が下がらない」(下に記事が続きます)

1人多い状況を守る

顔面でサイドシュートを止めた小峰大知(レッドトルネード佐賀)
顔面でサイドシュートを止めた小峰大知(レッドトルネード佐賀)

数的不利な状況でも、脚を使って守る練習をやってきたと、酒井は自信を持っていた。

「DFに話を戻すと、この1年でボールを奪うスキルが、みんなよくなってきた。特に1枚目DFの選手が。中田航太は元々上手だし、所凌央もうまくなってきた。やっぱり『アタックに行っているから、パスカットしやすい』というチーム内の認識ができてきたかな。ただ待っているだけだと、やられますよ。抜かれてもいいから、仕掛けていこう。そういう取り組みを1年間徹底してきました。だから練習でDFの枝に当てても、誰も喜ばない。フリースローを取っても、誰も喜ばない。ボールをカットするのがめざすところだから。シュートが枠外に行って結果オーライではなく、誰も詰めていないことを指摘し合う。とにかく足を動かして、接触を繰り返して、最後はボールを奪う」

「いつも練習では、相手が1人多い想定でやっていました。4対5で、DFはまず当たりに行く。パスをさばかれて、ピヴォットに落とされそうになっても、それをさせない。岩本真典監督は『ひとつ多く動けばいいだろ』と言いますが、それが大変(笑)。でも、その理論が体現できれば、今日のような5対6でも絶対に守れる。広い3対3も練習しましたね。3枚目DFはこれで鍛えられました。1対1は絶対当たりにいく。待たない。引かない。抜かれてもとにかくフォローで相手をつぶす。去年の反省を踏まえて、対大同だけでなく、優勝することを考えて、この1年間やってきました。優勝するなら枝やフリースローじゃない。動いて、当たって、フォローして、最後はボールを奪う。これをずっとやってきました」

ファイトするベテランでありたい

OFではライン際で相手の力をいなしながら、的確な仕事をする
OFではライン際で相手の力をいなしながら、的確な仕事をする

プレーオフに向けて勢いに乗るきっかけとなったのが2026年3月、レギュラーシーズンで豊田合成ブルーファルコン名古屋に勝った試合だった。ベテランの酒井もピヴォットで点を取ったら、ガッツポーズをする間もなく帰陣し、DFでハードワークして、ボールを奪う。「実質2点分」の働きをしていた。

「ファイトできなくなったら、僕は終わりかなと思っています。読みと経験で無駄なく動くタイプのベテランがいるじゃないですか。もちろん、チームによってはいいと思います。でも僕のスタイルは絶対違う。ファイトできなくなったら、僕は引退だと決めているので。経験を生かして、こっちは動かずに、相手が来るのを待とうといった省エネではなく、とにかく動き続ける。それができる時間は減ってくるかもしれないけど、岩見だったり岡松正剛といった信頼できる選手が代わりにいる。限られた時間でも全力でプレーして、仲間がバテたら、また僕が出ればいい。3月の合成戦も、それがハマりました。5分しか出なくても、試合に出ている時間帯は絶対に負けない。やっぱりベテランがファイトできるようでないと。一番ファイトしているベテランでありたい」

「今、僕のやっている仕事は本当に目立たない。それでもチームのために役に立てば、それでいい。代表に入っていた7~8年前とは真逆の考えですよね。だからと言って、所や山口直輝といった若手がガンガン行くのを見て、悪い気はしない。むしろ『もっと行け』と思いますね。『俺がケツを拭いてやるから』と思って見ています。それでチームのバランスが取れるのかな。みんな一生懸命やってきて、わかってきたと思います。ウチにはヨアン・バラスケス(豊田合成ブルーファルコン名古屋)やアンドレ・ゴメス(ブレイヴキングス刈谷)みたいな大駒はいない。それでも優勝するためには何が必要か。幸いにして、ウチには少しばかり機動力がある。だったら全員がそれで勝負しようと」 

ベクトルを自分に向ける

10年前の酒井。闘志むき出しの若者だった=2016年9月
10年前の酒井。闘志むき出しだった=2016年9月

若い頃の酒井は、ガツガツした若者だった。気合とフィジカルで、いつも日本代表候補の「最後のひと枠」をつかみ取っていた。「外国人監督には、気合を見せるのが一番ですよ」とも言っていた。しかし今でこそ代表活動に協力的になったものの、以前のトヨタ紡織九州は、選手を代表に「出し渋る」ところがあった。代表合宿に行かせてもらえなかった酒井は、自チームの首脳陣に「代表に行かせてくれよ」と噛みついた。もっと勝ちたい。もっとうまくなりたい。酒井の真っすぐな向上心が理解されず、誤解が誤解を招き、チーム内での立ち位置が厳しくなったこともあった。

日本代表を諦めた酒井に、新たな光が差し込む。2021年に岩本真典監督が就任した。勝つために必要な要素を的確に伝える岩本監督の練習に触れ、酒井のハンドボール観は大きく変化した。とにかく力で位置を取り、点を取ることに夢中だった酒井が、スライドプレーでDFを連れ去ったり、スクリーンプレーで死に役になることに喜びを見出すようになった。DFでも今まで以上にファイトする。満たされない思いを抱えていた酒井が、取材するたびに「今はハンドボールがおもしろい」と言うようになった

「たまに不満が出たりしますけどね。『そこはキーパーが止めてよ』とか。でも、そこで一度、自分にベクトルを向けて『いや、ダメだ』と反省して、『ゴメン。俺が当たりに行く』と言う。言い訳をして、他にベクトルを向けると楽ですよ。だけど、そこを無理やりにでも自分にベクトルを向けると、やることが見えてきます。自分にベクトルを向ける。これをキーワードにして1年間やってきました。何を言われても、僕は一回飲み込んで、全力でそれをやるようにしています」

「20代の頃はまったくできていなかったですね。バスの降り方が悪かったから、試合当日にベンチを外されたこともありました。膝が痛かっただけですけど、『態度が悪かったから』と言われて。でも今は本当にね、チームのためのひとつのパーツでいいかなと思っています。このメンバーで勝てたらいいなと、本当に思います」 

地に足がついていた

全員でつかみ取った、プレーオフ初勝利だった
全員でつかみ取った、プレーオフ初勝利だった

チームの成熟と酒井自身の成熟がリンクして、3年連続5度目のプレーオフで、ようやく初勝利を手にした。レッドトルネード佐賀がひとつ殻を破れたプレーオフだった。

「2024年、2025年のプレーオフは、フワッと終わったような感じがありました。でも今年はどっしりと地に足がついている感じでした。僕はアップ中からずっと笑顔で、なんでかわからないが、今日は負ける気がしなくて。劣勢でもずっと笑顔でした。味方が点を決めたらうれしいし、相手の攻撃を止めてもうれしいし、劣勢になっても『ああ、来たね』という感じで。13-16とリードされた場面でも『ここで決めたら、ヒーローじゃね?』とか思う訳ですよ」

「結局、相手ではなく、みんなが自分にベクトルを向けたからよかった。みんなが自分のチーム、自分自身に目を向けて、1年間やってきて、チームが上がってきたのがいいですよね」

きっかけはつかめた。あとは頂点めざして、積み重ねていくだけだ。

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